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【子どものミライ】日本発のコンパクト・フライングカーを開発するCARTIVATOR
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2020年を間近に迎えた近年、さまざまなテクノロジーの進化で世の中が大きく変わろうとしている。私たちの子どもが大人になる頃にはどのような時代になっているのか。今の当たり前が当たり前ではなくなっているだろう。KIDSNA編集部の新連載企画『子どものミライ』#02では、空飛ぶクルマの研究開発を行うCARTIVATORプロジェクトを取り上げる。人類の夢を実現に向けて進み続ける、その活動などについて聞いた。
未来の街並みを思い描くとき、クルマが空中を飛び回り行き来するイメージを思い浮かべる人も少なくないだろう。幼い頃、テレビアニメで目にしてきたミライの姿の中には必ずといっていいほど、その光景が描かれていた。
ガソリンエンジンで動く自動車の誕生から130年余りが経った今、電気自動車も乗用車として定着し、人の手を借りずに走行できる自動運転技術の実用化に向けた開発も着々と進んでいる。
そして近年、急速に注目が高まっているのが「空飛ぶクルマ」。世界各国で開発が進み、実用化も近いと語られている。今の子どもたちが大人になった頃には、「空飛ぶクルマ」がスタンダートな時代になっているのかもしれない。
日本で「空飛ぶクルマ」の研究開発を進めている有志団体CARTIVATOR(カーティベーター)は、トヨタ自動車株式会社や日本電気株式会社、パナソニック株式会社、富士通株式会社などがスポンサーとして支援を行い、2050年実用化に向けて着々と前進している。その活動と「空飛ぶクルマ」の全体像について話を聞いた。
誰もが空を飛べる時代を実現する"SkyDrive"
空飛ぶクルマ、何となくイメージはありつつも、その全体像はハッキリしない。どのような大きさで、どのように動くのか。CARTIVATORが開発する”SkyDrive”の概要を聞いた。
ーーまず気になるのが「空飛ぶクルマ」の全体像ですが、どのような作りになるのでしょうか?
「CARTIVATORでは、世界最小で誰もが簡単に、直感的に操作できる空飛ぶクルマ"SkyDrive"を開発中です。
海外では折りたたみ式の翼が付いている飛行機のようなフライングカーモデルが多く開発されていますが、この型は道路や駐車スペースが狭い日本には合わないと考えています。
日本のライフスタイルに定着するのは、コンパクトで垂直離着陸型のモデルです。ドローンのようなイメージですね。プロペラを回転させて、その場からフワッと飛び立つことができる。これなら、飛ぶための滑走路も必要ありません。現在のところ、2人乗り仕様で開発を進めています」
ーー空を進むとなると安全性や運転操作が難しそうに感じます。
「直感的な操作性と、自動運転制御を目指しています。複数のプロペラが回転数を変えることで姿勢を制御し、空中でも安定した浮上を可能にします。
また、ドローンのような自動運転制御機能をつけることで、ドライバーは方向を支持するだけで目的地へと向かうことができる。操作性は自動車よりも圧倒的に簡単になると考えています」
自動車も自動化されつつある今、これから新しく開発される物事は操作しやすく簡潔で、人々のライフスタイルに自然に浸透していくことがベースとなっていくのかもしれない。話を聞くと「空飛ぶクルマ」で買い物へ出かける人々の姿は驚くほど容易に想像できる。「誰もがどこでもいつでも飛べる時代」はそう遠くなさそうだ。
有志団体CARTIVATORとは
日本で「空飛ぶクルマ」の研究開発を進めているのは、企業ではなくボランティアで構成されている有志団体だ。本業をこなしながらミライを担いボランティアで活動する、その団体とはどういった集まりなのだろうか。
次世代へ夢を繋ぐ有志団体
ーー今世界中が注目している事業でありながら、ボランティアメンバーで活動されていることにまず驚きました。
「始めは会社の同僚や学生時代の仲間で集まり設立したのですが、10代の高校生から60代のベテランまで、幅広いメンバーが100人以上集まりました。みんな平日の夜や週末を利用してボランティアで参加しています」
ーー本業を持ちながらの参加に、CARTIVATORへの想いの強さを伺えますね。
「CARTIVATORは"モビリティを通じて次世代に夢を繋ぐ"ことをミッションとして掲げています。メンバーたちは幼い頃から乗り物に心ときめかせ、そこから夢や憧れをもらってきた経験から、『次は自分たちが夢を提供する』という想いを抱き、開発に携わっています。
また、"2050年までに誰もがどこでもいつでも空を飛べる時代を創る"ことをビジョンとしています。今できないことを、将来できるようにする。人間はここまでできる、さらに先へと進める、という前向きなビジョンを描くことも、夢を繋げるひとつの要素だと考えています。
こうしたミッションやビジョンに対する共感はもちろん、『ものづくりをやりたい』という情熱はみんなが共通して持っていますね」
あらゆるジャンルの有志が集う
ーー年齢層が幅広いですが、どのような方々が所属されているのでしょう?
「技術領域メンバーが約6割、事業領域メンバー約4割で構成されています。技術領域には自動車や航空業界で働いているメンバーが多く、事業領域では投資会社やコンサルタントとして働く人、広告系企業や商社などに在籍しているメンバーもいます。
なかには、鳥人間コンテストやロボットコンテスト経験者、ベンチャー経営者なども所属していて、多種多様なスキルを持った専門家が集まっています」
ーー今のメンバーはどのように集まったのですか?
「ホームページでは常にメンバーを募集していますし、ニュースや展示会を見てCARTIVATORの活動を知り、興味を持った人たちが集まってくれました。既存メンバーからの紹介を通じて賛同してくれた仲間も多くいます」
個々の能力を引き出すビジネスモデル
ーーさまざまな人々が集まる分、プロジェクトを進めるうえで気にかけていることは?
「メンバーそれぞれの能力を最大限引き出すために、オープンイノベーション型の組織として、少人数のチーム制で活動しています。こうすることで、メンバーそれぞれの考えや意見を重視しながらプロジェクトを進めることができる。
さらに、複数拠点で開発を進めていくモバイル型プロジェクトであることも特徴的です。メインとなる開発拠点は愛知県豊田市ですが、東京にも技術開発促進拠点を設けています。
メンバーそれぞれが本業を持っているので、その業務に支障が出ないように活動するために、ひとりひとりが自分にとって最適な方法で参加できるよう、模索しながら進めています」
目指す目標やそれに対するワクワク感があり、年代や業種を超え同志としてひとつのものづくりに向かえる環境は、なかなか出会えるものではない。その貴重さも、メンバーそれぞれの活力となっているのかもしれない。
夢と感動を子どもたちへ繋ぐ
メンバーを魅了するCARTIVATORの原点はどこにあるのだろうか。「空飛ぶクルマ」の開発へと繋がってきた想いについて聞いた。
夢の素晴らしさを次世代へ伝えたい
ーー人は古くからクルマで空を飛ぶことを夢みて開発を繰り返していますが、CARTIVATORの発足にはどのような経緯があったのでしょうか?
「共同代表の一人である中村翼は、幼い頃からクルマをはじめ、さまざまな乗り物に夢をもらい、自動車エンジニアになることを目指し突き進んできました。
実際に大手自動車メーカーに就職し夢を叶えたとき、制約を設けない『理想のクルマ作り』を通じて、次世代へ夢をもつことの楽しさや素晴らしさを伝えていきたいと考え、仲間を集い『何か面白いことやろう』と企画を始めたことが、CARTIVATOR発足のきっかけとなりました。
もう一人の共同代表である福澤知浩は、中村と同じように幼い頃から身の回りの電気機器の仕組みに興味をもち、その知識を深めてゆく過程で先人の知恵と想いに感動し、ものづくりに夢中になってきました。
CARTIVATORが開発する"SkyDrive"も、多くの人々の想いと熱意が詰まっています。そして"SkyDrive"が人を乗せて飛び立つ瞬間、大人だけでなく、それを目にした子どもたちは心の奥深くから溢れるようなワクワク感を体感することができると信じています」
2020年東京五輪でデモフライトを実現し人々に感動を
ーー2050年には誰もが空を飛べるミライに向けて、まずは2020年発表を目指されているそうですね。
「2020年東京五輪でのデモフライトを、目指すべき第一歩として掲げています。世界中の人々が注目する式典で、聖火台に火を灯すというインパクトのある登場をすることで、次世代を担う世界中の子どもたちに、より大きな驚きと夢を与えられると考えています」
ーーテクノロジーの進化を象徴する出来事として、歴史に残りそうですね。実用化に対する具体的な予定は立っていますか?
「2023年には一般発売を開始できるよう、目標として定めています。今年からは商用モデルの開発を本格的にスタートする予定です。
また、CARTIVATORでは、私たちの活動に共感してくれた中高生メンバーが活動する”CARTIVATOR NEXT”というサブプロジェクトにも取り組んでいます。
空飛ぶクルマの3Dゲームをプログラミングなどの技術を使って開発しており、Maker Fairに出展した時は、実際に開発した中高生がプレゼンテーションを行いました。若年層の教育にも今後より力を入れていきたいと考えています」
「好き」はやがて夢や憧れに変わり、人を突き動かす熱意へと形を変えていく。叶えたい希望を持ち動き出すことで感動や達成感、多くの価値ある出会いへとつながり、不可能を可能にしてゆくのだろう。その挑戦を人々が楽しむ姿に、子どもたちは目を輝かせ、憧れをいだくに違いない。
CARTIVATORが考えるこれからのミライ
最後に、CARTIVATORが考えるこれからのミライについて聞いた。
ーー今の子どもたちが大人になる頃には、空飛ぶクルマが当たり前になっているかもしれません。その先、クルマはどういった進化を遂げていくと考えますか?
「地上走行と空中飛行が境界なくつながり、例えば家のベランダから飛び立ち、地上走行と飛行を乗り換えることなく使い分けながら、目的地まで最短時間で行けるようになることを想像しています。
空飛ぶクルマに乗り目的地を設定したら、いつの間にか目的地に着いている。そんな世界です」
ーー移動すること自体がアミューズメントですね。そういった楽しい、夢のあるミライを描き実現するために、子どもたちにはどのような能力や教育が必要だと考えますか?
「夢に対して真正面から向き合う能力が必要となるでしょう。
ミライを思い描き進むことは、自分の望む人生を歩むことにつながります。そのために、誰に何を言われようと自分の夢に向き合い続けることが大切です。
その能力を養うためには、自分のやりたいことは何かを考える時間を作り、どうしたら実現出来るかを考える、そんな機会を設けることが必要ではないかと考えます。世間が良いとする評価軸ではなく、自分が納得する評価軸を作ることが大切だと思います。
『誰かに良いと言われたミライ』ではなく、『自分が作るミライ』を思い描き、生きていってほしい。
自分が生きたい人生を生き抜くためにどのような道を歩むべきか、そのためにはどういった勉強をすべきかを考え、さまざまな経験を通じて自分の好きなことを見つけて行ってほしいと思います」
編集後記
私たちはもはや、小型無人機が飛んでいても驚きはしなくなった。CARTIVATORが目指す「誰もがどこでもいつでも飛べる時代」も、そう遠くないミライにやって来て、クルマが空を飛ぶ光景を当たり前のように受け入れるようになるのだろう。
子どもの頃思い描いたミライの姿はもうすぐそこまでやって来ている。子どもたちとそのミライを体験できることは、夢をもちミライへワクワクしながら進む素晴らしさを伝える、絶好の機会でもある。
子どもたちが、大人になり活躍するさらなるミライへ想いを馳せられるよう、私たちもでき得る限りの力でサポートしていきたいと感じた。
写真提供:CARTIVATOR
KIDSNA編集部
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