こちらの記事も読まれています
【調査】子どもに選挙をどう伝える?他国との違いや保護者の想いは
10月31日には衆議院議員総選挙が控え、今後の政治の動きがますます注目されている。日本では若者の投票率の低さが問題視され、投票を促す動きも増えてきているが、投票率の高い諸外国と比べると何が違うのか。また子育て中の保護者は選挙や政治をどのように捉え、子どもにはどのように教えていきたいと考えているのか。
今年も議論されている、日本の若者の投票率の低さ
10月31日(日)には4年ぶりの衆議院議員総選挙が行われるが、日本の若者における投票率や政治に対する意識の低さは度々話題にあがる。実際にOECDの調査では下記のようなデータも出ている。
2017年の衆議院議員総選挙では、18~24歳の投票率は32.6%と低く、同時期のOECD主要国の中でも投票率は最下位である。
先進国の中には義務投票制の国もあるが、そうではない欧米諸国でも高い投票率を維持している。このような高い投票率を維持している国と日本では、何がここまでの差異を生み出しているのだろうか。
若者の投票率が高い北欧の選挙に対する意識の違い
OECDの調査で18~24歳の投票率が高かった北欧諸国について、ノルウェー在住のジャーナリスト、鐙麻樹氏によると、北欧は若者の選挙・政治参加が積極的で選挙期間中は祭りのように楽しく明るい雰囲気があるという。
鐙さん
また、学校や家庭でも積極的に政治の話をするのが当たり前の光景だと話す。
鐙さん
小中高生が社会科の課題として選挙小屋で各政党に政治の質問をしたり、学校でも選挙の争点を賛成派と反対派に分かれて議論をしたり、政党の青年部を招いての討論や模擬選挙を開催することもあります。「中立」という言葉は日本ほど使われず、選挙において若者が自立した決定と選択ができる手伝いを学校はしています。
「食卓で政治の話をすることもあるし、両親や子どもの支持政党が違う」というエピソードもよく聞きます。意見が違う人と会話をすることは、むしろ勉強になるという姿勢があります。
北欧では、選挙や政治の話題がポジティブなものであり、子どものうちから当たり前に触れているようだ。日本では、政治の話は学校でも家庭でもあまり積極的には触れられない場合が多く、環境が大きく違うことが分かる。
実際に子育てをする保護者の声は
選挙に対する家庭での会話や教えについて、実際に子育てをする30~40代の保護者96名へアンケートを取った。
今回の選挙は投票に行く予定か
「今週末の選挙に参加するか」という質問には、80.2%が「はい」、19.8%が「いいえ」と回答。「はい」と回答した人に理由を聞くと、
40代/2児の母親
将来子どもたちには、日本に住んでて良かったと思ってほしいから、できることはしたい
30代/11歳、7歳、5歳児の母親
子どもたちが生きるこの国や街のことを、少しでもよくしようと考えてくれる方に政治をしてほしいから
という意見があった。
一方で「いいえ」と回答した人の中からは、
30代/6歳児の母親
どうしても仕事の都合がつかないし、入れたいと思える候補者や政党もない
40代/8歳・5歳児の母
正直、国にはもう期待していないというか、投票しても意味がないと感じてしまう
との声があがった。
選挙の意味や必要性を子どもに話したことがあるか
「選挙の意味や必要性など、子どもに教えたことはあるか」という質問に対しては、「はい」83.3%、「いいえ」16.7%という結果となった。「はい」と回答した人の中には、
30代/7歳・6歳・4歳児の母親
普段から子どもが疑問に思ったことに関しては、必ず説明している。身の周りの出来事に対し当事者としてもっと興味や疑問を持って欲しいから、選挙は必ず必要なことと教えている。
30代/13歳・11歳児の母親
行くことが当たり前であることを伝えたい。将来子どもが選挙に関心を持つように、環境づくりはとても大事だし親の務めだと思う。
という声があった。
「いいえ」「どちらともいえない」と回答した人からは、
40代/2歳児の母親
子どもから何か聞かれたらその時に話そうと思う
30代/4歳児の父親
まだよく分からないと思うから話してはいないけれど、選挙の場には連れていくようにしている
などの意見があがった。
子どもに選挙・政治をどのように教えていくか
「将来子どもには投票に行くようになってほしいか」という質問には94.4%の人が「はい」と回答した。
また、「子どもに対して政治や選挙の話をどのように伝えるか」という質問では、多くの真剣な思いが寄せられた。
30代/4歳児の父親
もう少し子どもが大きくなったら選挙・政治の話をしたいと思う。選挙権を持った時に自分で考えて参加・不参加を選択できるようになってほしい。今はとりあえず「選挙は行くものだ」と知ってもらいたいので、一緒に投票に連れて行くようにしている。
40代/2歳児の父親
家族で選挙・政治の話をするのは自然なことだと思う。ニュースを見て自分の意見や考えを述べられる人間になってほしいとも思う。ただ、極端な思想や激しい議論は避けたいのが本音。そこの考え方が違うと家族でもギクシャクする気がするので、難しいところなのかもしれない。
40代/8歳・6歳の母親
家族はもっとも身近な存在であり子どもの価値観を形成する重要なコミュニティの一つであるため、海外のように家族で政治について会話する習慣づけはとても大切だと思う。小さい頃から選挙や政治の話を積極的にするほうが、大人になってからも「自分ごと」になりやすいと思う。
30代/11歳・7歳・5歳児の母親
わが家は夫と私の政治的思想にも若干の違いがあるけれど、反対意見を聞くことで単に否定するのではなく、お互いに理解が深まることもある。しかし、家族であっても親が政治的思想をおしつけることはあってはならないと思う。今はまだ何色にも染まりやすい子どもたちだからこそ、その点は気をつけなければいけないと感じている。
子どもの頃の体験が投票への意識を変える
2016年に総務省が18〜20歳の有権者に実施した「18歳選挙権に関する意識調査」では、子どもの頃に親の投票についていったことがある人の投票率は63.0%で、ついていったことがない人よりも20ポイント以上高いという結果が出ている。
また、高校の授業で選挙や政治について学んだ人の投票率は55.7%で、高校の授業で学ばなかった人よりも約7ポイント高いという結果もある。
子どもの頃の家庭や学校での体験が、大人になってからの政治・選挙への興味や行動に対し、顕著な影響を与えていることが見てとれる。
今回保護者の意見を聞き、政治に対し諦める気持ちが強い人もいる一方で、「子どもが生まれてから選挙・政治に対しての捉え方が変わった」という人も非常に多いことが分かった。
今後、選挙・政治の話題が学校や家庭などでもオープンに語られる社会になることで、子どもたちの選挙・政治に対する興味の土台をつくり、それが現代の日本が抱えている多くの社会問題の解消につながっていくことを期待したい。
Profile
鐙麻樹
あぶみあさき。
オスロ在住ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信。
上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程 修了(専門:ネット・テレビ・ラジオ・映画・新聞、副専攻:ジェンダー平等学)。
ノルウェー国際報道協会 理事会役員。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーから優秀な大使として活動実績を表彰される。
朝日新聞GLOBE+、地球の歩き方オスロ特派員ブログ連載。
著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』
【調査概要】
・対象:保護者に向けてアンケート調査を実施
・調査期間:2021年10月26日~2021年10月28日
・回答数:96人
<執筆>KIDSNA編集部
ノルウェー、フィンランド、スウェーデンでは選挙の時期になると、各政党が同じ場所にスタンドを立て「選挙小屋」という空間をつくり、市民と政治について会話をします。
各政党の違いを比較できる工夫がメディアや暮らしの中にも多く、若い人の政治参加も普通のことです。各政党の青年部で活躍した実績があると、就職活動で有利にもなります。