不妊カウンセリングのメリットとは?生殖心理カウンセラーに聞く

不妊カウンセリングのメリットとは?生殖心理カウンセラーに聞く

人によって治療期間や心理面、体調面の負担が大きく異なる不妊治療。周囲の人に相談できない、パートナーと足並みをそろえて取り組めないなどといった悩みをひとりで抱える人も多くいます。日本ではあまり普及していない「カウンセリング」を、不妊治療の場でも上手く活用するためには?生殖心理カウンセラーの平山史朗さんに話をうかがいました。

平山史朗
「妊活や不妊のことを秘密の守られる場で第三者に相談したい」
「メンタルをサポートしてもらいながら不妊治療を行いたい」
「病気じゃないし、精神科には行くことは考えていないけど不妊の悩みがある」

日本にはあまり根付いていないカウンセリング文化。しかし欧米をはじめとした諸外国では、ちょっとした心の不調や、パートナーとのコミュニケーショントラブルでカウンセリングに出向くことは一般的です。

不妊治療における不安を専門的な知識を持ったカウンセラーに相談することへのメリット、実際に受診する場合のクリニックの選び方などを生殖心理カウンセラーの平山史朗さんに話をうかがいました。

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日本における「不妊カウンセリング」という言葉の誤解

――「不妊カウンセリング」とはどういったものなのでしょうか?

まず、注意したいのは日本で「不妊カウンセリング」というと、諸外国でイメージするような、いわゆる心理に関する専門家が患者のストレス軽減などの目的で行うものとは異なる意味で使われていることが多いということです。

かつての日本の不妊治療の現場では、診察の際に患者に充分な説明がなされないまま「先生に従って治療を受けてください」といった一方通行の診療がスタンダードだった時代がありました。

そんな状況を改善すべく、看護師さんが中心となって「患者へ治療についてきちんと説明し理解してもらう場」を設けた、それを「カウンセリング」と呼んでいるケースがあるのです。

現在では少しずつ、「治療説明」の意味合いのカウンセリングではなく「患者の心理的ケア」を意味する不妊カウンセリングの場を併設するクリニックも出てきました。

  
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――カウンセリング可能なクリニックを探すにあたり、それらを見分けるにはどうしたらいいでしょうか?

現状では、心理職の専門的資格を持っているスタッフが居るかどうかをクリニックに確認するのが一番確実です。「生殖心理カウンセラー」が勤務している場合はわかりやすいでしょう。

そのほか、不妊についての専門性にはばらつきはありますが、「臨床心理士」「公認心理師」が日本では心理職の専門資格ですので、それで判断していただきたいと思います。逆に「不妊カウンセリング」とうたっていても、担当者が心理職でない場合はそれを明らかにしていない場合が多いです。

  
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カウンセリングの動機はさまざま

――どのような目的で来院する方が多いのでしょうか?

「妊娠に向けて少しでも良い状態にするために、ストレスを軽減しなければいけないのではないか」との思いがあって訪れる方が多くいらっしゃいます。

ただ、ストレスと不妊の関係についてはわかっていないことも多いのは事実ですが、アメリカ生殖医学会の患者向け情報資料によると、現段階で「ストレスが直接的な原因で不妊になるケースはほとんどない」といった見解が主流となっています。

とはいえ、過度なストレスが身体に良いことはないので、カウンセリングを通してストレスマネージメントをすることはよくあります。

不妊治療って、失敗の連続なんですよね。個人の能力や努力ではどうにもならない失敗。その失敗が続くと、どんどん自信がなくなり、自尊心が失われていきます。自己否定もしてしまいます。
  
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また、「妊娠するためには前向きに頑張らねばならない」という“前向き信仰”にとらわれて、「前向きになれない自分」を責めて苦しんでいる方もいます。

そんな時に、カウンセリングを利用し、少しでも心持ちを軽くする、考えを整理する、「こだわり」を和らげることは妊活だけでなく、日常生活にとっても有効だと考えられます。

それから、ケースとしてあるのは、「不妊治療の辞め時」に関する相談ですね。さまざまなステップを試していきますが、不妊治療には妊娠以外の明確な「終わり」はありません。精神的、経済的負担を抱えながらも治療を終える決断に踏み切れない患者さんが、ご自身の納得のいく選択ができるようお手伝いもします。
  
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不妊治療を始める前からカウンセリングを受けてもいいって本当?

――カウンセリングは、不妊治療をはじめたら、どのタイミングで行くのが適切なのでしょうか。

「この時期が適切」という正解はありません。

不妊治療を始める前段階から、不安要素や心のもやもやを吐き出せる場として日常的に利用するのはもちろん理想的です。海外ですと、パートナー間の小さな不安要素を解消するために気軽にカップルカウンセリングを利用することも多いですが、日本でそのようにカウンセリングを利用している人はまだまだごく一部だと言えますね。

実際には、治療を始めて、行き詰まったり、人には言えない思いを抱えている時にひとつの解決の糸口として訪れる方が多いように思います。

ただ、治療が続けられないほど思い悩み、うつ状態になってしまう前に、気負いせず、気軽にカウンセリングを利用してほしいですね。
   
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――期間はどのぐらい通えばよいのでしょうか?

数回でカウンセリングを終了する方もいれば、数年単位で通われる方もいて、さまざまです。

うつ病などの精神的な病気に対するカウンセリングでは、治療プログラムが明確にありますが、不妊カウンセリングでは、「病気の治療」ではなく自己存在や人生全般に関わる問題を扱うことが多いので、「◯回で解決しましょう」と始めに決めることは難しいのです。

一度のカウンセリングで「スッキリしたのでとりあえず自分でやっていけそうです」という方から、何年もかけて自分の生き方を見つけていくプロセスにお付き合いすることもあります。

「長期間利用しているから私は治っていないんだ、悪いんだ」ということでもありません。

ただ、「1回のカウンセリングで劇的に悩みが解消する」と言い切れるものではないので、心持ちとしては「何回か通ってみて自分にどう役に立つか試してみよう」ぐらいの気持ちで受診されるぐらいがちょうどいいと思います。

   
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いざ、カウンセリング受診へ。何科を受診すればいいの?

――不妊カウンセリングを受ける場合、何科を受診すればよいのでしょうか?

「不妊であることへの生きづらさ」から、うつ状態や不安、不眠などの“症状”が出ている状態でなければ、心療内科や精神科へ受診する段階ではありません。

精神科などの専門医は、不妊治療の知識がないことがほとんどですし、「相談」の段階で出向く患者さんには処方する薬も必要ないので、ニーズが合わないのです。

一番よいのは、不妊治療のクリニックに併設しているカウンセリングを利用することです。臨床心理士や、生殖心理カウンセラーの資格を持った専門家が常駐している所をおすすめします。

また、同じ背景を持つ当事者たちが集まり、話を共有するピア・カウンセリングに参加するのもよいでしょう。
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都道府県の各自治体が主体となって、不妊・不育に関するピア・カウンセリングを行っていることもありますので、お住まいの地域で検索をしてみるとよいと思います。

ただし、ピア・カウンセリングと一口に言っても、行うピア・カウンセラーの訓練の程度は様々で、「茶話会」「おしゃべり会」などの名前で催されているものの場合は特に対人援助の訓練を受けていない方が主催している場合も少なくありません。

そうなると、カウンセリング外の時間に参加者の方と不妊治療に関する根拠に基づかない情報の交換を行い、かえって不安が増長するケースもあります。

同じ体験をしているのだから、すべてを分かってもらえるはずと期待してしまうと傷ついてしまうこともあるので、あくまで自分の思いを言ったり、他の人の体験を聴く場として利用し、「こういう人もいるんだ」「私もこういう対処は役に立つかな」と参考にする程度にしておくことが大切です。

日常生活を思うように送れず、薬を飲まなくてはいけないほどのうつ状態になった場合は、不妊治療そのものを中断し、精神科や、心療内科を受診してください。

   
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カウンセリングでは、すぐにアドバイスや答えはもらえない。「聞いてもらう」体験に意味がある

――カウンセリングでは、実際にどんなことを話すのでしょうか?

カウンセラーはまずいらっしゃった方の話したいことをお聞きします。大仰な悩みでなくても、「こんなことを悩んでいることが恥ずかしい」とか、「どうせわかってもらえないだろう」となかなか話せなかったこと、ずっと心のなかでもやもやして気になっていたことなど、なんでもおうかがいします。

自分の話について、すぐに「そんなことないよ」とか「大丈夫」といった否定やなぐさめで結論づけるのではなく、しっかり聞いてもらう体験そのものに意味があります。

患者さんの「困ってきた歴史」を尊重するので、簡単にアドバイスをすることはしません。

少し話を聞いただけでできるようなアドバイスは、患者さんにとって「そんなことはわかってる」と思うでしょうから。浅いアドバイスではなく、その人がそれまでできなかった新たな解決が見つかるよう援助していきます。

また、不妊の方は特にそうですが、これまでわかってもらえなかった「傷ついた体験」を持っておられる方が多くおられます。そのためカウンセラーは簡単に「わかります」とは言わないかもしれません。

「基本的に人と人がわかり合うことは難しい、だからあなたのことも簡単にわかるとは言えない、でもあなたの苦しみを理解して解決のお手伝いがしたいから、話を聴かせてください」というスタンスでお話をうかがいます。

  
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ハードルの高い「カップルカウンセリング」。パートナーを誘うためのポイントは

――ふたりでの会話だけでは悩みが解消できないことから、カップルでの不妊カウンセリングを検討する方もいます。しかし、パートナーをカウンセリングに誘うことは大きなハードルがあります。どのように声をかければよいのでしょうか?

たとえば女性から男性パートナーへ声をかけることを想定した場合、「カウンセリングに行こう」と言われると、多くの男性は、建設的な解決を目的としていることが理解できず、「自分が一方的に糾弾されるのではないか」「自分は間違っていないのにどうしてカウンセリングなど受けなければならないんだ」と否定的に捉えてしまいかねません。

カウンセリングへの認知がまだ広がっていないためこうしたことが起きるのだと推測されます。

  
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ひとつの解決策として、「私たちの悩みや問題を聞いてもらいに行こう」という切り口ではなく、「あなたの困りごとも相談できるみたいだから行ってみない?」という声のかけ方を提案したいですね。

不妊治療を通して、当然女性だけでなく、男性側にもなんらかの心理的な負担や、吐き出せない感情はあるはず。

男性側が主体的になれるように、かつ、男性自身にもメリットの大きいことなのだと理解してもらうと、カウンセリングへの印象が変わるのではないでしょうか。

――カップルカウンセリングは、ふたり同時に受診することは必須ではなく、それぞれに受診することもできるのでしょうか。

はい。カップルおふたりで受診し、カウンセラーが間に入る形もありますし、それぞれに時間をとって話をうかがう場合もあります。
  
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数千円から受診可能。身体をケアするような気持ちで利用して

――最後に、不妊治療中の方へ、上手にカウンセリングを取り入れるためのアドバイスをお願いします。

カウンセリングは、心理的負担や、人に話せない悩みなど、医療では解決しえない「困りごと」を解決する場所です。

カウンセリングを利用してみることを決して大ごとに捉えなくて大丈夫です。

みなさん、「少し身体を使いすぎて疲れたな」という時にマッサージやエステを利用しますよね。同じように、「少し心を労わりたいな」という時に、カウンセリングの受診を選択肢のひとつとして考えてみて下さい。

カウンセリングは病院の治療と異なり自己負担のため「保険が効かないから高い」という印象を持つ方も多いようです。

しかし、施設によって価格帯はまちまちですが、1回30分~50分で数千円と、まさにマッサージと同じような値段で受診することが可能です。

保険適用の治療と比較すると割高に感じるかもしれませんが、リラクゼーションの一環だと考えると、みなさんが普段使っているお金と大差はありません。

  
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不妊治療の長い旅の中で、自分を責めてしまったり、他人と比べてしまうことは誰にでもあります。
 
そんな時に、心を癒す手段がひとつでも増えるのだとポジティブに捉えてもらえればと思います。


<取材・執筆>KIDSNA編集部
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平山史朗

広島大学教育学部心理学科卒。広島HARTクリニックで生殖心理カウンセリングを開始し、アメリカカリフォルニア州サンディエゴのThe Center for Reproductive Psychology(生殖心理学センター)にて不妊症患者に対するカウンセリングの個人指導を受ける。平成13年~平成15年厚生科学審議会生殖補助医療部会委員。平成14年より東京HARTクリニックの常勤カウンセラー。2021年不妊の心理的問題に特化したカウンセリングルーム『東京リプロダクティブカウンセリングセンター』を開設。(財)日本臨床心理士資格認定協会認定臨床心理士(登録番号10069)。公認心理師(登録番号 3208)。日本生殖心理学会認定 シニア生殖心理カウンセラー

東京リプロダクティブカウンセリングセンター

2021年07月01日

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