【防犯/後編】子どもが「犯罪が起こる場所」を見抜くために親ができること

【防犯/後編】子どもが「犯罪が起こる場所」を見抜くために親ができること

世界的に安全な国として位置づけられている日本。しかし、子どもの誘拐や性犯罪被害のニュースは後を絶たない。この連載では、海外の防犯対策と日本の現状、親として認識すべき安全対策、子どもへの安全教育について紹介する。第二回目は、地域安全マップの考案者であり立正大学文学部社会学科教授の小宮信夫氏に話を聞いた。

犯罪が起こりやすい景色の解読法

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――前編では、防犯の新常識として、人ではなく場所に着目した「犯罪機会論」を教えていただきました。犯罪が起こりやすい「入りやすく見えにくい場所」を回避することが予防につながるということですが……。

まずは親御さんが正しい知識を身につけて、危険な場所と安全な場所を見抜けるようになるといいですね。

たとえば次のイラストを見て、どちらが危険か判別できますか?

 
 

危険なのはAです。

住宅地であっても高い塀や生垣で家の窓が見えない道路は「見えにくい」場所となる。塀がフェンスなら、窓から道路が「見えやすい」ので、犯罪者は窓から見られているように感じ犯行におよびにくい。

よく、地域の人で「この辺は共働きが多いので、窓はあるけども昼間は人がいないから安全ではないですよ」という方もいますが、実際はそこまでは関係ないんです。犯罪者はそういう情報を知らないので、景色だけで判断していますから、窓がたくさんあれば、カーテンがしまっていようが、嫌なものは嫌なんです。

他にも、家の前にお花や植木があると、水をやりに誰かが出てくるかもしれないと思うので嫌だと感じます。だからこそ、事件現場の多くは殺風景な場所なところで起きています。

次に、子どもがよく行く公園ではどうでしょうか。

 
 

危険なのはAです。

高い木々に囲まれた場所は「見えにくい」場所であり、人目につきにくいため犯罪を実行しやすくなります。フェンスなら「見えやすい」ですし、しかもフェンスで「入りにくい場所」にもなります。

また、落書きが放置されたりゴミが散乱している場所は、地域の無関心さを感じさせ、人の目が向けられていないことを犯罪者に伝えることになります。つまり、見て見ぬふりをされそうな「見えにくい場所」です。

――なぜ危険か説明を受けながら景色を見れば、子どもでも判別は難しくなさそうですね。

教える機会は山ほどあると思いますよ。子どもと一緒にいろいろな景色を見ていくと、こちらの方がより安全、こちらの方が危険というのがわかってきます。

通学中ずっと警戒していなさいというのは無理な話ですから、自分の判断によって警戒レベルを高めたり緩めたりする。ベースに正しい知識があれば、直観によってスイッチのオンオフを切り替えることができるようになります。

小宮信夫(こみや・のぶお)/立正大学文学部社会学科教授。英ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科修了。警察庁「持続可能な安全・安心まちづくりの推進方策に係る調査研究会」の座長を務めるほか、全国の自治体などの防犯アドバイザーを歴任。地域安全マップの考案者。著書に、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館)がある。
小宮信夫(こみや・のぶお)/立正大学文学部社会学科教授。英ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科修了。警察庁「持続可能な安全・安心まちづくりの推進方策に係る調査研究会」の座長を務めるほか、全国の自治体などの防犯アドバイザーを歴任。地域安全マップの考案者。著書に、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館)がある。

「入りやすい」「見えにくい」のキーワードで景色を見る

――小学校や自治体で配られる地域安全マップや登校ルートマップはよく目にしますが、これも場所や景色を見抜く上で使えるでしょうか。

写真が載っていない地域安全マップは、すべて偽物だと思ってください。

子どもは地図を見ながら学校へ行くわけでも、友だちの家に遊びに行くわけでもありませんよね。地図はそう毎日見るものではないはずです。

でも、景色は必ず見ているはず。ですから、安全か危険かは景色の中で区別するべきものなんです。景色のない地図、つまり、写真なしでは決して区別することはできません。

子ども一人ひとりの景色解読力を高める地域安全マップづくり(提供:小宮信夫)
子ども一人ひとりの景色解読力を高める地域安全マップづくり(提供:小宮信夫)

だからこそ、親子で外出する機会にフィールドワークをして話し合うだけでも、子どもにとって防犯対策になるのでおすすめです。

公園に行くたび、買い物に行くたびに「ここはどうかな?」と話し合う。テレビを見ながらでもいいですし、絵本や雑誌などにも景色は出てきますから、それを見て会話することから始めてみてください。

※写真はイメージです(iStock.com/monzenmachi)
※写真はイメージです(iStock.com/monzenmachi)

未就学児の場合は自分で判断することは難しいので、「ここにいると誰にも見てもらえないね」などピンポイントで教えてあげるといいですね。

子どもと歩くときは「窓はあるかな?」「花壇はあるかな?」「落書きしてある場所があったら教えてね」などゲーム要素を取り入れると、子どもは飽きずに何時間でも取り組めますよ。

少し大きくなれば、「入りにくいか入りやすいか」「見えやすいか見えにくいか」のキーワードで子どもに考えさせるのがいいでしょう。

(提供:小宮信夫)
(提供:小宮信夫)

たとえばこのトンネルは通学路になっていますが、ここで子どもに「ここは安全?それとも危険?」と聞くと、「壁だらけだから誰からも“見えにくい”場所だ」となります。さらに、トンネルは両サイドから簡単には入れるため、キーワードを使って“入りやすい”、つまり犯罪者が好む場所と言えます。

(提供:小宮信夫)
(提供:小宮信夫)

この駐輪場は、逆に塀もないため周囲から見えやすく、安全です。花が咲いていることから、「きれいな花が咲いているとみんなが見るでしょ。だから“見えやすく”なって犯罪者は嫌がるね」と教えられます。

犯罪が起こりやすい場所を回避して日常生活を送るのが難しくても、どういう場所で警戒すべきかがわかるだけで、ほとんどの犯罪は防げます。

どうしても入りやすく見えにくい場所に行かなければならないときは、誰かと一緒に行けばいいし、一人のときは、誘われても、頼まれても、断っていいんだよ、と教えてあげてください。

――この場所は安全か危険か?それはなぜか?という会話を日ごろから子どもとしていればいいんですね。

ほかにも、実際に親が「こっちに猫の赤ちゃんがいるよ」と声をかけ、周囲から見えにくい場所に誘い込んでみるといいですよ。子どもは連れ込まれていることに気づかず、一生懸命猫の赤ちゃんを探します。

そこで「今いる場所は入りやすくて見えにくい場所だよね」と教えてあげる。そこで子どももだまされたことが分かれば、それが抵抗力、免疫力になります。子どもには、失敗体験として残りますが、それが二度と失敗しない行動変容につながっていくのです。

※写真はイメージです(iStock.com/Satoshi-K)
※写真はイメージです(iStock.com/Satoshi-K)

言葉で説明すれば子どもたちは「わかった」と言いますが、わかっていないことの方が多いものです。ですから、シミュレーションは大事ですね。ご近所の人に協力してもらったり、親同士で企画してみるのもいいと思います。

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声をかけられた場合も「場所」を見て区別する

――「お父さんが怪我したよ、病院に行こう」など子どもが信じそうな言葉をかけて連れ去る犯罪者もいると聞きますが、こうした場合にも景色解読力は有効ですか?

この場合も僕は、声をかけられた場所で判断しなさいと教えています。本当のこともあり得ますから、すべてを嘘だと思い込む必要はありません。

安全な場所で声をかけられたら、信用してもいい。危険な場所で声をかけられたら、信用してはいけない。

話の内容や、その人の服装などではなく、その場の景色で安全か危険か、信用してもいいかどうかを判断しましょう。

たとえば、ガードレールがある歩道は、車を使う人にとっては「入りにくい場所」。だから車に乗った誘拐犯がそこに現れることはまずない。

※写真はイメージです(iStock.com/Asobinin)
※写真はイメージです(iStock.com/Asobinin)

同様に、植込みのない道路は、簡単に歩行者を自動車にのせられる「入りやすい場所」となり、犯罪が起こりやすくなります。

それから、フェンスで囲まれていない公園は、大人たちはどこからでも公園に入ってこれるので、犯罪者も簡単に子どもに近づくことができ、あっと言う間に子どもを連れ出せます。

声をかけられた場所が、誰にとっても「入りやすいかどうか」、そして周囲から「見えやすいかどうか」。道路で起こる誘拐事件の100%近くがガードレールのない場所で起きています。

車の中から「お父さんが怪我したよ、病院に行こう」と声をかけられたとき、その車がその瞬間どこに止まっているかで、ことの真偽を見極めましょう。

ガードレールのある場所なら安全だし、ガードレールが途切れた場所なら危険。未就学児でもガードレールの有り無しくらいはわかりますよね。

※写真はイメージです(iStock.com/Imgorthand)
※写真はイメージです(iStock.com/Imgorthand)

――通学路で指定されている道路でも、ガードレールがない場所も多いですよね。

多いです。その場合は、ガードレール以外の要素で判断しましょう。

通学路の両サイドに家があり窓がたくさん見える場所であれば、誘拐される可能性は非常に低くなります。逆に、片側に家の窓が見えても、もう片方が線路や川の場合は「見えにくい」ため、危険な場所となる。

誰からも見てもらえそうにない場所は危ないという認識をもっていれば、そういった場所では警戒するようになります。

まずは親の防犯知識をアップデートする

――防犯力を高めるために地域ぐるみでできる活動はありますか?

いろいろな人とコミュニケーションをとる機会をつくることですね。怖いと思うばかりで家に閉じこもってしまったり、知らない人とまったく話をしないのは問題です。

※写真はイメージです(iStock.com/kohei_hara)
※写真はイメージです(iStock.com/kohei_hara)

コミュニケーション能力の高い子ども、ちゃんと自己主張ができる子どもというのは誘拐されにくい傾向にあります。知らない人とも堂々と渡り合えることはとても大事なんです。

その力を養うためにも、近所の人と話す習慣をつけたり、親同士の集まりで子どもをしゃべらせる機会を作るとよいですね。社会性を高めていくことで、騙されにくい子どもへと成長していきます。

未就学児の場合はひとりで行動する範囲を広げることはできませんが、年齢とともに範囲を広げていく必要があります。最終的にはひとりで行動するように必ずなるわけですから。ずっと閉じ込めていた子が突然ひとりで行動するようになる方が、よっぽど危険です。

それでも外は危ない、怖いと思うでしょう。それでいいんです。危ない場所へ行くときに「危ない」と意識していればOKなんです。危ない場所にいるのに危ないと認識できないことが一番危険なんです。

山登りをするときに山の危険を知っているか知らないかで準備も対応も違ってくるのと同じで、防犯も、危険性を正しく認識していれば、準備も対応もできるんです。

――親が正しい知識をもっていれば、いつでも子どもとフィールドワークができ、子ども自身に防犯力を身につけさせられるのですね。

そうです。それが一番大事で、難しいところ。

※画像はイメージです(kazoka/Shutterstock.com)
※画像はイメージです(kazoka/Shutterstock.com)

今の親御さんたちは代々、間違った知識を繰り返し繰り返し教わってきています。保護者参加のフィールドワークを行うと、子どもが景色を見て考えている横で親御さんが「街灯がない。暗くなるから危ない場所だよ!」と、間違った知識を伝えてしまうこともある。

これではまた、子どもたちが間違った知識を学び、そのまた子どもたちへと伝えることになる。この連鎖を断ち切らないといけません。

――確かに、先入観に邪魔されることは多そうです。親が正しく学ぶコツはありますか?

まずは、これまでの安全な場所、危険な場所の概念を一旦捨てて、まっさらな状態で景色解読の方法を学んでほしいと思います。誘拐事件が起きたときなどは、ニュースで流れる現場の景色をしっかり見てほしい。

危険が迫ったときは直観力を働かせる必要がありますが、ベースに正しい知識がなければ、直観力は行動を間違った方向に導いてしまいます。

子どもを狙った犯罪者は、何度も失敗しながら学習し、子どもをだますテクニックをレベルアップしています。しかし、間違った常識がまかり通っている日本は、それに追いついていません。

子どもたちを守るために、まずは親御さんたちが正しい知識を身につけること。

そして日常生活を通じて、子どもたちが安全な場所と危険な場所を見抜き、犯罪を予測し、危険な状況になることを事前に回避できるようにすることが真の“防犯”です。

【防犯/前編】いわゆる防犯は間違い。「場所」で見る新たな方法

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<連載企画>子どもの防犯新常識 バックナンバー

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<取材・執筆>KIDSNA編集部

2020.12.15

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