【小川嶺/後編】“時間は有限” 革新的な時間の使い方を生み出すZ世代

【小川嶺/後編】“時間は有限” 革新的な時間の使い方を生み出すZ世代

1995/1996年以降に生まれ、スマートフォンやSNSが当たり前にある中で育ったソーシャルネイティブである「Z世代」は、これからの時代をどう切り拓き、どんな革命を起こしていくのか。世代のギャップを超え、親自身の考え方をアップデートするため、その価値観に迫っていく。第2回は、株式会社タイミー 代表取締役で、スキマバイトアプリ「Timee(タイミー)」を開発した小川嶺氏が登場する。

数ある時間の使い方の中から常に最善を考えて、「いつだって一番楽しい時間を過ごせていること」を選択する。数十年後も、人のためのサービスを人が作り出す限り、人間的・情緒的な部分が重視されるからこそ、スマホやパソコンは仕事で使う最小限に留め、アナログな体験や対面でのコミュニケーションを大切にしている。

前編でそう話してくれたのは、株式会社タイミー 代表取締役で、スキマバイトアプリ「Timee(タイミー)」を開発した小川嶺氏(以下、小川さん)。

【小川嶺/前編】Z世代がデジタルデバイスより大切にする「人間性」

【小川嶺】Z世代がデジタルデバイスより大切にする「人間性」

人生の時間は有限だと考えるようになった背景には、18歳のときに経験した祖父の死があるという。

ここからは、小川さんが幼少期にどのように育ち、起業へと向かったか、そしてこれからの社会で実現したい働き方について深掘りしていく。

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小川嶺(おがわ・りょう)/1997年4月13日生まれ。高校生の時に起業に関心を持ち、リクルート/サイバーエージェントでのインターンを経験。2017年8月にアパレル関連事業の株式会社Recolleを立ち上げるも1年で事業転換を決意。2018年8月10日よりスキマバイトアプリ「タイミー」のサービスを開始。「一人一人の時間を豊かに」というビジョンのもと、様々な業種・職種で手軽に働くことができるプラットフォームを目指す。

挑戦に必要な「堅実さ」を教えてくれた両親

――幼少期、ご両親にはどんな風に育てられたのですか?

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「特に母は厳しく、栄養士だったので、食べていいものと悪いものを徹底的に管理されていました。大学に入るまで、カップラーメンやチョコレートを食べたことがなかったんです。

学校ではやんちゃでしたが、門限は必ず守る。こんなふうに、生活の中に決められた規律があることが当たり前だったので、なんだかんだいい子だったんじゃないかと思います」

――さまざまな挑戦を続けている今の小川さんのイメージからは、意外な一面のようにも感じたのですが……。

「確かに両親は、タイプでいえば真逆で、お堅い感じに思えるんですけど、実は根本が似ていて、リスクを考えるタイプだということです。

安定志向の人というのは“リスクを追わない人”ともいうじゃないですか。自分の場合はリスクだけでなくリターンまで考える。

リスクに対するリターンが合うか合わないかをいつも計算しているので、その発想は両親から学んだところかなと思います。

一見すると自分はリスクだけをとっているようにも見えると思うんですけど、大学1年生からリクルートのゼクシィ、じゃらん、ホットペッパービューティーでインターンをしたり、起業した2年生の年もサイバーエージェントのサマーインターンに参加したりと、就活をしながら同時に起業をして、リターンを念入りに考えて行動していましたね」

――その考え方があった上で、大学在学中の起業を選ばれましたが、大学卒業を待っての起業や、一旦新卒で就職して経験を積んでからの起業も考えましたか?

「考えましたね。就活はしていましたし、複数のインターンにも参加しました。

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paru - stock.adobe.com

でも就活中に同時進行で、タイミーのアイディアも実地試験的に進めていたら、思ったより資金調達が順調にいったんです。

ただ、それまでいっぱい失敗をしてきていたので、タイミーも成功する確率は低いと思っていた。親からも『就職しなさい』とはいわれていたので、資金調達をしてからも失敗する可能性については考えながら、就活を続けていました。

最終的に起業を選んだときも、『単位はちゃんととれよ』と反対せず、自由にさせてくれましたね」

これからの教育には「経験シェア」が必須

――他にもご家族に影響された部分はありますか?

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「自分はもともと教育についての関心が高く、祖母のおじが校長先生、祖母が体育の先生、母が栄養士の先生という教育一家で育ったというのもあります。

自分は若い学生起業家なので、成功体験・失敗体験がさまざまある中で、これから同じ道を辿る次の世代に対してそれをシェアできたら日本社会全体のためになるのではという思いで、SNSやYouTube、noteで自分の経験を赤裸々に公開しています。

『自分のやってきたことを言語化して次世代に伝えるというのは宿命だな』と感じていて、自分が受けてよかったなと思う授業、自分も実現したいと思う授業はどんなものだったか、過去を振り返って考えてみると、教科書を読まない授業や、なんらかの行動を通じて結果的に“先生が背中で語る授業”なんですよね。

教師が生徒に“こうするべき”という一方的な啓蒙活動は教育にはいらなくて、一番大事なのは“経験シェア”だと思っています。

なぜなら啓蒙は生徒じゃなく他の人が考えた話であって、物事に関する考えというのはあくまでも本人が見聞きしたり経験したものを記憶し、自身の価値観と照らし合わせたりさらにさまざまな経験を経たりして初めて、成熟したものが自分の中から生まれてくるんです。

考えは押しつけるものではなく編みだすもの。だから生徒が自分で考えるときのヒントになるような知見や経験をシェアするのが理想の教育の形です。

将来は教育に関する事業もやってみたいと考えていて、その道を極め切った一流の方々に講師をしてもらうことで、今の学校では学べない『自分が人間としてどうあるべきか』『どういう大人になりたいか』といった根本の部分を自分で見つけることができるようになったらいいなと思っています」

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幼少期の習い事が会社経営に活きている

――小さい頃から複数の習い事をされていたと伺いましたが、その中でも今の自分のためになったと思うものはありますか?

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「ひとつはサッカーです。サッカー選手になりたいと本気で思うほどがんばっていたし、今でも趣味として続けています。

サッカーは個人ではなくチームで戦うものなので、自分勝手に動かないというチームワークや、自分を客観的に見るということを学びました。

自分がシュートを打ちたい、点を決めたいと思って動くと自己中心的なプレーになってしまうけれど、チームとして勝とう、その時間を楽しいものにしようと思うとプレーは全く変わってくる。これはスポーツだけでなく仕事にも共通していると思います。

あとはサッカーのポジションやプレーによってその人の性格がにじみ出ると思っているので、相手がどんな人間なのか、どんなことを考えているかということを観察する癖もついたように思います。

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iStock.com/matimix

もうひとつが、将棋です。

小さいときに将棋を始めたのも、祖父から将棋と囲碁を教わったのがきっかけでした。

複数のパターンを学んでそこから先を予測したり状況に合う答えを選ぶという、経営やコミュニケーションにおける思考は、3歳からやっていた将棋で身につけたものです。

ロジカルに考えるということは、王手をかけるために展開を逆算をして考えたり、いろいろなパターンがある中でどういう攻め筋からいくか考えたりすること。一対一の勝負なので、毎回勝ち負けにしっかりこだわるというところもすごくよかったなと思いますね

今でも将棋をやっているのは、好きだからというのもありますし、日本のためにと思っているところもあります。

将棋って重要な日本文化のひとつですよね。世界でもチェスなど似たような文化がある中で、将棋も同じように長い歴史があって、後世にしっかりと受け継がれていく必要があると思っている。自分が将棋と経営の関係性を十分に保ちながら、将棋を続けていくことによって将棋界の繁栄につながればいいなと」

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キャプション:「竜王就位式」にて将棋棋士の藤井聡太さんとの一枚。(提供:小川嶺さん)

――小川さんの経営者としての活躍はまさに、将棋が思考力や勝負強さを鍛えたという好例ですね。

興味や好奇心から遊ぶように働く社会をつくる

――“働くインフラを作る”ことを掲げて経営をする中で、小川さんが考えている最終的な理想の世界や、日本社会の在り方とはどのようなものですか?

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「タイミーにおける最終的な目標は、“働く”という言葉の概念を変えるということです。

たとえば今、この池袋のオフィスの窓から外を見ると、お店やホテルなどさまざまな場所が見えるじゃないですか。世の中には本当にいろいろな職場や職業があって、だれでも日常の中で無意識に目にしたり関わったことがあるんですよね。

そうした中で『あのお店おもしろそうだな』『ホテルのバイトってどんなことやるんだろう』という興味や好奇心から、『あそこで働いてみたいな』と思ったら、すぐに働ける世界を実現したい。

そうしたら今よりもっと多くの人が、ワクワクして働ける世界になりますよね。

今の世の中にある“働く”という概念は、あくまでお金を稼ぐ手段であって、楽しく働いている人の方が少ない印象です。もちろんやりがいを持って働いている人もいますけど、ワクワクとは遠いものだと感じている人も多いんじゃないかなと。

だけど今回のコロナ禍によってギグワークが注目されたり、働き方改革によって社会全体で働くことについて考えるようになってきて、やっと『有限な時間を使ってどう働くか』『限られた時間に自分は本当は何をやりたいのか』ということをみんなが意識する段階が来ていると感じています。

その中でタイミーが”働くインフラ“として課題解決の役割を担っていく。

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働いてみたいと思ったときにすぐ働ける、目にするすべての場所で働くことができる“大人版キッザニア”のような社会ができたら、人々の時間は今よりもっと豊かになると思っています」

――“働く=ワクワク”という概念は、世界と比べても特に日本ではなかなか実現されていないところかもしれません。

「働くことがつらいものではなくなり、ワクワクできるようになれば、新しい知識を吸収したりコミュニケーションをとろうとする意欲も生まれるはずなんです。

前向きな気持ちで職場に応募してそれが通ったら、そこでは人や経験など、人生を豊かにする素晴らしい出会いを得られるし、そういう機会を提供できるのはタイミーしかないと思っている。そういう体験をもっと日本で広げていきたいなと思っています。

たとえば『温泉に行きたいな』と思った方が、温泉施設で数時間だけ働いて、そのまかないで温泉に入るという世界もおもしろいだろうし、そんな風に自由に働くことが可能になればどんなことでもできるんじゃないかなと思っています。

情報があふれている世の中だからこそ、本当にしたいことや必要なことが見えにくくなっている時代だと思いますが、『限りある時間を自分の人生のためにどう使うか』『自分が一番ワクワクできるものは何か』、それさえ見失わなければ、自ずとベストな選択は見えてくると思います」

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【小川嶺/前編】Z世代がデジタルデバイスより大切にする「人間性」

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<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部

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