朝ドラ「あんぱん」でツダケン演じる編集長のモデルは誰か…やなせたかしの駆け出し時代を支えた郷土人の実像
「とと姉ちゃん」の唐沢寿明も…歴代朝ドラに登場したヒロインの師匠的存在
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ドラマ「あんぱん」の「月刊くじら」東海林編集長が注目されている。演じるのはツダケンこと津田健次郎。朝ドラについての著作がある田幸和歌子さんは「主人公のメンターが登場するのは朝ドラの王道。東海林には複数の人物が反映されているようだ」という――。
ツダケン演じる東海林編集長のモデルは?
朝ドラ「あんぱん」(NHK)で津田健次郎が演じる東海林明は、新聞記者として歩み始めたヒロイン・のぶ(今田美桜)にとって重要なメンター的存在として描かれている。高知新報の編集局主任として登場した東海林は、戦後の闇市でのぶと出会い、彼女に新聞記者への道を示唆した人物だ。
のぶが戦時中に「愛国の鑑」として新聞で取り上げられたことで面接官たちが難色を示した際、東海林は「彼女は今の女性たちの代表だと言うてもええ。戦時下の教育で、多くの純粋な女の子たちが軍国少女となり、敗戦で自分の信じてきたものを、いや、自分自身を墨で塗りつぶされたがや」と熱弁し、のぶの記者への道を後押しした。朝ドラには時としてこうしたヒロインの人生を導く師匠的人物が登場し、彼女たちの成長に決定的な影響を与えてきた。
史実を見ると、東海林と重なる人物は二人いる。ただし、のぶのモデル・小松暢さんのメンターというより、嵩(北村匠海)のモデルである、やなせたかしを『月刊高知』時代に支援した人物だ。
やなせたかしが新聞社を辞めた後も支援
高知新聞社刊『やなせたかし はじまりの物語 最愛の妻 暢さんとの歩み』によると、一人は発行責任者の中島及氏。高知県四万十出身の幸徳秋水ら社会主義者が明治天皇の暗殺を計画したとして無実の罪を着せられ、死刑になった「大逆事件」に関して、23年間牢獄にいた坂本清馬と岡林寅松を対談させ、さらに秋水の甥も参加させるという歴史的な座談会を実現させた人物だ。中島氏はやなせを一番応援し、やなせが暢さんを追って上京することを決めた際も円満退社を支援した。
もう一人は編集長の青山茂氏で、やなせの良き理解者として才能を見抜き育てた人物だった。やなせは『月刊高知』で「表紙からカット、挿絵、取材、座談会の司会、すべてやりました」と後に記している通り、幅広い業務を担当し創作の基礎を築いた。
青山氏の真のメンターシップは、やなせが退社・上京した後にも発揮された。青山氏はやなせが東京で漫画家として活動を始めてからも継続的に仕事を依頼し、経済的にも精神的にも長期間支え続けた。同書によると、青山氏からやなせへの漫画「メイ犬BON」制作依頼の手紙が見つかっており、これは単なる上司と部下の関係を超えた、人生を通じてのメンターシップの典型例と言える。