血糖値上昇を抑えるのは「野菜」ではなかった…「痩せ効果ホルモン」を分泌するために「一口目」に食べるべきもの
なぜガイドラインから「ベジファースト」が消えたのか
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食べすぎを防ぐために、野菜から先に食べる方法が推奨されている。これは正しいのか。北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟さんは「海外では『ベジファースト』を推奨している専門機関はない。糖尿病や肥満の予防効果は、実は野菜ではなく『脂質ファースト』による可能性が高い」という――。 ※本稿は、山田悟『脂質起動』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
かつて大流行した「ベジファースト」の正体
少し前に、「食べる順番ダイエット」というものが流行したことを覚えていらっしゃる方もいることでしょう。食べるものは変えないで、「食べる順番を変えてやせましょう」というものです。
ダイエットというと、すぐに「カロリーを減らす」こととイコールと考えられがちですが、カロリー制限によるダイエットは、私は大反対の立場です。
カロリー制限によるダイエットは、そもそもつらくて継続できません。カロリーを減らすと必要な栄養を摂ることができず、筋肉や骨まで削れて、からだは内側から壊れてしまいます。
肝心の代謝は落ちて、むしろ太りやすい体質になってしまう、まさに百害あって一利なしのダイエット法だからです。その点では、「食べる順番」でやせようという考え方は、理にかなっていると言えます。
その食べる順番ですが、当時の「食べる順番ダイエット」とは、野菜から先に食べ始める「ベジファースト」というものでした。それは、食物繊維が豊富な野菜から先に食べ始めることで、食後の血糖値の上昇が緩やかになり、血糖値が下がりやすくなって、結果、減量にもつながるというものです。
「ベジファースト」公式ガイドラインからなぜ消えた?
「ベジファースト」の食べ方によって、血糖値を上げない食物繊維を最初に摂ることで食後の血糖値上昇が抑えられ、インスリンの分泌を必要最小限にとどめられるから、太りにくくなる。これがベジファーストの考え方です[*J Clin Biochem Nutr 2014; 54(1): 7-11]。
これは、当時流行しただけでなく、健康な日本人向けの健康増進のための栄養摂取のガイドラインである『日本人の食事摂取基準』の2020年版でも、「特に、食物繊維に富んだ野菜を先に食べることで食後血糖の上昇を抑制し、HbA1cを低下させ、体重も減少させることができることが報告されている」と書かれていました。
ところが、5年おきに改訂されるその最新版『日本人の食事摂取基準(2025年版)』では、このベジファーストに関する記述が削除されているのです。この5年の間に何が起こったのでしょうか。
これは私の推察ですが、改めて精査した結果、食後の血糖値の上昇を抑えたり、肥満を防いだりするベジファーストの効果に関する科学論文に“疑問符”がついたのが、記述が削除された大きな理由なのではないかと考えます。
実際、米国糖尿病学会を含め、糖尿病や肥満の予防のためにベジファーストを推奨している海外の専門機関はありません。
仮に、ベジファーストが食後の血糖値上昇を確実に抑えてくれるのならば、これらの団体は真っ先に推奨するに違いないのです。