170→13店舗に大激減…居酒屋チェーン・さくら水産が「500円の日替わり定食」をやめて得た"意外な効果"
「安くすれば客が来る」はもう古い
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安いことは本当にいいことなのだろうか。かつて500円のワンコイン定食で人気を集めた「さくら水産」が、価格を上げたにもかかわらず客数を伸ばしつつある。店舗数は170から13へと大激減。それでも生き残ったのは“安さ”を手放したからだった。フリーライターの伏見学さんが運営会社トップに取材した――。
「安さ」を武器に事業を急拡大
「500円ランチをやっていた時は、『美味しかったよ、ごちそうさま』なんて言葉をいただけなかったと思います。でも、今はお客さまが本当に喜んでくれています」
こう回想するのは、居酒屋チェーン「海鮮処 さくら水産」を運営するテラケンで営業部/商品部部長を務める佐々木泰晶氏。以前は店長として働いていたこともあり、現場の酸いも甘いもよく知る。だからこそ、その変貌ぶりに顔をほころばせる。
さくら水産といえば、「安さ」を武器に事業を急拡大していった飲食店として知られる。最大のキラー商品は「ワンコインランチ」。500円で日替わり定食が腹一杯食べられるということで、昼時になると店にはビジネスマンを中心に大行列ができていた。夜も安価な居酒屋メニューがずらりと並ぶ。最安値は魚肉ソーセージの50円で、一番高くても380円。破格の安さだった。お世話になった読者の方も少なくないだろう。
事業規模がピークだった2008年ごろは全国約170店舗にまで増えた。しかしながら、ビジネスモデルは既に崩壊を始めており、その後は転落の一途を辿った。2015年にテラケンは投資ファンドのアスパラントに買収され、さらに2019年には現在の親会社である梅の花グループの傘下に入った。店舗数は13店舗にまで縮小した(2025年4月時点)。
このように時代の波に翻弄されたさくら水産は今、高価格路線に転じ、業績は着実に上向いている。例えば、昼の平均客単価は、コロナ禍前が500円だったのに対して、現在は1200~1300円程度と倍以上になった。
さくら水産はいかにして安売りと決別することに成功したのだろうか。
アルバイトだけの店舗も
今でこそ見かけることはほとんどなくなったが、かつては街中に「250円均一」「270円均一」と書かれた居酒屋の看板が溢れていた。先鞭をつけたのは大手居酒屋チェーンだったが、後を追ってさくら水産もその低価格市場に身を投じた。
「創業者(寺田謙二氏)は高くても380円までというコンセプトを掲げていました」と佐々木氏は話す。この戦略は消費者から歓迎され、昼・夜を問わず、さくら水産の店舗は客でごった返していた。
ただし、ライバル店も安さを前面に出していたため、ますます価格競争は激化。どこもが泥沼にはまっていった。当時の状況を佐々木氏はこう吐露する。
「出店を急ぎすぎて、教育が追いついていませんでした。店長不在の店もかなりあったし、アルバイトだけで営業している店も少なくなった。とにかく店舗のマネジメントが弱かったです」