なぜ、やなせたかしは『あんぱんまん』が酷評されても気にしなかったのか…妻が明かした異次元の素顔

なぜ、やなせたかしは『あんぱんまん』が酷評されても気にしなかったのか…妻が明かした異次元の素顔

「作者としては叙事詩をかくつもりでかいておるのですな」

NHK朝ドラ「あんぱん」のモデル・やなせたかしさんとはどんな人物だったのか。文筆家の物江潤さんは「やなせ先生自身が、まるでメルヘンの世界の住民だったと言っても過言ではない」という――。 ※本稿は、物江潤『現代人を救うアンパンマンの哲学』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

『あんぱんまん』への予期せぬ悪評

絵本『やさしいライオン』が成功を収め、そして雑誌『詩とメルヘン』というヒットを飛ばしたことで、新作の依頼がやなせたかし先生に舞い込みます。ここで描かれたのが、1973年に発表された『あんぱんまん』でした。そして同作は、編集者、評論家、幼稚園の先生等々の各方面から、実に手厳しい批判を浴びてしまいます。残酷だ、もうこんな作品は描かないでください、こんなものは図書館に置くべきではない等々、散々な言われようだったようです。

しかし、やなせ先生はアンパンマンを捨てることができません。自身の出世作『やさしいライオン』ではなく、すこぶる評判の悪い『あんぱんまん』にこだわり続けます。

さて、そうは言っても、これだけ悪評がとどろいた作品です。また描いて世に出すなんてことは考えにくい。案の定、どこからも続編の制作依頼は届かなかったようです。

そんな状況のなか、やなせ先生は力業にでます。自身が編集長を務める『詩とメルヘン』に、アンパンマンの新作を連載してしまうのです。しかも、抒情詩を扱う雑誌なのに、不人気作のアンパンマンを叙事詩として掲載してしまうとくれば、もはや編集長による職権乱用に近い。どうしてもアンパンマンを描きたいという強い気持ちが伝わってきます。

やなせ先生が困難にめげないワケ

この強引なまでの振る舞いは、定言命法の凄まじい力を物語っています。どんなに困難でも、どれほど批判をされようとも、「~にもかかわらず」アンパンマンを描かずにはいられません。ひとたび定言命法が下れば、その人に恐るべき行動力を与えることがよく分かります。

一方、仮言命法であればこうはいきません。ヒット作をつくりたい「なら」、『やさしいライオン』の続編を制作「せよ」という仮言命法にしても、がらりと売れ筋が変わってしまえば、たちまち続編をつくる動機は消滅してしまいます。流行がどう変わろうがビクともしない定言命法とはまるで違うわけです。

仕事の核や勝負のしどころを見つけられない現代人がすべきことは、まずは「~なら、……せよ」という仮言命法を絶対視するのをやめて、慣れ親しんでしまった目的論の呪縛から逃れることなのかもしれません。仮言命法にこだわるあまり定言命法を軽視してしまっては、勝負のしどころを見つけるのは難しいように思います。

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2025.05.25

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