「若者のアルコール離れ」はイタリアでも起きている…それでも売り上げを伸ばしている"ワインの種類"
伝統は継承だけでは続かない、イノベーションを繰り返してよみがえる
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若者のアルコール離れは日本だけの話ではない。数多くの産地を持つイタリアも同様だ。龍谷大学教授の大石尚子さんは「ワインを常用飲酒する人口は2010年の45%から2023年にかけて29%に減っている。だが、そんな中でも売り上げを伸ばしている種類のワインがある」という――。 ※本稿は、大石尚子『イタリア食紀行 南北1200キロの農山漁村と郷土料理』(中公新書)の一部を再編集したものです。
高級ワインの産地が集中するピエモンテ
北部の食文化は、アルプス山岳地帯から続く中山間地域と、パダーノの平野部に大きく二分される。アルプスの麓に位置するピエモンテは、冷涼な気候である。地中海からの風やアルプスからの冷気がアペニン山脈で遮られて、多様な農作物を産出する。おかげで希少な高級食材や高級ワインの産地が集中している。
バローロは「ワインの王」、バルバレスコは「ワインの女王」と呼ばれるほどである。ピエモンテは、トスカーナと並ぶ一大産地で、高級ワインを多数産出する。ワイン格付けで最高ランクのDOCGやDOCのワインがイタリアで最も多い(ちなみに、イタリアのワイン生産量は2015年以降、フランスを抜いて世界一位。イタリア20州のすべてで赤・白・ロゼワインを産出する)。
ワイン好きなら一度は訪ねてみたいバローロとバルバレスコは近接しており、トリノから南東50キロメートル、ワイン産地で有名なランゲ地方にある。両村とも人口1000人未満で小さい。しかし、この村を中心とした周辺地域を含めて、500を超えるワイナリーがある。葡萄の品種は、ネッビオーロという13世紀頃からこの地方で作付けされていた土着品種である。この辺りには三本の川が流れ、複雑に隆起する丘陵地帯が連なる。隣接する土地でも地質や地形の違いによって、産出されるワインはまったく別物になる。
厳格な規定がブランド力を高めている
バローロのワイン畑は、バルバレスコよりも標高が50メートル高く、霧の影響で日照時間が短い。これが長期熟成に適した葡萄を産む。逆に、バローロの葡萄よりも多くの太陽を浴びて育つバルバレスコの葡萄は、ふくよかなワインに仕上がる。そこから「ワインの女王」の異名が付けられた。バローロもバルバレスコも、この名前を名乗るためには、DOCGの規格をクリアしなければならない。葡萄の品種はネッビオーロのみである。バローロの熟成期間は最低38カ月。そのうち18カ月は樽熟成しなければならない。バルバレスコの場合は26カ月の熟成期間で、その内9カ月の樽熟成が義務付けられている。
生産地はバローロはバローロ村とその周辺の11のコムーネ(自治体)に限られ、バルバレスコはバルバレスコ村を含む3つのコムーネである。ほかに、畑の土壌成分と標高、葡萄の樹齢など細かく規定されている。厳格な規定が、産品のブランド力を高めている。