「みんなが信じるウソ」が真実になる…「新聞離れ」「テレビ離れ」がもたらした"SNS選挙戦"の憂鬱
Profile
政権の形を変えた「陰の主役」
民主主義を標榜する日本と米国で今秋、政権選択の選挙が相次いで行われたが、SNSを中心にネット上で偽情報が横行し、選挙戦に深刻な影響を与える事態となった。
日本では衆院選で自民党と公明党の与党が過半数を割り込んで少数与党となり、米国では大統領選挙で共和党のトランプ前大統領が返り咲いた。いずれも政権の形が変わってしまったのである。
有権者が選んだ結果であることは間違いないが、その民意を形づくるのに、偽情報が加担した疑念はぬぐえない。生成AI(人工知能)の普及で、偽情報はますます巧妙化し、インパクトのある偽動画も増殖している。誤った情報に基づいて有権者が投票したのであれば、民意は適切に反映されたとはいえず、民主主義の根幹が揺らぎかねない。
当然のことながら、偽情報の蔓延を防ぐためにさまざまな手立てが講じられたが、有効な対策とはならず、偽情報は事実上野放し状態のまま、いずれの選挙戦も幕を閉じた。
奇しくも、同じ時期に行われた日米の選挙戦で「陰の主役」は偽情報だったともいわれる。
新聞やテレビの伝統的メディアの信用が低下する中、11月17日投開票の兵庫県知事選で斎藤元彦前知事が予想を覆して再選を果たしたり、今年7月の東京都知事選で石丸伸二候補が善戦したことで、選挙におけるSNSの重要性がにわかにクローズアップされている。それだけに、ネット上に氾濫する偽情報は、厳しく排除しなくてはならない。
日米の選挙戦における偽情報の実態を検証し、喫緊の課題として民意を歪めかねない偽情報対策を考えてみたい。
裏金問題の逆風を倍加したSNS
日本では、これまでの選挙で偽情報による混乱は、あまり目立たなかった。かつて沖縄県知事選で、玉城デニー現知事をめぐって偽情報が出回ったことがあったが、影響は限定的だった。
だが、今回の衆院選は、様相が違った。
「石破茂首相が『裏金議員が気にいらないというのであれば、自民党に投票しなければいいのではないか』と発言した」
衆院選(10月27日投開票)で最大の焦点となった自民党の裏金問題で、就任間もない石破首相が開き直ったかのような不遜な態度を示したSNSの投稿が拡散した。ただでさえ逆風にさらされる自民党へのダメージとなったことは明らかで、野党候補と接戦となった小選挙区では、少なからぬ打撃を被ったといわれる。