「望月の歌」を詠んだ夜は満月ではなかった…NHK大河ですべては描かれない藤原道長が和歌に込めた本当の思い
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藤原道長とはどんな人物なのか。歴史評論家の香原斗志さんは「藤原家の権力維持のためにはなんでもする傲慢な人物として描かれがちだ。だが、有名な『望月の歌』の背景を知ると彼の意外な一面を知ることができる」という――。
藤原道長が三条天皇に譲位を迫った理由
藤原道長(柄本佑)は三条天皇(木村達成)に、繰り返し、執拗に譲位を迫った。道長と対立が続くところに内裏が焼失し、ストレスが極限に達した影響だろうか、三条天皇は目がよく見えなくなり、時に耳も聞こえない。そこで道長は「ご譲位くださいませ。それが国家のためです」と、かなり露骨に迫った。NHK大河ドラマ「光る君へ」の第43回「輝きののちに」(11月10日放送)。
三条天皇から頼られ、相談も受けている藤原実資(秋山竜次)は道長に、「幼い東宮を即位させ、政を思うがままにしようとしていることは、だれの目にも明らか」と苦言を呈して諫めた。実資の指摘は、半分は当たっているが、残り半分は、さすがに道長も少し気の毒だといえようか。
三条天皇は事実、目と耳を病んでいて、政務や儀式をきちんとこなすことができない。それでは宮廷社会の信任を得るのは困難で、政務に関する責任をもっとも負っている道長としては、譲位を求めるのも致し方ない面があったと思われる。
一方、彰子(見上愛)が産んだ外孫、東宮の敦成親王(石塚錬)に、一刻も早く即位してほしいと思っていたのも事実だろう。
だからこそ、彰子のもと、まひろ(吉高由里子、紫式部のこと)もまじって「偏つぎ」という遊びに勤しむ敦成親王のところに現れた道長は、遊びに加わりながらも「学問はよき博士につかれるのがなにより」と、注文をつけた。彰子は「藤式部は博士に劣らぬ学識の持ち主ですよ」と言ったが、「帝になる道を学ぶのは、まったく違う道です」というのが道長の返答だった。