脳腫瘍で旅立った友人に何もしてあげられなかった…「高校3年文系」から小児科医になった医師の奮闘
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医療の現場で働く医師は命にどう向き合っているのか。『プレジデントFamily』編集部が3人の医師を取材した。今回は、神奈川県立こども医療センター周産期医療センター長で小児科医の豊島勝昭さん。「医師として懸命に努力しても助けられない命もある。でも、しんどいけど続けているといいこともあります」と語る境地とは――。 ※本稿は、『医学部進学大百科2025完全保存版』(プレジデントムック)の一部を再編集したものです。
赤ちゃんだけじゃなく家族にも寄り添う
早産や低出生体重児、生まれながらに重い病気を抱えた赤ちゃんとその家族を描いたドラマ『コウノドリ』(原作は青年漫画誌『モーニング』に連載された鈴ノ木ユウ氏による漫画)の医療監修、撮影協力をしたのが、神奈川県立こども医療センター周産期医療センター長兼新生児科部長の豊島勝昭さんだ。
同センターのNICU(新生児集中治療室)に入院していた赤ちゃんも、ドラマに出演していた。
豊島さんのブログ「がんばれ! 小さき生命たちよ Ver.2」には、そのときの赤ちゃんたちが大きくなって、今も通院している様子などが記されている。
ブログには、子供に病気や障がいがあっても笑顔で暮らす家族の話もたくさん出てくる。先輩家族の“NICUの先にある未来”を伝えることで、今現在、悩みや不安を感じている患者家族を支えたい、という願いを込めて。
「生きてほしい、そう願う気持ちと、この先どうなるのか、という不安や心配と、ご家族の思いは千々に揺れ動きます。私たちは、赤ちゃんの命を救いたいし、赤ちゃんと一緒に生きていく家族の想いにも心を寄せたいのです」(豊島さん、以下同)
さまざまな機器と小さな保育器が並ぶNICUのフロアにはモニター音が鳴り続く。
保育器の中で、チューブやコードが装着されたまま眠る赤ちゃんは、その小さな体で、懸命に病と闘っているのだ。
緊張感あふれるNICUだが、毎月、月誕生日を祝う家族とスタッフの風景もある。クリスマスのピアノのミニコンサートや四季を大切にするイベントも行われている。
「ここにいる赤ちゃんたちの中には、NICUで一生を終えることになる子もいます。だからこそ、生まれてきたこと、日々を重ねていることを祝ってあげたいし、赤ちゃんと家族が一緒に過ごせるかけがえのない日々を大切にしてあげたい」
この病院では、両親は24時間いつでも赤ちゃんと面会できるし、祖父母やきょうだいの面会も可能だ。27床の保育器のうち6床は「かるがもルーム」と呼ばれる半個室で、産後のお母さんが横になって面会できる成人用ベッドを設置している。
「周産期とは、妊娠22週から出生後7日未満までを指します。妊婦さんも赤ちゃんも、命に関わるような危険に陥ることがあるのがこの期間です。赤ちゃんの33人に1人がNICUに入院するというデータもあります。生まれた直後に、どのような医療を受けたかでその赤ちゃんの一生が変わることもある。障がいなどをなるべく残さずに命を救いたいと思っています」