子育て世帯で大流行のマイコプラズマ肺炎…家族ドミノを起こしがちな「やっかいな理由」を感染症医が解説
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全国で患者が急増しているマイコプラズマ肺炎。8年ぶりの流行ゆえに、どんな感染症なのか把握していない人も多い。小児科医として感染症を研究する笠井正志さんは「マイコプラズマ肺炎は、子どもの感染をきっかけとして家庭内で広がりやすく、重症例はまれなものの長引いてやっかい。その原因は潜伏期間にある」という――。
マイコプラズマ肺炎について誤解されがちな3つのこと
1)新型コロナのような「ウイルス」ではなく「細菌」
抗生物質で治療できる
2)肺炎にまでなる症例はまれ、感染しても8割は自然治癒
死亡例は極めて少ない
3)潜伏期が2~3週間、咳が収まるまでに4~6週間と長引く
発熱などがある急性期を過ぎたら、マスクをして出勤・登校可能
2016年以来の流行、家庭内感染が広がるマイコプラズマとは?
2024年、患者数が過去最多を更新しているマイコプラズマ肺炎。私の勤務する「兵庫県立こども病院」でも、現在、入院に至る症例が最も多いのは、マイコプラズマに感染し、肺炎や脳症などを起こした子どもたちです。
一部で「4年ぶりの流行」とも報道されていますが、正確には2016年以来の流行。たしかにオリンピックイヤーの4年ごとに流行する傾向がありましたが、コロナ禍で、みんなが感染症対策を徹底していたため、しばらく流行がなく、今年どっと増えた形になります。
新型コロナやインフルエンザのウイルスとちがって、マイコプラズマは細菌です。ブドウ球菌や大腸菌と同じですが、マイコプラズマのサイズは半分か4分の1ほどと非常に小さく、ちょうど細菌とウイルスの中間ぐらい。小さいので、飛沫感染だけでなく、ウイルスのようにエアロゾル化し、空気感染に近いうつり方もします。
そして、潜伏期間が2~3週間と長い。インフルエンザは1~3日間ほど、新型コロナの潜伏期間は3~5日という症例が多いですから、それと比較すれば、いかに長いかがわかるでしょう。かかった人がもう治ったかな?と思っていると、次の人が感染していて発症する。この特徴によって、「家庭内感染を避ける」ことが難しくなるのです。
例えば、こんなケースがありました。4人家族で、10月上旬、最初に下のお子さん(4歳女児)に軽い咳が見られ、熱は37度台の微熱しか出ませんでした。お母さんが様子を見ていたところ、2~3日で症状が治まり、安心していた中旬になって、上のお子さん(9歳男児)が発熱。今度は38度5分を超える熱が出たので、小児科を受診し、4日間、熱が続いた時点で、検査キットは使わず、「見なしマイコ」として抗生物質を処方されたそうです。さらに、その1週間後、お母さん(30代)も発熱。11月上旬になっても、お母さんの咳は完全には治らないまま。お父さん(50代)だけが現在のところ、症状がないということです。