なぜロシアの侵略戦争を止められないのか…存在感をほとんど感じない「国際法」の本当の存在意義
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「法の支配」についての認識は一致しているが
2022年2月24日にロシアがウクライナへの侵略を開始して以来、国際社会では、「ルールに基づく国際秩序」が平和にとっていかに重要であるかが、かつてないほどに強く意識されるようになっている。
侵略開始当日に行われた主要国首脳会議(G7)のオンライン首脳会合では、ロシアの行動が「深刻な国際法違反」で、「ルールに基づく国際秩序に対する深刻な脅威」だとしつつ、ロシアを「最も強い言葉で非難」し、G7として「ルールに基づく国際秩序の完全性を維持するために必要なことを行っていく決意」を表明する首脳声明が発表された。
わが国でも、岸田文雄首相が同様の立場を繰り返し述べ、また、官邸のホームページでも、日本の外交・安全保障政策の課題の筆頭に、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化」することを掲げてきた。この姿勢は、22年12月に策定された「国家安全保障戦略」にも通底している。
その根底には、国際法や、より広い国際ルールが諸国によって十分に尊重されているかどうかが、世界のあり方を根本的に左右するという見方がある。日本の『外交青書』(23年版)は、「法の支配」について、「全ての権力に対する法の優越を認める考え方」であるとしたうえで、「国際社会においては、法の支配の下、力による支配を許さず、全ての国が国際法を誠実に遵守しなければならず、力又は威圧による一方的な現状変更の試みは決して認められてはならない」と強調している。こうした見方に対して正面から異を唱える国は、存在しないといってよい。
だが、現実の世界では、国際法も国際ルールもいたって弱体であり、諸国はしばしばそれらをないがしろにして力による国益追求を進めている。それはなぜなのか。また、それが世界の現実であるとすれば、法の支配やルールに基づく国際秩序の重要性をいかに強調してみたところで、それは意味のないことなのではないか。国際法や国際ルールは、世界の平和と安定にとっていったいいかなる意義を持ちうるのか。