子どもの発達は、年齢ではなく「今までに何ができるようになったか」に注目すること

子どもの発達は、年齢ではなく「今までに何ができるようになったか」に注目すること

子育てをする中で、子どもの成長や発達について心配になることもあるでしょう。特に初めての子育てならば、なおさらです。今回の記事では、発達心理学の専門家である沢井佳子先生に、子どもの成長や発達、そして動画コンテンツとの付き合い方についても話を伺いました。

子どもの「発達」は年齢で語れない

子どもの認知発達支援と視聴覚教育コンテンツ開発を専門とする沢井佳子先生に、子どもの発達について、詳しく話を伺いました。

くらしテクノ

(一社) 日本こども成育協会 理事。チャイルド・ラボ 所長。幼児教養TV番組『しまじろうのわお!』(テレビ東京系列)監修者。認知発達支援と視聴覚教育メディアの設計とコンテンツ開発を専門とする。お茶の水女子大学大学院修了。専攻は発達心理学、認知科学。幼児教育番組『ひらけ!ポンキッキ』(フジテレビ)の心理学スタッフ、お茶の水女子大学研究員、静岡大学情報学部客員教授などを歴任。日本子ども学会常任理事。人工知能学会「コモンセンスと感情研究会」幹事。編著書に『6歳までの子育て大全』(アチーブメント出版) ほか、『3さいの本』全8冊 (講談社) など監修した本やワークブックは多数。ハッピーセットの玩具の監修(日本マクドナルド)。BPO(放送倫理と番組向上機構)青少年委員会委員。『こどもちゃれんじ』(ベネッセ)「考える力」プログラムを監修するなど、映像・絵本・玩具・アプリの他、AIを利活用したコンテンツ開発にも携わる。


子どもの「成長」と「発達」の違い

子どもの健やかな成長と発達を願わない親はいないと思います。でも、この2つの言葉の違いがわかる方は少ないのではないでしょうか。

沢井先生

普段の会話の中で、「成長」と「発達」の違いを意識することはあまりないかもしれませんね。

具体的にいうと「成長」は、体重や身長のように数字に表せること。「背が伸びる」、「体重が増える」などの、連続的で量的な変化です。「発達」は、例えば「蛇口を回せる」、「話せる」、「数えられる」といったことができるようになる質的な変化です。

「ある日突然、言葉を話した!」というように、発達は階段を上がるような、急な変化を見せます。このような、「わかることの発達」が、認知発達です。

成長と発達は、現象としては区別すべきですが、「背が伸びる成長」によって、立って見る世界が広がり、「空間や形を見分ける発達」が進む…ということがあるように、成長と発達は、おおいにからみ合っているのです。


発達には「愛着ある大人からの刺激」が必要

沢井先生

子どもの成長や発達を語るうえで、「2歳になったので模倣ができるようになる」という言い方は、実は間違っています。模倣をする力は、生まれたばかりの赤ちゃんにも備わっているからです。生後30分の赤ちゃんだって、大人の舌出しを見て、まねができるんですよ。新生児の体をしっかり支えてあげれば、「足を左右交互に出して歩く」という歩行反射が見られますが、生後10日もたてば消えてしまいます。歩くことも、生まれつきプログラムされているからこそ、約1年後に、いろいろな筋肉がバランスよく協調できるようになって、自力で歩けるようになるのです。

このように、子どもは、生まれつき備わった「発達のプログラム」に従って成熟し、学び、一定の順序で発達は進みます「何歳になったから、これができるようになる」という見方ではなくて、「今これができるから、次はそれができるようになるだろう」と順番に期待して、子どもの今をよく見ながら向き合えばいいんです。

ただし発達には、親(養育者)や保育士などの、愛着ある大人(大好きな人)からの刺激と応答が必要です。大好きな人とのやりとりに誘発されて、子どもにあらかじめインストールされているプログラムが、決まった順序で次々に発動していくのです。

子どもの発達を支えているのは、そばにいて大事にしてくれる人の存在です。ごはんを与え、世話をしてくれる大好きな相手をよく見てまねをすることで、生きる術が身につけられるのです。「模倣」が、子どもに生まれつき備わっている能力だから、大好きな人のそばにいて、暮らしていくことで発達が進むのです。

くらしテクノ

「応答すること」が親の責任

沢井先生

いちばん大事なのが模倣相手です。子どもにとって信頼できる人が模倣のベースとなるので、親の責任はひとことでいえば「応答すること」です。

模倣は新生児から始まっているので、大人の応答性は重要です。たとえば、お母さんたちは「1歳半ごろに、『ダーダー』といった喃語がでてくるのを聴いて、おしゃべりのもとができてきた」といいますが、それ以前に、赤ちゃんが動作で反応する「会話のような行動」は、もうできているのです。

ですから、赤ちゃんのときから。表情や動きをよく見て、親が応答することが大切です。たとえば、「〇〇ちゃん、うれしいのね!お母さんもうれしいな!」と、言葉・表情・動作でやりとりを楽しみましょう。子どもの発達を支援するということは、子どもを見守り、応答することにつきます。

認知発達に大きな影響を与える「暮らし」

子どもの認知発達のためには、どのような環境が必要ですか?


富士山の裾野のように幅広い経験が大切

沢井先生

認知発達は言語・論理・数量・図形・自然・社会・表現・動作と幅広い領域にわたります。富士山の裾野のように、広大にひろがっているのです。

富士山の1、2合目は面積がとても大きくて、頂上の面積は少ないですよね。高い富士山を作るにはこの広い裾野が大切で、この大きな基盤を無視して、細い梯子(はしご)で高いところへ上がろうとしては、発達の階段をのぼる登山にはなりません。

幼児期の認知発達の広い領域には生活習慣もたっぷりと入っています。生活習慣を後回しにして「頭のよくなる学習」をさせようとするのは、むしろ考えて生きる力のエンジンを小さくするようなものです。

子どもが生活習慣を習得する日々の「暮らし」は、富士山の3合目くらいまでの膨大な領域だとイメージしてみてください。


暮らしの中で、網羅的に伸ばすことが大切

沢井先生

暮らしは、子どもの認知発達に大きく影響します。

ひとつの例を挙げると、高層マンションに住んでいる子どもが50階の窓から見た並木道はきのこのように見えるでしょう。大きな木を見上げるという典型的な経験が少ないままだと、空間の常識が変わり、さらには対人関係にまで影響するという研究もあります。

どんな住まいで暮らすか、どんな1日の時間を過ごすか、などによって、空間認知、対人関係、友達の数も変わるかもしれません。認知発達は、社会性や人の気持ちを理解する力の基礎にもなりますから、ある領域だけを重視して伸ばすというのではなく、網羅的に多様な領域の認知能力を伸ばすことが大切です。生活動作のルーチンの習得、近所づきあいや挨拶の言葉、食事や睡眠の量や時間についての判断。あらゆる生活の場面が、「周辺世界をわかること」の発達、つまり認知発達につながっているんです。

くらしテクノ

沢井佳子先生最新作の「くらしテクノ」

沢井先生が監修した新シリーズ「くらしテクノ」は、子どもの好奇心や考える力を育み、「てくてく」と自分から歩み出したくなるようなYouTube番組です。くらしの中の「はてな」や「ふしぎ」について親子で楽しめます。

くらしテクノ

よく遊び、科学に親しみ、意見を述べ合って考えるキャラクターたち

「くらしテクノ」に登場するキャラクターは、カワウソのかわっち、ネコのみいにゃん、ペンギンのぺんまる。一緒に遊びながら、発見した不思議について意見を述べ合います。

そして、クマのジョーくんは、一人ひとりの疑問に丁寧に答えて、自然の摂理やテクノロジーの仕組みと働きを、やさしく説明してくれます。

「くらしテクノ」を見て、2歳の子どもはキャラクターのおしゃべりやダンスに注目し、4歳の子どもはテクノロジーの言葉を覚え、8歳の子どもはテクノロジーや科学への探求心を深めるなど、それぞれの年齢で楽しみながら学べる要素が散りばめられています。

子どもの好奇心を育む!YouTube番組
「くらしテクノ」

沢井先生

「くらしテクノ」のジョーくんは、いつも優しく、レスポンスをすぐに返してくれるキャラクターです。「良いところに気づいたね、他に似た現象はないだろうか」など、子どもが疑問に思ったことに対して、関係のあることを探しながら言葉をうまくまとめて説明してくれます。それをママやパパがまねてくださると、子どもの「考えるおしゃべり」が活発になって楽しくなりますよ。

先ほども触れた、親に必要な「応答性」を模範的に取り入れたキャラクターが、ジョーくんなのです。

画像

専門家による本格的教育コンテンツ

「くらしテクノ」は監修の沢井先生をはじめ、キャラクターのパペット制作・操演にNHKなどで多数の作品に携わるスタジオ・ノーヴァ、オリジナルのテーマソングはジョーくんたちの歌に合わせて、作詞をもりちよこ氏、作編曲をInclude.PD、ダンスの振り付けをパパイヤ鈴木氏が手がけ、思わず一緒に踊りたくなる楽曲に仕上りました。

子どもの世界がどんどん広がる
「くらしテクノ」

「くらしテクノ」の親子での楽しみ方

沢井先生

ぜひ「くらしテクノ」をお子さんとご一緒にご覧くださいね。

大好きなママやパパが映像を楽しそうに見ていると、子どもはそれを模倣して見るようになり、内容の面白さを発見してくれるはずです。何かに注意を向けて、「見て、聞いて、考える」という学びの態度も、大好きな人が注意を払う姿、楽しむ様子などの模倣を通じて、子どもは習得するのです。

乳幼児の指さしも、言語活動のスタートであり、言葉の代わりとして重要です。小さな子どもは、映像を見ているとき、いろいろな動作をたくさんしていて、それぞれに訴えたいメッセージがこめられているんです。映像を見ながら、大人を振り返る行動は「社会的参照」と呼ばれ、大人の反応の仕方を確かめたいという欲求の現れです。振り返れば、大好きな人が一緒に見ていてくれるというのは、ほんとうに大切です。


3歳以上で動画をひとりで見られるお子さんに、子守の代わりとして活用することも可能ですが、そばでママやパパがニコニコ見ているだけで、面白がって考えて話すという行動が確実に増え、学びの機会にもなります。

「くらしテクノ」の中には、ヨットのおもちゃから始まって、浮力が話題になる回があります。そんな映像を見た後に、お風呂で湯桶が浮かぶのを試して、ジョーくんが説明してくれた「浮力」を話題にしてみましょう。科学的なトピックスは普段の暮らしの中に、たくさんひそんでいます。そう、アルキメデスもお風呂の中で、大発見をしましたしね。

親子で一緒に見たものを「あ、あれだよね!」とママやパパが話題にできることも重要です。親子の頭の中に、同じイメージやストーリーが共有されていますから、「ジョーくんがこの話をしていたよね」と言語化し、互いに記憶をやりとりできるでしょう。これは、レベルの高いコミュニケーションなんですよ。

「くらしテクノ」を親子で楽しむ

「くらしテクノ」で子どもの好奇心を育もう

沢井先生

一条工務店さんから子ども向けの動画を作りたいというお話があった当初、一条工務店さんの体験施設で住まいの断熱性や遮音性などの最先端技術を実際に見たり、「水に浮く家」を造るまでに実験を繰り返したお話を聞いたりと、科学の知識を結集して家づくりの研究と開発を続けていらしたことを、豊富な資料と共に教えていただきました。


このような科学的知識とモノづくりの研究開発こそ、子どもにわかるようにかみ砕いて、動画にしたら面白いに違いないと思いました。

くらしテクノ

暮らしの中で、身の回りにあふれる様々な現象やものごとの仕組みや働きを取り上げ、暮らしを支える技術について、人形劇でわかりやすく解説する、一条工務店さんの「くらしテクノ」は、2歳から9歳くらいまでの子どもが楽しめる映像コンテンツです。

子どもの遊び心を大切にし、科学に親しみ、意見を述べ合いながら考える、という力を伸ばす番組「くらしテクノ」。親子で楽しくご覧いただけましたら、制作チームのひとりとして光栄ですし、とても嬉しく思います。

「くらしテクノ」を視聴するお子さんのエピソード、たとえば、番組を見ながらおしゃべりする様子や、ダンスに熱中する姿などを、ぜひお聞かせいただき、今後の番組づくりに活かしたいと願っております。

続々と新コンテンツ公開中の
「くらしテクノ」

2023.11.01

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