頑張らない!考え込まない!目標は低く設定する楽な生き方【藤野智哉】
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「KIDSNA TALK」第4弾は、著書「いい加減の処方箋」が話題の精神科医・藤野智哉先生をお迎えして、ネガティブ思考の自分をも愛し、成功体験を積み上げていくことの大切さや身に着けたい3つの判断能力についてお話をいただきました。
ネガティブ思考は悪い方へ悲観的に考え、自分を追い込んでいく考えです。大抵、起こってもいない最悪の状況までを想定して辛くなっていきます。
だから、必要以上に考えることはせず、客観的な立場で、今、考えなくてはいけないことだけに焦点をあてていくことが大切です。
たしかに、ネガティブなときは自分のことを客観的に考えられないですよね。
思考が囚われているときは、どうしてもネガティブになりがちです。特に夜は、悪い方に考えがちなのですが、翌朝になってみたら意外に、スッキリしていたということはありませんか。
そんな体験を思い出し、起こってもいないことを悲観的に考えるのではなく、「今に目を向けなければいけない」という視点を意識してみてください。すると、現実に立ち戻って自分を客観視できるようになります。
先生もネガティブになるときはありますか?
実は私もネガティブになることが結構、あるんです。「お医者さんは、ネガティブにならない」と思われがちですが、ネガティブな考え方は人間として自然で当然あるべき感情なんです。
必ずしもネガティブな考えそのものを否定することありません。大切なのは、ネガティブ思考になっているときにどう付き合って、やり過ごしていくかです。
私たちの仕事でとても大切にしていることは「なんでも病気にしないこと」です。特に、自然な感情を病気と捉えないように気を付けています。
だから、ネガティブな感情になったときに「悪い方に考える私はおかしい」とは思わないでください。
ネガティブな考えになるとつい自分を責めがちですが、そこは自然な現象と考えればいいのですね。
そうです。ネガティブな感情が自然にわいてくることは当然なことですし、その気持ちを受け入れたうえで、どうしていくかを考える必要があります。
続いて、藤野先生がすすめる「鈍感力を身に着ける」とは、どういうことでしょう。
「鈍感である」とは、聞こえが悪いように思われますが、実は無駄なことに動じない力はとても大事です。つまり、自分がしっかりあれば、外からのプレッシャーやストレスにゆらぐ必要はありません。
人は、他者との関係において、感情のもつれやすれ違いなどからストレスが生まれます。しかし自分の正しさを理解し、他者に影響を受けない力を身に付ければ、ストレスフリーに過ごせますし、ストレス状態になっても対応ができます。
なかには、様々なストレスを与えてくる人もいますが、人生を時間軸でみた場合、10年後、20年後にその人との関係があるかはわかりません。また、自分にどんな影響があるのか、と考えても大抵それほど影響はないはずです。
ですから、他者から与えられるストレスに過敏に反応する必要はありません。
たしかにそうですね。自分の人生を時間軸で考えたとき、「学校」「仕事」「子ども」などで関わる人は多いですが、10年後にこの関係性が維持されているかはわからないですものね。
だからこそ、時間軸の考え方はとても大事です。たとえば、10年前を思い出してみてください。自分にとってそのときに、大事件だったことや最も恥かしかったことを友人や知人が今でも覚えているかというと、大抵忘れていますよね。
逆に、それは10年後に今を振り返っても同じです。学生時代の友人で、今も交友があるのは数人だと思います。そういう意味では、ママ友など、お子さんとの関係でつながった関係性も「すれ違っていく人」という見方が必要だと思います。
確かに、そう考えると学生時代の友人で交友があるのは数人です。思い浮かばないということはそうなんでしょうね。
時間軸以外の考え方で、自分の立ち位置を俯瞰で見る、ということも大切です。
地球には人間が78億人いて、自分の周りにいる人は少数です。
特に今のネット社会では、様々な人から攻撃を受けたりすることもありますが、その人たちは、自分からすごく遠いところから圧をかけてきているだけです。そういう視点をもてば、その攻撃がどうでもよくなくなり、動じずにいられる可能性があります。
俯瞰で見ることが何事においても大事ですね。
イスラエルの医療社会学者であるアーロン・アントノフスキー博士が提唱した「首尾一貫感覚(sense of coherence、SOC)」という考え方があります。ストレスフリーで人生を送る能力が高い人は、「把握可能感」「処理可能感」「有意義感」の三つの判断能力が整っているといわれています。
「把握可能感」というのは、自分が今置かれている状況について、今後の予想を含めて正しく把握する能力になります。
物事に対応する際に「自分に対処できるか」「どんなことが起きるだろうか」と不安になりがちですが、正しく捉えて認識することができれば、今後の見通しや展望が見えてきます。
そして、見えてきた展望に対し、自分ならうまくやれるという「処理可能感」のスキルが重要になります。
たとえば、テスト勉強をこれだけやれば大丈夫と見通しがたてば、がむしゃらにならずともいいわけです。でも、その「処理可能か」というスキルがないとひたすらに勉強し続けなければいけないし、どれだけ勉強しても不安が付きまといます。
でも、テスト勉強を何度か繰り返していると「これくらい勉強したらこのくらいは点数がとれる」とわかります。それが「処理可能感」という判断能力です。
だからこそ、「前にこれはやったことがある」とか「自分ならこれくらいできそう」ということを知っておくことが大事です。
そのためにもやはり、自分というものをよく知らなきゃいけない。自分をよく知れば、自分を信じられるし、「自分はこれくらいやりきれる」と思えるわけです。
「有意義感」は、次々嫌なことが起きる中で、「これには意味がある」「これをやるから自分はこうなっていける」と肯定的な気持ちを持つことです。有意義感によって、人生が意味のあるものになっていくし、意味のあるものを達成したという感覚はとても大切です。
まさに仕事に向き合う上でも大事なことですね。コロナ禍の現在もそうですが、社会的な変動が多く、何がおこるかわからない中で、この三つの考え方はすごく重要なことだと思います。
新しいものに出会ったときに「自分に克服できるか」という感覚がないと、不安で仕方なくなります。
だからこそ、自分の能力を正しく把握しておくこと、達成したときにそれを覚えておくこと。そして、自分がやり遂げられた成功体験をもっていることが「人生における安定」を得るためにとても大事なんです。
本当にそうですね、とてもわかります。
最後に藤野先生は、目標を低く設定することを推奨していますが、一般的に目標は高く設定しがちだと思います。あえて低くする理由はなんでしょうか。
目標を高く持つことが必要なときもあります。でも、手が届かないほど高くしてしまうと、それは目標ではなくなってしまいます。
重要なのは「本当に実現可能なのか」ということです。つまり、自分の能力を正しく認識せずに高い目標を設定してしまうと、辛い挫折の日々が始まります。
結果的に同じ目標に上っていくのであれば、「これくらいだったらできる」という成功体験をひとつひとつ積み上げていった方が、「二段跳びくらいできそうだ」と自分が見えてきます。
そうやって、成功体験を重ねながら自分の能力を正しく捉えて、目標を目指す。さらにいえば、一歩進むごとに自分に対して「よく頑張ったね」「よくできたね」と、自分にご褒美をあげ、低い目標をひとつひとつ積み上げて、自分を肯定し、愛していくことが大事です。
全4回にわたってお届けしてきた、藤野智哉先生とのKIDSNA TALK、いかがだったでしょうか。
長期化するコロナ禍も相まって、私たちの周りには多くのネガティブ情報が溢れています。大変な社会状況だからこそ「頑張らなきゃ」と思うあまりに、心が疲れてしまいがち。でもそんな自分も受け入れ、考え込まず、目標は低く、あるがままの自分を受け入れ、自分を好きになる。
人生を楽に生きる方法、ぜひ今日から実践してみませんか。
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2021.12.22
今回は、“いい加減”と“いい諦め”のために、「考え込まない、がんばらないことの重要性」がテーマですが、考え過ぎやがんばりすぎてしまうことで、ネガティブになるのはどんな状態でしょうか?