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ユニセフが各国の保育政策や育休政策をランキングした報告書を発表
日本は育休1位、保育の質や料金では中位に。父親に認められている育児休業の期間が最も長いこと、取得率は低いものの改善に向けた取り組みが進められていること、保育従事者の社会的立場の低さなどが言及
「ユニセフ(国連児童基金)(以下、ユニセフ)」が、「経済協力開発機構(OECD)」および「欧州連合(EU)」加盟国を対象に、各国の保育政策や育児休業政策を評価し順位づけした新しい報告書「先進国の子育て支援の現状(原題:Where Do Rich Countries Stand on Childcare?)」を発表。
その政策とは、学齢期までの子どものための保育サービスへの参加率、料金の手頃さ(affordability)、質などを含む。
日本は育休1位、保育の質や料金では中位
子育て支援政策を比較したランキングで上位だったのは、ルクセンブルク、アイスランド、スウェーデン、ノルウェー、ドイツ。一方、スロバキア、米国、キプロス、スイス、オーストラリアが下位であった。
日本はというと、支援策の総合順位は21位。項目別では以下となっている。
育児休業制度:1位
就学前教育や保育への参加率:31位
保育の質:22位
保育費の手頃さ:26位
(保育の質のみ33カ国中、ほかは41カ国中の順位)
父親に認められている育児休業の期間が最も長いこと、取得率は低いものの改善に向けた取り組みが進められていること、保育従事者の社会的立場の低さなどが言及されている。
ランキングから見る世界の子育て支援事情
報告書の順位表で上位に位置付けられた国々は、保育の質と手頃な料金の両方を完備。それと同時に、母親と父親の両方に長期の、十分な給付が受けられる育児休業を提供し、両親がどのように育児をするか選択できるようになっている。
給付の得られる産前産後休業・育児休業は、両親が赤ちゃんとの絆を深めることを可能にし、子どもの健全な発達を支援。母親の産後鬱を軽減し、ジェンダーの平等を促進する。
また報告書では、母親に少なくとも32週間の(賃金と同等の給付が受けられる期間に換算して)育児休業を提供している国は半数にも満たないことを指摘。
父親の育児休業が提供されるとしても、大幅に期間が短く職業上や文化的な障壁のため、取得する父親は多くないが、この傾向は変わりつつある。
適切に設計された育児休業が、子どもが生まれて間もない時期の親を支え、このサポートが終了し親が仕事に復帰できるようになった後は、保育サービスが親たちが育児と仕事、そして自分自身の心身の健康のバランスを確保するのを助ける。
しかし育児休業の終了と手頃な料金の保育サービスを受けられるようになる時期が一致することはあまりなく、家族はこのギャップを埋めるのに苦労している。
手頃な料金で利用できる保育サービスがないことも、親にとっては大きな障壁となり、国内の社会経済的不平等を助長。
高所得世帯では、3歳未満の子どもの約半数が幼児教育や保育サービスを受けているのに対し、低所得世帯では3人に1人にも満たない状況だ。
アイルランド、ニュージーランド、スイスでは、平均的な収入の夫婦が2人の子どもの保育サービスを利用するには、1人分の給料の3分の1から2分の1をその料金に費やす必要。
ほとんどの高所得国では、脆弱な家庭に対し保育料の補助を十分にしているが、スロバキア、キプロス、米国では、低所得のひとり親の場合、それでも給料の半分程度の負担が必要になる。
必要な子育て支援の提供はよい社会・経済政策に
また報告書では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による保育施設の休園や閉園が、幼い子どもを持つ家庭をさらに厳しい状況に追い込んでいると指摘。多くの親が育児と仕事の両立に苦労しており、仕事を完全に失ってしまった人もいる。
それに対し「ユニセフ」は、少なくとも6カ月間の給付のある育児休業と、出生時から小学校入学までの間、質の高く手頃な料金の保育サービスに誰もがアクセスできるようにすることを提唱。
「ユニセフ」は、家族への投資拡大を推進するため、政府、市民社会、専門家、そして政策に影響を与える重要な役割を果たしている民間部門と協力して活動している。
さらに今回の報告書では、政府や民間企業がどのように保育や育児休業の政策・制度を構築するためのガイダンスも提供。
ユニセフ事務局長のヘンリエッタ・フォア氏は、「子どもたちがしっかりとした基礎を築くために必要な支援を親に提供することは、よい社会政策であるだけでなく、よい経済政策でもある」と語っている。
利用しやすく柔軟性や質の高い保育サービスが必要
日本は、父親の育児休業が世界で最も長いことから、育休に関するランキングでトップになっているが、ユニセフの子育て支援策ランキングでは中位。
その結果の後ろには、父親の育児休業が世界で最も長いにも関わらず取得率が低く、手頃な料金の保育サービスへのアクセスが限られているという逆説的な落差がある。
無償の保育・幼児教育へのアクセスの拡大、父親の育休取得の促進、保育従事者への正当な社会的評価などに、改善の余地があると言えると、今回の報告書の著者で、「ユニセフ・イノチェンティ研究所」のアナ・グロマダ氏は語る。
また日本は、父親と母親にみとめられた育休の期間がほぼ同じ長さである唯一の国。日本では当初、育休を利用する父親は非常に少ない状況であったが、年々利用者が増加傾向にある。
父親による育休の利用は、育児は母親の仕事であるという文化的な違いやジェンダーに関する社会通念を反映し、政策が導入されてからどれだけの時間が経ったかも反映している。
2007年に導入されたときは、日本の父親の1.6%しか利用していなかったが、2019年には5倍(7.5%)に増え、その年の公務員の取得率は過去最高の16.4%に。
2021年6月には、日本はより柔軟な育児休業制度を導入し、2025年までに父親の育休取得率を30%にすることを目指している。
育児休業が終了すると、一部の子どもたちは組織的な保育に参加。「ユニセフ」は、すべての親が利用しやすく、柔軟性があり、手頃な料金で質の高い保育サービスを利用できるようにすることを推奨している。
それが可能になれば、家族は、収入とさまざまな保育サービスの間で自分たちによりよい方法を選択することができる。
また、保育サービスを育児休業の終了に合わせて利用できるようにすることで、親が仕事に復帰する際に子育て支援の空白が生じないようにする必要がある。
しかし日本では、保育従事者は、学士号または一定の高等教育を修了していることが求められ、1人が担当する子どもの数は平均14人。しかもこうした保育の専門職の社会的地位は低く、質の高い保育を行うために求められる複合的なスキルや子どもの発達に対する理解の高さとは相反するものとなっている。
グロマダ氏は、日頃から日本のデータ動向をチェックしているが、保育士の3人に2人以上が、日本社会が自分の仕事を評価していないと感じていることに驚いたという。
これは調査された8カ国の中で最悪の結果であり、評価されていると感じている人の割合は、北欧の国などと比較すると2分の1以下。
保育は、社会に深く長く影響を与える数少ない仕事であるにもかかわらず、残念なことだとグロマダ氏。保育士の仕事に対する世間の認識は、労働条件とともに、どのような人がその仕事を志願し、留まるかに影響を与え、それが保育の質につながる。
まだまだ課題の残る日本の子育て支援。今回の調査結果をもとに、この機会にぜひ父親の育休取得や保育について考えるきっかけにしてみては。
※補足
「先進国の子育て支援の現状(原題:Where Do Rich Countries Stand on Childcare?)」では、OECD、EU統計局、UNESCO(国連教育科学文化機関)の2018年、2019年、2020年のデータを用いて、育児休業、また、出生から学齢期までの子どもの保育サービスへの参加、質、料金に焦点を当てている。
※日本ユニセフ協会プレスリリースを元に編集
https://www.unicef.or.jp/news/2021/0125.html
https://www.unicef.or.jp/news/2021/0127.html
問い合わせ先/日本ユニセフ協会
jcuinfo@unicef.or.jp
https://www.unicef-irc.org/reportcards/where-do-rich-countries-stand-on-childcare.html