出産時の陣痛促進剤使用の目的や効果。母親や胎児への影響はあるのか

出産時の陣痛促進剤使用の目的や効果。母親や胎児への影響はあるのか

出産時に陣痛が弱い場合や、予定日を超過している場合などに使われる陣痛促進剤。母子への影響があるのか不安を感じる方もいるでしょう。今回は、陣痛促進剤の成分や効果、リスクについて詳しく解説します。

陣痛促進剤とはどのような薬なのか

陣痛促進剤とは、「子宮収縮剤」や「陣痛誘発剤」ともいわれており、母親の体に投与して陣痛がくるように子宮を収縮させる働きを持つ薬です。


体内で作られるホルモンと同様の成分

陣痛促進剤には、主プロスタグランジンと、オキシトシンの2種類があります。

プロスタグランジンは生理痛を引き起こすホルモン、オキシトシンは産後に母乳を出すためのホルモン。そのため、陣痛促進剤は母親の体中で作られるホルモンとほぼ同様の成分となっています。

iStock.com/szeyuen
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プロスタグランジンには内服薬と点滴がありますが、内服薬は陣痛が来ない妊婦に対して、1時間に1錠ずつ、1日最高6錠まで服用します。服用しているうちに陣痛が強くなってきた場合は、服用を止めてそのまま様子を見ます。

内服薬の陣痛促進剤は、手軽に使用できますが、点滴よりも作用が弱く、投与量を調節するのが難しいことも。現在では、薬の投与量の調整がしやすいことなどから、オキシトシンを使うケースが多くなっています。

オキシトシンは点滴静脈注射で投与されます。基本的には、子宮口が開大しているにもかかわらず、陣痛が弱く分娩が進行しない場合に使用されます。

陣痛促進剤は、医師の独断では使用できません。出産する母親や家族へ必要性や合併症についての説明し、必ず同意を得てから使われると決まっています。そのため、出産時に陣痛促進剤を使用する可能性があることを知っておく必要があります。

iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
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陣痛促進剤使用の判断基準

陣痛促進剤は、主に、分娩誘発と出産直後に大量出血を防ぐという2つの場面で使われており、母親や胎児のために有益と判断された際に使用されます。


分娩誘発を目的とし陣痛促進剤を使用するケース

陣痛促進剤は、妊娠の継続により母子に危険が及ぶ恐れがあり、できるだけ早く赤ちゃんを体外へ出した方がよいと医師が判断した場合に使用を検討します。

具体的には、以下のような状況の場合に使われることが多いとされています。

・微弱陣痛が続き、赤ちゃんを産むのに必要な程度まで陣痛が強くならない

・破水をしても長時間陣痛が始まらない

・お産が長引き、母子ともに体力が落ちている

・胎盤や胎児の状態が悪く、早く胎外に出したほうがよいと判断された場合

・予定日を大幅に過ぎている

・妊娠高血圧症候群や心臓病などの持病により、母体への影響を考慮した場合

破水をしたのに陣痛が起こらない場合は、子宮内に細菌感染を引き起こし、赤ちゃんが子宮内にいると危険な状況に。

また、予定日より2週間以上超過すると、胎盤機能が低下する確率が高くなるため子宮や胎盤に血液が十分に届かず、胎盤機能が低下して子宮内の赤ちゃんが危険な状況になるため、陣痛促進剤を使用してお産を進める場合があります。

iStock.com/Bunwit
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ただし、陣痛促進剤は、「経腟分娩が可能」「母体が分娩準備状態にあること」などの条件を満たしていなければ使用できません。また、過去に帝王切開や子宮切開をしたことがある、使用する薬剤へのアレルギーがあるといった場合には、陣痛促進剤を使うことができないケースもあるため注意が必要です。

妊娠促進剤を使用できない場合は、以下の処置を検討します。

・子宮から卵膜を指で直接少し剥がして子宮口の開きや陣痛を促進させる「卵膜剥離」

・「ラミナリア」と呼ばれる棒のような器具を子宮頸管に入れ、分泌液で膨張させながら子宮口を開いていく方法

・「バルーン」を子宮腔内に入れ、膨らませることにより子宮口を広げる処置

・上記でも分娩進行を認めない場合には帝王切開


出産後の大量出血を防ぐ目的

一方、出産後の大量出血を防ぐための目的として使用される、陣痛促進剤の子宮収縮作用を利用した止血の方法は、産科ガイドラインにも明記され、現在多くの施設で使われています。

出産を直前に控えた子宮には、毎分1Lもの血液が注がれており、産後に胎盤が剥がれた後は、子宮の収縮で出血を止めなくてはなりません。ところが、収縮力が弱いと大量出血を起こす場合もあるため、陣痛促進剤(子宮収縮剤)を使用した止血には大きな意味があります。

その他、無痛分娩やハイリスク分娩など、予定した期日に出産をする計画分娩でも陣痛促進剤が使われることがあり、陣痛促進剤は産前・産後に関わるさまざまなシーンで活用されています。

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陣痛促進剤の効果やリスク

効き目に個人差

陣痛促進剤は、投与してすぐに陣痛が始まる人もいれば、陣痛が始まるまで数時間かかり、さらに子宮口が開くまでも何時間もかかる人など、効き目には個人差があります。

iStock.com/gorodenkoff
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陣痛促進剤を使ってもお産が進まないときは、薬の量を増やして対応するケースも。

投与して効果がない場合は、一度処置をやめて次の日に再び投与するなど、出産までに時間がかかる人もいるため、いつからいつまで陣痛促進剤を使うのかということについては個人差があり、一様にはいえません。

薬を使っても順調に分娩が進行しない場合や、陣痛促進剤を使用した分娩よりも帝王切開の方が有益と判断された場合には、途中で帝王切開に切り替えられることもあります。


痛みやリスク

陣痛促進剤のリスクとされているのが、過度な陣痛を起こす「過強陣痛」。

子宮の収縮が必要以上に強くなると胎盤の血流が悪くなり、それが続くことで胎児の状態が悪くなることがあります。また、強い収縮に耐え切れず、子宮や産道が裂けてしまい、大量出血することも。

また、陣痛促進剤には、腸を動かす作用を持つ薬もあるため、嘔吐や下痢などの症状が出た場合は投与を中止しなければならいこともあります。

しかし、これらのリスクをしっかりと理解し、正しく使用することで、回避することは十分可能です。

リスクを知り、正しい知識を持つことが大切

iStock.com/NataliaDeriabina
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陣痛促進剤の使用に掛かる費用は、薬の投与量や施した処置の種類、分娩所要時間により異なりますが、通常の分娩にかかる費用に加え、数千円から数万円ほど上乗せされます。

健康保険では、妊娠・出産は病気とはみなされず、保険は適用されませんが、妊娠高血圧症候群などの病気や、微弱陣痛や前期破水などの異常分娩が原因で、医師が治療として陣痛促進剤を使用した場合は健康保険が適用されることもあります。

分娩中に突然、陣痛促進剤の使用を勧められるととまどうかもしれませんが、医師は母親と胎児の両方の命を守るために決断しています。陣痛促進剤について気になることがある場合は、納得がいくまで医師からの説明を受け、リスクを知ったうえで判断しましょう。


監修:林 聡(東京マザーズクリニック)

Profile

林聡(東京マザーズクリニック)

林聡(東京マザーズクリニック)

医学博士。産婦人科専門医。広島大学医学部卒業。広島大学大学院医学系研究科修了。大学の医局に勤務後、フィラデルフィアで胎児診断を学び、国立成育医療センターで国内初の胎児診療科の立ち上げ参加を経て、2012年に24時間365日対応の東京マザーズクリニック院長に就任。これまで手掛けてきた無痛分娩は延べ4000件以上。専門分野は胎児診断・各種胎児疾患の治療、臨床遺伝学(出生前診断)、周産期医学。著書に『怖くない・痛くない・つらくない 無痛分娩』(PHPエディターズ・グループ)。

2021.01.04

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