「実は現代日本で最大の選抜イベント」…高校入試が"学力検査と内申書のミックス"になった歴史的背景
全中学生に占める公立中学生の比率は9割を超える
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現在の高校入試の仕組みはどのようにして作られてきたのか。東京大学教授の中村高康さんは「学力検査と内申書の比重やその取扱いをめぐる制度改革の試行錯誤が、高校入試の歴史といってもよい」という――。 ※本稿は、中村高康『高校入試と内申書』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
現代日本で最大の「選抜イベント」
「高校入試」と聞くと、なんともいえない緊張感と甘酸っぱい思い出がよみがえってくる人も多いのではないだろうか。
社会には好むと好まざるとに関わらず教育を通じた進路の分岐が生じていく局面がある。その大きな分岐点となるのが入学試験である。そして、世間では大学入試がなにかと話題になるが、実は現代日本の文脈で最大の選別イベントといえるのが、高校入試なのである。だからこそ、この制度に対する人々の思いは様々に交錯する。そのため、つい自分の体験から現代の高校入試を批判したり評価したりする。
しかし、本当によい制度を考え議論するためには、体験だけに頼らない社会学的視点を確保したい。それが本書を通じたミッションとなる。さしあたりこの序章では、本書全体で取り組む高校入試――とりわけ本書で注目する内申書――の諸問題に関する歴史的・学術的背景をまず押さえておこう。
全中学生のうち9割は公立中学生
日本社会では、もっとも多くの人が経験している入試は高校入試である。小学校はもちろんだが、中学校も義務教育段階であるから、国立・私立の中学校や公立中高一貫校などの入試はあるものの、多くは無試験で自分が居住している学区の公立中学校に進学する。全中学生に占める公立中学生の比率は、東京では7割強(国立・私立中学生の割合は27.2%)であり、日本全体でみれば91%である(※1)。
※1 文部科学省「令和6年度学校基本調査」より筆者計算。
首都圏の中学受験は過熱しているといわれるが、基本形は、公立中学への無試験進学なのである。一方、大学は義務教育ではないから、当然ほとんどの大学でなんらかの選抜や資格審査がある。しかし、四年制大学進学率は年々上がってはきているものの、現在でも同年齢人口の半数を超える程度である。それに対して、同年齢層の9割をカバーする高校入試は、ある意味で、子どもたちを一斉にふるい分ける日本最大の選抜イベントなのである。