会議室からは出てこない本音がある…モジモジする部下の心の声を引き出す会社の「部屋、机の形、座り方」
「安心」は言葉だけでなく、環境でも生まれる
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部下とじっくり話がしたいとき、最適な場所はどこか。東京大学で上廣共生哲学講座特任研究員を務める堀越耀介さんは「物理的な空間をどうデザインするかによって、対話の良し悪しは決まってしまいます。会議室よりもおすすめな環境はこちらです」という――。 ※本稿は、堀越耀介『世代と立場を超える 職場の共通言語のつくり方』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
良い対話には「環境」が超重要
ここからは、物理的な環境設定やテクニックについても考えていきましょう。実にさまざまな種類や地域の学校や企業での哲学対話を通して学んだこと――それは、物理的な対話の空間をどのようにデザインするかによって、対話がうまくいくかどうかが決まってしまうということでした。
当然のことですが、人間も生物ですから、どんな些細なことであろうと環境の影響を大きく受けることになります。人間同士のコミュニケーションも、空間や状況にかなりの程度で影響を受けています。
言い換えれば、どんなとき、どんなところで実施したとしても、心構えさえしっかりしていれば理想的な対話が成立することは、まずあり得ません。これは、会話や討論であれ、専門家やプロフェッショナル同士の対話であれ、同じことです。
たとえば、対話のためにどのような部屋を用意するか、椅子や机の配置をどうするか、どれくらいの人数・性質の人がそこに集まるか、温度や明るさはどうか、どういうステップで対話を整理していくか――こうしたテクニカルな条件が決定的に成果の質を左右するのです。
次に挙げる条件は、あくまで私が対話のワークショップを開催する際に重視する環境設定です。これはおおよそ「対話」というもの全般に応用可能な条件ですので、ぜひ対話の場づくりの参考にしていただければと思います。
「部屋」は芸術的な気分になれる場所を選ぼう
まず、対話をする部屋についてです。日常的なルーティンのなかで使っていない場所であることと、一定の広さのある場所が、対話の空間として望ましいと感じます。
学校で言えば、教室、職員室、会議室よりも、体育館、音楽室、美術室、多目的室などが効果的です。普段、日常的に利用していて、あまりポジティブでないイメージやルーティンが染みついているような場所は、そのときのマインドセットや態度を思い起こしがちだからです。
ですから、できれば自由なイメージのある空間、もっと言えば芸術的な気分になれる部屋があればよりよいでしょう。
ただ、多くの企業にはこうした空間がありません。その場合、まずはできる限り広い空間を用意するとよいでしょう。空間が狭いと、気分的にも縮こまった気持ちになりやすく、発言が遠慮されがちになります。
また、狭く密閉された空間では些細な雑音に敏感になって気が散ったり、一人ひとりの発話も「その人がいまみんなの前で話している」という現象にスポットライトが当たって目立ってしまい、まるで「スピーチ」をするように際立ってしまったりすることがあります。そうすると、シーンとした部屋でひとりが話すように感じられ、やはり発話を遠慮する人が出てきます。
大きい部屋や、あるいはラウンジのようにオープンな空間であれば、沈黙やひとりの発話が過度に目立つことが少なくなり、場が少し緩やかに感じられることもあるでしょう。もし広い空間が確保できず、狭い部屋を選ぶしかない場合でも、たとえば窓を開けてみるといった簡単な作業によって、こうした状況を打開する一助になると感じます。