「インディアン」も「ジプシー」も差別用語ではない…異常な"言葉狩り"にアメリカ先住民族がついに声を上げた理由
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懐メロの歌詞が“言葉狩り”の標的に
ウド・リンデンベルクは、60年代の終わりから90年代まで大活躍したドイツのロックミュージシャンだ。ちょうどビートルズの時代と重なるが、英語が主流だったロックの世界で、自作のドイツ語の歌で一世を風靡した。現在78歳。まだファンは多く、断続的に活動しているようだが、日本で言うなら懐メロの世界かもしれない。
ところが今、突然、リンデンベルクの往年の歌をめぐって騒動が起きている。ベルリンのフンボルト・フォーラムで、11月16日、17日にコーラスのイベント・コンサートが開催されるのだが、その演目として、リンデンベルクの1983年の大ヒット曲『パンコー行きの特別列車』が入っている。そして、その歌詞の中に出てくる“Oberindianer”という言葉に主催者側が異常に反応しているのだ。
これに関しては少し説明が必要だろう。リンデンベルクの活躍した当時は冷戦の真っ最中で、西側の人間は、東ドイツの同胞がソ連の人質になっているという思いを持っており、東独の独裁政治批判に余念がなかった。この『パンコー行きの特別列車』も、リンデンベルクよる東独の独裁者エーリッヒ・ホーネッカーへの呼びかけで、歌詞は次のように始まる。
独裁者を「インディアンのボス」と表現したら…
Entschuldigen Sie ist das der Sonderzug nach Pankow
Ich muss mal eben dahin
Mal eben nach Ost-Berlin
Ich muss da was klarn mit eurem Oberindianer
(すみません、これはパンコー行きの特別列車ですか? 僕はそこへ行かなきゃいけない。ちょっと東ベルリンまで。そこで、あなた方の“Oberindianer(オーバーインディアーナ)”と話をしなきゃいけないんだ)
“Oberindianer”というのは「インディアンのボス」という意味の造語で、ホーネッカーを指す。つまりリンデンベルクは、ホーネッカーをこの言葉でおちょくったわけだ。
このあとの歌詞は、東独でコンサートを開かせてほしいというリンデンベルクの嘆願をユーモアと皮肉で綴つづったものだ。蛇足ながら、もし、ホーネッカーが本気で怒ったとすれば、下記の箇所だったかもしれない。
Ich weis tief in dir drin bist du doch eigentlich auch 'n Rocker
Du ziehst dir doch heimlich auch gerne mal die Lederjacke an
Und schliest dich ein auf'm Klo und horst West-Radio
(僕は知っているよ、あなたは心の底では僕らと同じロックのファンで、時にこっそり革ジャンを着て、トイレに隠れて西側のラジオを聴いているんだろ)
しかし、これらはすでに過去の話で、何の問題でもない。現在、炎上しているのは、前述の通り、インディアンのボスという言葉のみである。