「900万円の高級トラック」もイーロン・マスクなら売れる…EV逆風の中、テスラが「一人勝ち」できた理由
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2年半ぶりに「時価総額1兆ドル(約153兆円)」を突破
米テスラの株価が急騰している。
イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)がドナルド・トランプ氏を支持し活動を支援してきたこともあり、大統領選後に前週末比11.6%高の358.64ドルまで高騰した。同社の時価総額は11月8日の米株式市場で約2年7カ月ぶりに1兆ドル(約153兆円)を突破。欧州はじめ各国のEV支援策が縮小して業界に逆風が吹く中、テスラ1社が気炎を上げている格好だ。
テスラ株が「政治銘柄」になったせいばかりではない。
10月23日発表の2024年7~9月期の決算が、市場予想を上回ったことも大きい。
7~9月期の納車台数は、前年同期比約6.4%増の46万2890台。今年初めて前年同期を超えた。売り上げは251億8200万ドル(約3兆8400億円)と前年同期比7.8%増、最終利益は21億6700万ドル(約3300億円)で約16.9%増となっている。3四半期ぶりに増益に転じた。
増益の主な要因は、政府の補助金による販売促進策をとる中国でEV販売が好調だったことがあげられる。このほか、発電や蓄電などエネルギー関連事業による収入も大幅に増えている。
さらにマスク氏は「2025年の世界販売台数は最大20~30%伸びる」との見通しを示した。株価は翌24日に22%高で終え、約11年ぶりの大幅上昇となった。
テスラの業績と株価を押し上げた要因はいくつかあるが、ここでは「サイバートラック(Cybertruck)」と「ロボタクシー(Robotaxi)」の2つに着目して解説していきたい。
驚異のスピードで黒字化を達成した「サイバートラック」
電動ピックアップトラックの「サイバートラック」は、2019年11月に発表された。出荷は予定より2年ほど遅れ、2023年11月に始まっている。今回、このサイバートラックが初めて黒字化を達成したことが明らかにされた。出荷が始まって1年以内の黒字化は驚異的なスピードであり、テスラにとって重要な収益源になると期待されている。
サイバートラックは、どのような点が評価されているのか。一見してわかるように、デザインやコンセプトには未来志向のビジョンが込められている。角張った直線基調の車体は、ボディパネルに「スペースX」のロケットにも採用されたステンレス合金、超強力ガラスとポリマーレイヤーの複合材による「テスラ アーマーガラス」を使用するなど、耐久性がセールスポイントのひとつになっている。プロモーション動画には、マシンガンでボディや窓ガラスを撃つシーンがあるほどだ。
ピックアップ市場は「ビッグスリー」と呼ばれたゼネラル・モーターズ(GM)、フォード、クライスラー(現ステランティス傘下)が強いといわれてきた。しかしサイバートラックは、2024年7~9月期に生産を本格化し、順調に販売台数を伸ばしてEVピックアップ市場で圧倒的な存在感を示すようになる。出荷開始から1年とたたないうちに、米国EV市場での販売台数が、同じテスラのモデルY、モデル3に次ぐ第3位まで急上昇したのも驚きだ。
ただし、サイバートラックにはいくつかの課題がある。
まず、販売価格が約6万ドル(約900万円)以上と、約4万ドルからある他のEVトラックに比べて高額な点だ。
また、これまで6度にわたってリコール(無料の回収・修理)対象になっている。今後の大量生産で品質を保ちつつコストを抑えることが収益性に大きく影響するだろう。