これでは「インフレ地獄」に逆戻り…政権交代したイギリスで始まった「増税バラマキ」の大きすぎる代償
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バラマキと増税を組み合わせた英新政権
7月の総選挙で大勝し、14年ぶりに政権交代を実現した英国の労働党。キア・スターマー首相が率いる新政権が、時代錯誤ともいえるマクロ経済政策運営に突き進もうとしている。すなわち、レイチェル・リーブス財務相が10月30日に発表した2025年度の予算案は、総じて拡張的であり、いわゆる「大きな政府」を目指すものであった。
予算案でスターマー政権は、公共投資以外の政府活動は税収で賄うという「安定化ルール」と、公共投資は起債で賄うという「投資ルール」を定めたうえで、経済成長と財政再建の両立を目指すとしている。増税も行うし起債も行うが、バラマキで経済成長を加速させて、結果的に財政を健全化させるという、典型的な中道左派のロジックである。
コロナショックを受けて悪化した英国の財政は健全化が遅れており、政府が指標とする公的債務残高(英中銀を除く純債務ベース)は名目GDP(国内総生産)の90%台後半で推移し、健全化が遅れている(図表1)。スターマー政権は前任の保守党政権の責任であるとして、財政の改善のためには増税は避けては通れないと力説する。
実際、英国の財政運営に鑑みた場合、歳出減か歳入増、あるいはその両方のバランスをとる必要がある。少なくとも、金融市場はそう考えている。したがって、前々任のリズ・トラス元首相が大型減税を打ち出した際に、金融市場では長期金利が急騰し、ポンド相場も急落した。その結果、トラス元首相はわずか50日での退陣を余儀なくされた。
スターマー政権は富裕層への増税と起債を基に、歳出を拡大させて経済成長を促し、経済成長を加速させると力説する。とはいえ、金融市場では歳出の拡大が嫌気されており、金融市場では金利の上昇と通貨の下落が進んだ。通常、「大きな政府」の下では財政状況の改善は見込めないため、投資家はまず失望売りというかたちで回答したわけだ。