鉄道各社に2年通い採用勝ち取る…駅の「のりかえ便利マップ」は30年前に256駅調べ上げた主婦の汗の結晶だった
今やどこの駅にもあるが、鉄道会社が作ったわけではなかった
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【後編】事業を増やしすぎて大失敗…「のりかえ便利マップ」生みの親が“部署ごと一斉退職”から立ち直った言葉 目的地の駅まで何分かかるか。どの車両なら降りてからエレベーターに近いか。今や地下鉄、JRの各駅に掲示され、Googleマップなどのスマホのアプリにも組み込まれている便利な情報は、約30年前ベビーカーで電車を利用して不便を感じた主婦・福井泰代さんのアイデアから生まれた。この「のりかえ便利マップ」はどのように誕生し、ビジネスになったのか。ライターの辻村洋子さんが取材した――。
「嫌だな」はビジネスチャンス
今いる駅から目的の駅までの所要時間や、何両目に乗れば階段やエスカレーターに近いかがひと目ででわかる「のりかえ便利マップ」。駅のホームで見かけたり、実際に活用したりしている人も多いのではないだろうか。1998年に営団地下鉄(現・東京メトロ)が採用したのを皮切りに鉄道各社に広がり、今やすっかり日常の風景に溶け込んでいる。
このマップの制作や更新を手がけているのは「ナビット」という会社だ。代表取締役の福井泰代さんは、のりかえ便利マップの発明者でありナビットの創業者。専業主婦時代に「子育てで感じた不便を解決したくて」趣味で発明を始め、自らのアイデアを形にしては次々と企業に売り込んできた。
「嫌だなと思ったらそこにビジネスチャンスがあると思え。これは30年ほど前、発明学会に入ったとき最初に習った言葉なんです。その言葉通りに、『嫌だな』を解決するモノをひとつずつ作っていったらこうなりました」
柔らかな口調でそう語る福井さん。発明を始めた当初、目指していたのは企業に自分のアイデアを商品化してもらうことだった。その夢を実現し、事業にまで育て上げられたのは「運よく」でも「たまたま」でもない。地道な努力と持ち前の粘り強さで、自ら成功を引き寄せたのだ。
最初の発明は息子の「おしゃぶり」
大学で経済を学び、卒業後は大手メーカーに就職した。男女雇用機会均等法2期生に当たるが、当時はまだ男性優位の風潮が強く、女性は頑張っても評価されにくかった時代。ここに居続けても先が見えないと感じた福井さんは出産を機に退職し、その後数年間、家事育児に専念する日々を送った。
「でも家事育児って、やって当たり前みたいな感じで誰もほめてくれないんですよね。評価もされないし、毎日同じことの繰り返しで退屈し始めていたところに発明に出会ったんです」
きっかけは「おしゃぶり」だった。2人目の子が生まれたばかりのころ、ふと思い立って、おしゃぶりを落とさないようにと、マスクのようにヒモを付けて耳に掛けられるようにしてみた。すると、ママ友の一人が「それ面白いから特許を取ってみたら」と言ってくれたのだ。