「透析患者だから旅行はムリ」とあきらめないで…ホテルを予約するように外出先で透析する「旅行透析」のすごい挑戦

「透析患者だから旅行はムリ」とあきらめないで…ホテルを予約するように外出先で透析する「旅行透析」のすごい挑戦

腎不全を抱えつつ働く池間真吾さんは、出張や旅行など出先での透析施設予約の困難さに悩んだ。その経験から透析患者の旅を支援する「旅行透析」を起業。全国の透析患者に希望を与えるその挑戦とは――。

旅行先での透析で14カ所から断られる

池間真吾さんは1970年生まれで現在54歳、13歳を筆頭とする三児の父だ。人工透析を余儀なくされたのは、脱サラして沖縄で民宿とレストランを経営していた38歳の時だった。

「大学を卒業し、広島のテレビ局で働いていたんですが、報道記者として県警の記者クラブに所属し、着替えも記者クラブに置いて、家に帰るのは月に2、3回という忙しさでした」

池間さんは会社員時代をそう振り返る。精神的にきつくなってしまい、好きだった旅行関係の仕事をしたいと30代半ばで退職、沖縄に移住する。

「最初は台湾で日本人宿を経営しようかと考えていたんですが、沖縄でゲストハウスの経営をやめる人がいて、そちらを引き継ぐことになりました」

民宿に加えレストランの経営も引き継ぎ、忙しく働くうちに、体に異変が起きた。

「おしっこをすると泡が出たり、体がだるくて途中で休まないと歩道橋の階段も上がりきれない。健康診断で『腎不全の一歩手前です』と言われました」

だが忙しい池間さんは透析を拒否、さらに半年働き続けた。体調は一段と悪化、腎機能不全を示すクレアチニンの値は20に達し、医者から「このままだと突然死」と言われ、ついに透析を決意する。

「透析では血液を固まりにくくするヘパリンという薬を使うんですが、私はその影響で、最初の透析で目や手足や胃腸など全身に内出血を起こしてしまいました。治療せずに放置していたため、血管がぼろぼろになっていたんですね」

そのまま100日以上も入院することになり、民宿もレストランも手放さざるをえなくなった。

退院後、民宿経営時代から交際していた宮古島出身の女性に誘われて宮古島に移住。そこで結婚する。

宮古島では民宿経験を生かし、農家や漁師に宿泊業の免許を取らせて副業で民宿を行うという行政の施策を請け負い、2年後には観光協会の依頼で宮古島観光協会職員となった。

「当時、大阪や東京などで宮古島への修学旅行がブームになっていて、その勧誘のため大都市へ出張する機会が増えました」

そこで問題となったのが、出張先での透析施設の確保だった。「私が透析を始めた当初は、4時間の透析が長くて嫌で仕方なかったんですが、勉強するうちに、長時間透析をすることで確実に体調が良くなることを知りました」

透析時間は一般に4時間と言われているが、それは生きながらえるのに必要な最低時間にすぎないという。

「透析では、1回に体重の3〜5%ほどの水分を除去しますが、これを4時間でやると、心臓に相当な負担となります。体に溜まった毒素も4時間だと抜けきりません。時間をかけて緩やかに透析をすれば、食事もしっかり食べられるし、生命予後も確実に良くなります。4時間と5時間で、体調が全然変わってくるんです。でも多くの患者は病院からそうしたことを教えられていません」

池間さんは当時、1回5時間半から6時間の透析を週に3回行っており、旅行先でも長時間透析を続けたいと考えたが、それは非常に困難なことだった。

「ほとんどの病院では透析は4時間までしかやっていないのです。実家のある金沢に出かけたときには、5時間の透析を受け入れてくれるところを探し、続けざまに14カ所で断られました」

15軒目にようやく5時間透析を受け入れてくれる透析クリニックを見つけることができたが、池間さんはそのとき「日本の透析患者はみんなこんな大変なことをやっているのか」と痛感する。

「このときは大きな病院を中心に探したのですが、実は日本の国立や公立の病院はほとんどが臨時の透析を受け入れていないのです。当時の私はそんなことは知りませんでしたし、今の透析患者の多くも知りません。何度電話しても断られてしまうので、みんな旅行自体をあきらめてしまうんです」

旅行先では日中の長時間透析より、オーバーナイト(夜間)透析を行ってくれることが理想的だ。

「オーバーナイト透析というのは、夜、寝ている間に透析を行うことです。家族と旅行に行く際、長時間透析を行うと、日中の時間がそれに費やされてしまい、せっかくの旅行先で家族と一緒に過ごす時間が減ってしまいます。オーバーナイトであれば、夜中に病院に行って朝方帰ってくればいいので、貴重な旅行時間を一緒に行動することができるんです」

しかし現実には、オーバーナイトを受け入れてくれる透析施設は少ないうえ、まして旅行透析でオーバーナイト透析を実施してくれるところはほとんどない。池間さんは、出張するたびに、昼休みの1時間を使って、そうした透析施設がないか探し回った。大変な作業で、「これをデータベース化すれば、同じ透析患者さんに役立つのでは」と感じた。そして、2012年に観光協会を退職、株式会社旅行透析を設立したのだ。

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2025.06.04

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