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産婦人科医に聞く。HPVワクチン接種の積極的推奨再開について
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医療法人浅田レディースクリニック理事長
医療法人浅田レディースクリニック理事長
日本でも有数の体外受精成功率を誇り、愛知・東京でクリニック展開する「医療法人浅田レディースクリニック」の理事長を務める。海外での体外受精研究実績を持ち、顕微授精の第一人者。妊娠という“結果”を重視した「浅田式」不妊治療を行っている。
厚生労働省が8年前から中止していた「HPV(子宮頸がん)ワクチン接種の積極的な推奨」を2021年10月、再開する方針を固めた。そこで今回の記事ではHPVワクチン接種に関して知っておくべきことについて産婦人科医の浅田正義先生に話を聞いた。
世界的に遅れをとっている日本のHPVワクチン接種
ーーはじめに、HPVワクチンをめぐる日本の状況についておしえてください。
「子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)感染を防ぐワクチンの日本での接種率は、現在わずか1%未満と世界的に見てもかなり低い数字です」
“
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、性経験のある女性であれば50%以上が生涯で一度は感染するとされている一般的なウイルスです。子宮頸がんを始め、肛門がん、膣がんなどのがんや尖圭コンジローマ等多くの病気の発生に関わっています。特に、近年若い女性の子宮頸がん罹患が増えています。HPV感染症を防ぐワクチン(HPVワクチン)は、小学校6年~高校1年相当の女子を対象に、定期接種が行われています。
出典: 厚生労働省「ヒトパピローマウイルス(HPV))感染症とは」
「厚生労働省は2013年4月から公費による助成でHPVワクチンの定期接種を提供してきましたが、接種後の痛みや副作用の報告が相次いだことを受けて、同年6月に『積極的な接種推奨』を中止しました。
これが日本でのワクチン接種率を大きく下げる原因となり、現在は厚生労働省も推奨を進めるものの大きく接種率を上げるには至っていません。
しかし、日本では今でも年間1万人あまりが子宮頸がんに羅患し、年間2,800~3,000人が亡くなっています。世界保健期間(WHO)は2015年に『若い女性をヒトパピローマウイルスによるがんの危険にさらしている』と日本での摂取状況を批判する声明を出していました。
子宮頸がんで亡くなる方を年齢別に見てみると30代後半から増える傾向があり、子育て中の母親が病に倒れ子どもが遺されてしまうことを考えると、子宮頸がんはかなり広範囲の人々に影響を及ぼす病気だといっても過言ではないでしょう」
「最近の報告によると、世界的にはHPVワクチン接種と検診を組み合わせることで今世紀中には子宮頸がん患者はほぼいなくなるとされています。
このまま国内でHPVワクチン接種率が上がらなければ、先進国の中で日本だけが唯一『子宮頸がん患者が存在する国』になってしまう可能性もあります」
世界では「男性のHPVワクチン接種」はスタンダード
ーー改めて、HPVワクチン接種推奨再開の意義についておしえてください。
「今回の接種推奨再開に至るには、近年の国内外の調査でHPVワクチン接種後に生じる諸症状の関連性については科学的根拠が認められないと報告された背景があります。
現在、世界80カ国以上で国の公費助成によるHPVワクチン接種が実施されていて、そこから日本は大きく遅れをとっているのが現状です」
ーーHPVワクチンは、男性も接種したほうがよいのでしょうか。
「ヒトに害を及ぼすウイルスという意味では、HPVワクチンは女性だけでなく男性も打つべきです。男性がワクチンを打たなかったために完全に感染を止められなった風疹がわかりやすい例ではないでしょうか。
子宮頸がんを発症するのは女性ですが、ウイルスを媒介するのは男性です。
HPVワクチンを接種することによって男性の陰茎がんを予防できるメリットもあります。女性の身を守るためにも、自身の身を守るためにも、男性も接種すべきだと考えます」
HPVウイルスは一度感染したら排除できない
ーー大人になってからのHPVワクチン接種に効果はありますか。母親である私たちも今から打つことはできるのでしょうか。
「HPVワクチンは、初めての性交渉前に接種しておく必要があります。
性交渉をする年齢になれば男女問わず多くの人がHPVウイルスに感染します。ワクチン接種によりそれを予防することはできますが、すでに感染している細胞からHPVを排除する効果は認められていません。
HPVに感染した一部の女性が子宮頸がんを発症するので、ウイルス感染自体を予防することができたらそのリスクはほぼなくなります。
子宮頸がんによって子宮を失ったり命を落とすことを防ぐためにも、性交渉前に接種することをお勧めします。発症してからでは間に合いません」
日本で容認されているHPVワクチンの種類
ーー現在、日本で推奨されているHPVワクチンには2価、4価、9価の3種類がありますが、どのように違うのでしょうか。
「HPVウイルスはコロナウイルスなどと同様に『変異』がありその種類は180種類以上といわれています。ウイルス感染してから子宮頸がんに進行するまで数年〜数十年かかると考えられていますが、その中でも特にHPV16型、HPV18型は進行のスピードが早いとされています。
2価ワクチンはこの2つに対応していて、4価ワクチンはこれらに加えて尖型コンジローマ(*1)の原因となる6型・11型にも対応しています。9価はこれらに加えて合計9つの型に対応するワクチンで、女性の膣がんや男女ともに肛門がん、中咽頭がんの原因となるウイルスも予防することができます。
9価ワクチンはより広くさまざまなウイルスに効果があるといわれているので、感染予防のターゲットとなるウイルスがたくさんあるほうが安心という考えの方は、9価を選ぶとよいのではないでしょうか」
【国内で推奨されるHPVワクチンの種類と予防できるウイルス】
・2価 予防できるウイルス
16型、18型
・4価 予防できるウイルス
6型、11型、16型、18 型
・9価 予防できるウイルス
6型、11型、16型、18型、31型、33型、45型、52型、58型
(*1)
ヒトパピローマウイルス6、11型などが原因となるウイルス性性感染症で、生殖器とその周辺に発症する
コロナで改めて注目されたワクチン接種の効果
ーーここ数年のコロナ禍で、ウイルスに対するワクチン接種の効果や意義などが活発に議論されるようになったことは、HPVワクチン接種にも影響を及ぼすのでしょうか。
「HPVワクチンもコロナワクチン同様、接種は強制ではありません。有効性やリスクを各個人が検討し判断することになりますが、接種することで社会全体を守るという公衆衛生的観点から見ても、その重要性は今後さらに理解が進むと思います。
コロナ禍により、ワクチンを他人にうつすリスクに対する意識が高まっている今の状況は、社会全体を子宮頸がんのリスクから守るためにHPVワクチン接種率を上げる絶好の機会ともいえます」
コロナ禍により公衆衛生やワクチンの重要性が改めて議論されている今、大切な子どものため、ひいては社会全体の感染防止のためにもHPVワクチン接種を親子で検討してみてはどうだろうか。
参考
浅田義正(浅田レディースクリニック院長)
Profile
浅田義正
日本でも有数の体外受精成功率を誇り、愛知・東京でクリニック展開する「医療法人浅田レディースクリニック」の理事長を務める。海外での体外受精研究実績を持ち、顕微授精の第一人者。妊娠という“結果”を重視した「浅田式」不妊治療を行っている。
<取材・執筆>KIDSNA編集部