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無痛分娩という選択。事前に知っておきたいメリットやリスクと正しい産院選び
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東京マザーズクリニック 医学博士/産婦人科専門医
東京マザーズクリニック 医学博士/産婦人科専門医
医学博士。産婦人科専門医。広島大学医学部卒業。広島大学大学院医学系研究科修了。大学の医局に勤務後、フィラデルフィアで胎児診断を学び、国立成育医療センターで国内初の胎児診療科の立ち上げ参加を経て、2012年に24時間365日対応の東京マザーズクリニック院長に就任。これまで手掛けてきた無痛分娩は延べ4000件以上。専門分野は胎児診断・各種胎児疾患の治療、臨床遺伝学(出生前診断)、周産期医学。著書に『怖くない・痛くない・つらくない 無痛分娩』(PHPエディターズ・グループ)。
共働き世帯が増えるとともに関心が高まる計画無痛分娩。産前産後の生活を快適に過ごすためにも、多様化する分娩スタイルから自分に合った選択をしたいという方もいるのではないでしょうか。今回は、計画無痛分娩について、事前に確認しておきたい注意点とリスク、病院選びのポイントについて解説します。
無痛分娩とはどのような分娩スタイルなのか
無痛分娩とは、あらかじめ設定した出産日に麻酔を使用して、子宮の収縮による陣痛と赤ちゃんの頭によって、膣や外陰部などが押し広げられるときの痛みを和らげながら出産する方法です。
医療介入を行い計画的に出産する場合には、計画無痛分娩といわれることもあります。
痛みやからだへの負担を軽くする無痛分娩
無痛分娩の利点は主に3つあります。
・出産の痛みが和らぐ
・血圧の上昇を抑えられる
・産後の体力を温存できる
そのため、心臓や肺に疾患を持つ妊婦の方や、血圧がもともと高い方、陣痛に対して強いストレスを抱えている方や、不安を感じている方は、無痛分娩を選択することで、出産による痛みや体への負担を軽くすることが可能になります。
産後の体力の面では、実際に無痛分娩をしなかった人と比べ、産後24時間までの疲労感を減少させる効果があるという研究結果も報告されています。痛みを取り除くことで精神的に安定すると、結果として疲労感が少なくなり、産後の体力を温存できることにつながります。
下記条件が当てはまる場合は無痛分娩が難しいこともあるため注意が必要です。
・赤ちゃんや母体の状況が悪く経膣分娩が難しい
・大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症といった心疾患などの持病がある
・すでに子宮口が全開して分娩が進行している
その他、血小板が少なく出血しやすい、もともと腰痛がひどい、太りすぎや脊椎が曲がっていて(脊椎側弯)カテーテルが挿入できないなどの場合も、無痛分娩が難しいケースがあります。
無痛分娩を希望する場合は、可能かどうか事前に検査を受けることもできるため、必ず医師に相談しましょう。
出典:無痛分娩を考える妊婦さんとご家族のみなさまへ/厚生労働省
欧米では一般的
アメリカでは4割、フランスでは6割もの妊婦が無痛分娩を選択。欧米では無痛分娩が医療設備やスタッフが十分に整った環境下で行われるため、至極一般的な分娩スタイルとなっています。
それに比べ、日本での無痛分娩は、日本産婦人科医会の資料によると、2008年から2016年までで、2.6%から6.1%まで増加傾向にあるものの、諸外国と比べるとやはり無痛分娩の実施率は低くなっています。
これには、「お産の痛みに耐えてこそ母親になれる」としてきた伝統的な考え方や、施設や医師の数の問題、さらには無痛分娩にかかる費用にも、無痛分娩の普及率が伸びないといった原因が考えられます。
日本における「分娩」は病気ではないため、正常な分娩の場合は医療保険が適応されず、自由診療扱いとなり、分娩にかかる費用に加えてさらに無痛分娩の管理料や麻酔代などが上乗せされます。プラスでかかる費用は病院によって差はありますが、およそ5万~20万となっています。
対応法によっても幅があり、地域差もあるため、あらかじめ事前に調べておくと安心でしょう。
無痛分娩の鎮痛法とリスク
2つの代表的な鎮痛法
無痛分娩に用いられる鎮痛法には、硬膜外鎮痛と点滴からの鎮痛薬投与という代表的な方法が2つあります。
ほとんどの無痛分娩は、硬膜外腔と呼ばれる背骨にある脊髄に近い部分にチューブを入れて麻酔薬を投与する硬膜外鎮痛です。この方法は無痛分娩のときだけではなく、一般的な手術や、術後の鎮痛目的で日常的に使われています。
硬膜外鎮痛のよい点は、鎮痛効果が強く、赤ちゃんへの影響がほとんどないということ。無痛分娩が進んでいる欧米諸国でもこの方法が無痛分娩の第一選択となっています。
点滴により静脈から麻酔薬を投与する鎮痛薬投与は、硬膜外鎮痛と比べて鎮痛効果が低いとされています。麻酔薬が静脈から母親の脳だけでなく、微量ながらも胎盤を通して赤ちゃんの脳へも届くため、赤ちゃんも眠くなったり、呼吸が弱くなったりする場合があります。
無痛分娩のリスク
無痛分娩のリスクは、麻酔によるものと、出産時の吸引や鉗子などの器械によるものがあります。
麻酔によって起こりうる一般的な症状としては、以下の4点が挙げられます。
・足の力が入りにくくなる
・血圧が下がる
・排尿感が弱くなる
・体温が上昇する
稀に、重篤な症状が出る場合もあり、処置や手術が必要になるケースも。
・予期せず脊髄くも膜下腔に麻酔薬が入ってしまうことで、呼吸ができなくなったり、意識を失ったりする
・血液中に直接麻酔薬が混入することにより、急激に麻酔薬の濃度が高くなるため起こる中毒症状(局所麻酔中毒)
・麻酔のカテーテルチューブ挿入時に麻酔の針で硬膜を破ることで強い頭痛が起こる
・麻酔の影響で硬膜外腔や脊髄くも膜下腔に血のかたまり(血腫)や膿がたまる(膿瘍)。
その他、無痛分娩では、麻酔により陣痛が弱くなったり、子宮口が全開してからの陣痛が感じられなかったりすることで、分娩時に赤ちゃんが生まれてくるまでの時間が長くなる可能性もあり、子宮収縮薬の使用が必要となることもあります。その際に吸引分娩や鉗子分娩が必要となることもありますが、これらによるによる赤ちゃんや母体へリスクも知っておく必要があります。しかし、自然分娩においても子宮収縮薬の使用や吸引・鉗子分娩となる場合もあリます。
無痛分娩を選択する際は正しい産院選びを
厚生労働省の資料によると、日本には約2600の分娩施設があり、そのなかで、無痛分娩を行う施設は約30%。厚生労働省では、無痛分娩についての情報提供とともに、無痛分娩を行っている施設の情報を都道府県別にまとめたものを公開しています。
また、無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA)のホームページ内には、JALAが定めた無痛分娩に関する情報項目を公開している施設が検索できる全国無痛分娩施設検索サイトがあり、基本的な施設情報や医師数、分娩実績に加え、無痛分娩に関する対応方針とマニュアル等の整備状況などを調べることできます。
無痛分娩を希望する際は、施設がどのような体制か、またどのような手法で無痛分娩がなされるのか、そして一番に安全なのかどうかをきちんと考え、しっかり納得した上で選択していかなければなりません。
専門性の高い医療介入がなされていることや急変時の体制、知識と経験が十分な高いスキルをもった医師のいる施設など、産院選びはとても重要です。
幸せな出産を迎え、自分の選択を後悔しないためにも、事前の情報収集や計画をしっかり行いましょう。
出典:全国無痛分娩施設検索/無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA)
監修:林聡(東京マザーズクリニック)
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林聡
医学博士。産婦人科専門医。広島大学医学部卒業。広島大学大学院医学系研究科修了。大学の医局に勤務後、フィラデルフィアで胎児診断を学び、国立成育医療センターで国内初の胎児診療科の立ち上げ参加を経て、2012年に24時間365日対応の東京マザーズクリニック院長に就任。これまで手掛けてきた無痛分娩は延べ4000件以上。専門分野は胎児診断・各種胎児疾患の治療、臨床遺伝学(出生前診断)、周産期医学。著書に『怖くない・痛くない・つらくない 無痛分娩』(PHPエディターズ・グループ)。