【医師監修】子どもの平均身長と背が伸びるメカニズム
子どもの成長は、たとえわずかでも嬉しいもの。しかし、我が子が順調に成長しているかどうか気になる保護者の方もいるのではないでしょうか。そこで、年齢別の平均身長や成長曲線などのデータを始め、身長が伸びるメカニズム、伸びやすい時期、低身長の基準などを上高田ちば整形外科・小児科 院長の千葉直樹先生に監修していただきました。
0〜4歳の年齢別平均身長
文部科学省による『
乳幼児身体発育調査』(2010年)によると、0歳から4歳の年齢別平均身長は以下の通りです。
平均値を見ると、生まれたとき50cmに満たなかった赤ちゃんも、1年間で男の子は24.8cm、女の子は23.9cmまで成長するようです。
また、4歳になる頃には出生時の2倍以上に身長が伸びています。
5〜12歳の年齢別平均身長
男女ともに5歳から12歳までの間に、平均42.5cm身長が伸びていることがわかります。
子どもの成長曲線
では次に、成長曲線を見てみましょう。
成長曲線の基準図にはパーセンタイル(百分位)という3、10、25、50、75、90、97の数字がついた基準線があり、3パーセンタイルの線は100人のうち前から3番目、50パーセンタイルは前から50番目に当たる子どもの身長を示します。
そのためグラフの数値は「50」のラインが標準値となりますが、たとえ体の大きさが違っていても、それぞれの曲線のカーブに沿っているかどうかで成長の様子がわかります。
成長曲線で示されている3から97パーセンタイルの間から外れていても、身長の成長曲線が基準線の動きに沿っていれば適正と考えます。
一方で基準線を大きく逸れる場合は、一般病院の「内分泌代謝科」や「内分泌外来」あるいは成長障がいの専門医がいる小児科を受診しましょう。
身長が伸びるメカニズム
そもそも、身長はどのようなメカニズムで伸びるのでしょうか。
まず、食事から摂った栄養素が「成長ホルモン」として脳下垂体から分泌され、骨や筋肉に作用して体の成長を促します。
しかし、骨はそのままの形で大きくなるのではなく、骨の端にある軟骨の部分「骨端線(こったんせん)」の細胞が骨に置き換わっていくことで大きくなります。
通常、骨の端にある骨端線がやわらかく、細胞が活発に増えるのは成長期までの間。思春期を経て骨端線の細胞が増えなくなると、骨端線は閉鎖して硬くなり、それ以降は大きく身長が伸びることはありません。
身長が伸びやすい時期はいつ?
では、成長ホルモンが多く分泌され、骨端線が開いているのは何歳頃までの間なのでしょう。
身長が大きく伸びる時期は2回。乳幼児期に1回目、思春期に2回目の成長期がおとずれます。とくに2回目の成長期は「成長スパート」とも呼ばれています。
成長スパートがおとずれる時期は女の子の方が早く、1年間で8~9cm身長が伸びる人もいるようです。男の子の場合は、1年のうちに9~12cmほど伸びる人も少なくないでしょう。
ただし、成長スパートの時期は個人差が大きいことにも留意が必要です。
「低身長」の基準と受診の目安
子どもの身長がうまく伸びないことを「成長障がい」といいます。医学的に「低身長」とされるのは、平均身長の標準偏差(※)の2倍以上低い状態のことで、これは全体の2.3%に当たります。
以下に当てはまる場合は、成長障がいの可能性が考えられるため、早めに受診しましょう。早期の治療で身長が伸びることもあります。
※標準偏差:データの平均値からの散らばり具合(ばらつき)を表わす指標
<受診の目安>
・子どもの身長が、平均身長の標準偏差の2倍以上低い場合
・まだ身長が伸びるはずの時期に伸びが悪くなり、成長曲線が横ばいになってきた場合
「低身長」の原因
子どもの身長が低い場合、両親とも身長が低いなどの体質的な理由もありますが、中には特定の原因によって起こるものがあります。
※写真はイメージ(iStock.com/PeopleImages)
ホルモンの病気
出産時や事故などで脳の下垂体が衝撃を受けると、成長ホルモンがうまく分泌されず低身長になる場合があります。また、甲状腺ホルモンの分泌が不足する甲状腺機能低下症でも身長の伸びが悪くなることも。
しかし、これらが理由のケースでは不足しているホルモンを補う治療を行うことで身長が伸びます。
染色体の病気
ターナー症候群は、染色体が少なかったり欠けていたりする場合に起こり、2000人に1人ほどの割合で女の子に現れます。卵巣の発育がよくなかったり、他の病気と合併症を起こしたりする場合もありますが、女性ホルモンや成長ホルモン治療を行えば改善します。
プラダー・ウィリー症候群は染色体の変異が引き起こし、1万人に1人ほどの割合で現れます。生後から力が弱く、呼吸や哺乳に障がいがあり、肥満や発達障がいを併発しますが、成長ホルモン治療によって、身長を伸ばすだけでなく筋力や体の代謝の改善も見込めます。
子宮内発育不全
SGA(Small‐for‐Gestational Age)は在胎週数の標準身長・体重に比べて、小さく生まれることを指し、100人中10番目以内に入ると、SGAと判断されます。その多くが、2~3歳までに成長が追いつきますが、うまく追いつかない場合には、SGA性低身長症の可能性があります。
身長の伸びが見られず、条件を満たす場合には成長ホルモン治療を行うこともあります。
骨や軟骨の病気
軟骨無形成症や 軟骨低形成症は、骨や軟骨の異常のために身長が伸びず、胴体にくらべて手足が短いなど、体のバランスに特徴がみられます。遺伝によるものもありますが、家族に同じ病気がない場合でも起こることがあります。
主要臓器の病気
心臓、肝臓、消化器などの主要な臓器に病気があると、体内に十分な栄養を取り込めず、低身長となる場合があります。そのため、低身長の検査により臓器の病気が発見されるケースもあります。
臓器の治療を行い、予後がよければ身長も伸びていきます。
心理的・社会的な原因
虐待やネグレクトなど、育児放棄で成長に十分な栄養が与えられなかったり、精神が不安定になったりすることで夜間の睡眠が不足し、成長ホルモンなどの分泌が足りなくなることがあります。これを愛情遮断性症候群と呼びます。
ストレスの少ない環境で成長に必要な食事を摂ることで、子どもの成長や発達が改善することが期待できます。
病気とは考えにくいもの
低身長の原因として最も多いのは、体質性低身長や家族性低身長で、家族に小柄な人が多いなど遺伝的な理由のものを指します。
また、二次性徴が見られない場合を思春期遅発症といいますが、多くの場合は体質によるため経過観察します。二次性徴が現れれば身長が伸びますが、明らかに低身長である場合にはホルモン療法を行うケースもあります。
70年間で日本人の平均身長はどれくらい伸びた?
ところで、「昔と比べて背が高い子どもが増えたのでは……?」と感じる方もいるかもしれません。文部科学省による身長平均値の推移を見てみましょう。
戦後、栄養状態の改善を背景に急激な伸びを記録しましたが、子どもの栄養状態が十分に改善した昭和後期以降はほぼ横ばい。日本人の身長のピークに達し、身長の伸びが止まっていると考えることもできるでしょう。
また、現代の子どもたちは忙しく十分な睡眠時間を確保できないことも、子どもの身長の伸びを妨げる要因のひとつになっているのかもしれません。
子どもの身長を伸ばすために保護者ができること
子どもの身長を伸ばすためには、食事・睡眠・運動の生活習慣を整えることがとても大切です。
食事
代表的な食品として、牛乳をイメージする人が多いかもしれません。しかし、牛乳に多く含まれるカルシウムは骨を丈夫にする働きはあっても、身長を伸ばすことはありません。
身長を伸ばす栄養素はたんぱく質。たんぱく質やビタミンD、ビタミンKにはカルシウムの吸収を高める働きがあるので、一緒に食べるとよいでしょう。
※写真はイメージ(iStock.com/kajakiki)
睡眠
成長ホルモンは、22時から2時くらいの間に分泌のピークが訪れるとされているため、それまでに熟睡している必要があります。
寝る1時間前には、テレビやスマートフォンの視聴をやめ、ブルーライトを浴びないように注意しましょう。
運動
適度な運動は体の発達にとって必要なことです。体にほどよい疲労を感じると深く眠ることができるため、成長ホルモンが分泌されやすくなります。
姿勢
近年、スマートフォンや携帯ゲームの普及などにより、子どもの猫背や首下がり現象といった姿勢不良が問題となっています。
姿勢が悪いとそれだけ炎症も溜まりやすく、自律神経症状に現れたり、睡眠障害の原因となったり、成長の妨げの原因となる他、転倒や捻挫などの怪我のリスクも高まります。
保護者から見て子どもの姿勢がおかしいと感じたら、整形外科を受診しましょう。
子どもの身長に関する体験談
保護者の方に、子どもの身長について考えていたことや、身長を伸ばすためにしていた工夫などを聞かせてもらいました。
子どもの成長はそれぞれ。平均身長にこだわらず、成長曲線の曲がり方を見て子どもの成長を見守ってあげられるといいですね。
上高田ちば整形外科・小児科 院長。日本整形外科学会 整形外科専門医。
整形外科・リハビリテーション科を担当。お子様が楽しく通えて、お母様も安心のクリニック作りを目指して地域に貢献する医療に取り組んでいる。
2022年03月15日
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