日本の教育はなぜ個性を潰す?日本の教育と子育て支援を前明石市長泉房穂と天才キッズたちが考える

日本の教育はなぜ個性を潰す?日本の教育と子育て支援を前明石市長泉房穂と天才キッズたちが考える

前明石市長の泉房穂さんが、天才キッズたちと大激論!? 泉房穂さんと将来の日本を担う3人の子どもたちの座談会、前編はおかしな学校のルールと子育て支援策について。

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泉房穂:兵庫県明石市前市長。NHKディレクター、弁護士を経て、2003年には衆議院議員に。2011年には明石市長に就任。主に少子化対策に注力した。2023年4月、任期満了に伴い退任。主な著書に『社会の変え方』(ライツ社)、『政治はケンカだ! 明石市長の12年』(講談社)ほか。
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小林都央:2012年生まれ。IQ154の持ち主で、小学2年生の時にMENSAに認定。小学4年で英検準1級に合格。数々のプログラミング大会で賞を受賞する天才クリエイターとして注目を集める。また将来が期待される若者たちが集まる孫正義育英財団にも所属。
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水野舞:2010年生まれ。小学6年生の時に株式会社マイヤリングスを創業し、取締役社長に就任。起業のきっかけは、小学5年生の時に耳の裏につけるイヤリング「マイヤリング®」を発明し、特許を取得したことによる。
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神谷航平:2005年生まれ。NPO法人Change of Persepectiveの代表理事。全国の校則を調べて公開する非営利データベース「全国校則一覧」の創設者。Forbes JAPAN 30 UNDER30 2023 受賞。

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学校ってそもそも必要?

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――最初のテーマは「ここがヘンだよ、日本の学校」です。実際に今学校に通っているみなさんに、疑問を感じる行事やルール、変えた方がいいと思う制度を伺いたいです。

水野:私がおかしいなと思っているのは、全員の足並みを揃えて過ごさないといけないところです。みんな平等という意味ではいいと思うのですが、足並みを揃えようとしながらひとりひとりの個性や特技を伸ばすのは難しいかなと思います。社会に出ると学校生活とは逆に、自分の得意なことを求められますよね。それなのに、どうして日本の学校ではひとりひとりの意見を尊重するよりも、足並みを揃えることが重視されるのかなと思っています。

神谷:僕は海外の学校に行ったことがなく、比較ができないので一概には言えないのですが、水野さんと同じように足並みを揃えないといけない点はやっぱり変だなと思います。

ベビーブームで子どもたちが多かった時代に、規律を揃えて生徒たちをまとめなければならなかったことがあって、当時は足並みを揃えることに一理ある部分もあったと思います。だけど今の時代は、インターネットが発達して、ひとりひとりが違うことを学べる環境も整っているので、もう少し学校教育を変えていってもいいのかなと思います。

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※写真はイメージ(gettyimages/sorrapong)

――お二人とも足並みを揃えることに違和感があるということですが、小林さんはいかがでしょう?

小林:最初に思ったのは、とにかく時間が長いことです。朝から晩まで学校で、帰ってきたらもう時間がないし、宿題もやらないといけない。そうすると寝るのも遅くなって、大変だし不健康です。1時間目から6時間目まで学校にいて、ずっとみんなと同じように授業に出ないといけないのはちょっと変だな、おかしいなと思っています。

――なるほど、ありがとうございます。泉さんは今の3人の意見に対していかがでしょうか?

泉:僕もほとんど同感です。逆に3人に聞かせてほしいこともあって、学校ってそもそも要るやろか?

一同:(笑)。

水野:難しい質問ですね……。

泉:ないよりはあったほうがいい?

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泉房穂さん

水野:生きていく上ではそれなりの知識が必要だと思うのですが、それを学校で学ばなきゃいけないってことではないのかなって。うーん……。小学校は要ると思うんですよ。学びながら社会と触れる最初の場所として必要だと思う。だけど、中学校くらいになると、あまり必要ないんじゃないかって、ちょっと思っています。

神谷:学校には二つの意味があると思っていて、一つは勉強で、もう一つは集団生活をして規範やルールを身につけることですよね。僕も「集団生活を学ぶためのところなんだから、ちゃんと学校行きなさい」って言われてきましたが、僕自身は行きたい人が行けばいいんじゃないかと思いますね。

小林:集団行動を学ぶには必要だと思うけど、毎日はちょっと要らないかも。

泉:週3日くらいでどう?

小林:まさにそれくらいがいいです。

泉:そうなんや(笑)。私が高校生だった時は週6日で、土曜日も学校があったんですね。要るかどうか考えてみると、学校の意味ってなんだろうと思いますよね。

自分は子どものころ、友だちとしゃべるのも好きで、学校も好きだったんですよ。熱が出て授業を休んでも、放課後には出かけて行くんです。私がいないうちに友だちの間で新しいギャグが流行らないかと心配なので(笑)。だけど、当時から学校に行きにくい友だちもおった。そういう子は無理して学校に行かなくていいと当時から思ってました。

大学でも私は経済学部から教育哲学部に転部していて、今話したのは自分の研究テーマなんです。なぜ学校が要るんだろうとか、教育ってそもそも誰のためにするんだろうとか。誰のための教育か考えると、世の中のためなのか、ひとりひとりのためなのかで見えるものが全然違ってきます。

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偉人たちは学校に通っていなかった

水野:私は、自分の学びたいものを選べるといいなと思います。

泉:あ、選択制でね。

水野:実は私の通ってる学校は選択制なんです。時間割がないわけではなくて、たとえばこの時間には基礎学習と呼ばれる勉強、いわゆる5教科の勉強をしてください、といったくらいの決まりはあります。ほかには、社会に出る時に必要な知識や言葉の使い方を学ぶ時間が2時間、その後に個人で勉強する時間が2時間あって、その後にはプログラミングをしたり、将来について考えたりする時間がきちんと取られています。きちんと自分と向き合う時間が設けられていることが、とても素敵だなと思っています。

泉:5教科は必須なんですね。

水野:私が行ってるところは必須ですが、5教科すべて勉強しなきゃいけないわけではなくて、国語だけでも数学だけでもよくて、自分の好きなことができるようになっています。

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水野舞さん

泉:さっき学校で集団生活を学ぶとあったけど、そういう意味ではどうですか? 

神谷:どうなんでしょう。子ども自身が「学校に行くのは、社会に出た時に必要な知識や態度を集団生活で学ぶためなんだ」と言ってることはほとんどないと思います。

泉:なるほどね。私が大学時代に勉強したのは、ジャン・ジャック・ルソーという昔の人なんだけど、その人は学校に行ったことがないんですよ。だからこそ、いろんな発見や発明ができた。エジソンもそうですよね。学校に行くと教わるばっかりだから、自分の目で見て、耳で聞いて、頭で考えることをしなくなってしまう。

ルソーが何を発見したかというと、社会契約論と言って、世の中は自分たちで作り変えていいんだという考え方です。王様の子が次の王様になって、代々社会を仕切るんじゃなくて、自分たちで社会を作り変えていく。それがフランス革命につながっていくのですが、今の民主主義の原則を作ったのがルソーなんです。

子どもって言いますやんか。子どもという概念もルソーが作ったんですよ。それまで世の中には子どもは存在しなかった。学校に行かなかったから、発見できたんだと思います。今は電車だって遊園地だって料金が大人と子どもにわかれてますでしょ。ルソーが子どもという概念を発見したあと、誰も否定していないから残ってるんですね。

つまり、新しい発見や発明をするためには、自分自身の力を信じることも大事なんです。学校に通うとそれが難しくなる面はあるのかなと思いますね。

明石市は「子育て支援」ではなく「子ども支援」

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――次のテーマは子育て支援策です。この6月に子ども・子育て支援法が成立しました。改正案の軸は児童手当の拡充で、支給対象が18歳までになり、第3子以降の子どもがいる家庭には月3万円増額されるなどが変更になった点です。3兆円以上の予算が充てられるわけですが、みなさん自身は国の子育て支援策の恩恵を受けている実感はありますか?

小林:実感はないですね。

水野:こういう支援策を子ども自身に伝えられていないのが一番問題じゃないかと思います。予算3兆円という大きな金額を自分たちのために国が使ってくれているという事実を子どもが理解できないと、「じゃあ、その分頑張ろう」とも思えない。子育てするために親に支給すると言っても、じゃあ、その子育てのどの部分を支援してくれたんだろう、って。だから、国が子ども目線で何のためのお金を支給しているのか説明してくれたら、もっといい方向に行くのかなと思います。

神谷:僕も今回の座談会でテーマとして伺うまでこのことを知りませんでした。それで気になって調べてみたら、ヤングケアラーについても盛り込まれていたりするんですよね。僕はその部分は高く評価してもいいんじゃないかと思います。

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神谷航平さん

――みなさん実感はないということですが、泉さんはどう思われますか?

泉:私が大学生だった40年前から、日本はヨーロッパに比べて子どもに使うお金や教育予算が半分しかなかったんです。当時のレポートにも「子どもを本気で応援しないと日本の未来はない」と書きました。ところが、いまだにダメ。

なので、明石市長になった時にせめて自分でやろうと思って、子どもに使う予算を2.4倍に増やしました。お金だけじゃなくて、子どもに寄り添う職員数も4倍にして。

その時の最大のポイントだけど、明石市は「子育て支援」という言葉を使わないんです。「子ども支援」。親を応援するか、子どもを応援するかは別の話なんです。私は子ども応援派。もちろん親は応援しますけど、本当は子どもを直接応援した方がいいと考えているのかもしれないね。

親ではなく子どもに直接振り込む

泉:いま国が始めようとしている児童手当拡充も、全国で最初に始めたのは明石市なんです。当時15歳までだった支給を、16歳、17歳、18歳の3学年にも支給するように独自で決めました。その時、親の所得制限も撤廃して、親ではなく子どもに直接振り込むことにしたんです。

子どもが自ら申請して、子どもの名義の口座に振り込む。そのお金は子どもが自由に使っていい。お金を大事に使おうという動機も生まれるし、社会との接点も生まれるので、大事なテーマかなと思いますね。

――自分の口座に入るとしたらどうですか?

水野:すごくうれしいです。親に振り込まれると、私のためなのか家族全体のためなのか明確には示されないけど、口座に振り込まれるとしたら、自分のためのお金だと実感できるんじゃないかと思います。

小林:僕はちょっと……怖いというか。

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小林都央さん

泉:あ、ごめんなさい。そんなに多くないんです(笑)。明石市はお金持ちの街じゃないので、月に5,000円です。自分の子どもの口座に5,000円入るようになった時は思わず「もうお小遣いいらんね」って言って(笑)。

――神谷さんは、もし自分の口座に振り込まれるとしたらどうでしょうか?

神谷:率直にうれしいですよね。直接振り込んでくれるお金があれば、親に言いにくいこと、たとえば彼女と遊びに行くみたいな時には助かりますよね。

泉:現金には良さと悪さがありますよね。親に対しては、18歳までの医療費はいらないですよ、保育料や給食費ももらいませんよ、と子どもに関係する負担をかけないやり方の方がいいのかなと考えますよね。

後編はこちら

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