【アメリカ留学】子どもの探究心を原動力にする「Brightworks School」

【アメリカ留学】子どもの探究心を原動力にする「Brightworks School」

2020.11.30

Profile

萩原麻友

萩原麻友

教育コンサルタント

学校見学と図書館が好きなフリーランスの教育コンサルタント。元留学カウンセラー。東京大学教育学部卒。二児の母。インター歴7年、アメリカに4年単身留学していた帰国子女。子どもが自分より英語をできるようになった保護者から進路・教育相談をよく受けます。

フリーランス教育コンサルタントの萩原麻友さんが、短期・長期で小学生から入学できる世界各国の学校をセレクトする「世界の学校ガイド」。インターナショナルスクールやボーディングスクール、国際バカロレア認定校など、グローバルな環境に身を置いて子どもに学んでほしいと思う保護者に向け、特徴的なカリキュラムや費用などをご紹介します。第2回は、アメリカのBrightworks School(ブライトワークス・スクール)です。

子どもが朝ごはんを食べるのも忘れて真っ先に登校する。下校時間になっても帰りたくない。週末が終わるのを泣きながら待ち、月曜には学校に飛んでいく。テストも宿題も成績表もないのに、生徒たちが望めば名門大学に進学していく。

そんな夢のような学校がアメリカの大都市サンフランシスコの街中にあります。

ブライトワークス・スクール(Brightworks School, 以下ブライトワークス)は2011年の創立以来、類まれな教育方針で在校生やその親を魅了し続けています。

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生徒と作る学校!?

突然ですが、子どもってたまに突拍子もない質問をしてくれますよね。

私もある日「どうしてあっちの木には鳥がよく止まるのに、こっちの木には一羽も来ないの?」と子どもに聞かれました。鳥や木に関する知識がなかった私には、まるで答えられませんでした。

子どもから無限に湧いてくる無邪気な問いは、その子にとって重要な学習や成長のきっかけを秘めています。では、そのうちのいくつが実際に答えまでたどり着けているのでしょうか。ブライトワークスは、まさにこのような子どもの疑問の種を子どもの学びと原動力に変えています。

学校のスローガン「Everything is interesting(あらゆることは面白い)」にも現れているとおり、ここでは年長児から高校3年生までの生徒が、やりたい・知りたいことについて自ら問いを立て、先生と一緒に探求し、あらゆる分野の学びを深めています。

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このような方法は日本でも「参加型」、「体験型」、「探究型」の学びとして認知が広がりつつありますが、それを主軸とする学校は少ないです。

生徒の問いを尊重し、学びに発展させ、その方法ごと生徒自身に習得させることは、経験ある教育者でもとても難しいです。しかも、生徒によって必要とするアプローチや段取りも違います。

では、ブライトワークスはどのようにそれを実践しているのでしょうか。


生徒が学びを主導する姿

ブライトワークスの校舎には、生徒が一斉に先生を向いて座るような従来の“教室”と呼べる部屋はありません。その空間のほとんどが生徒と先生が一緒になって作られた作業スペースで、木工や裁縫、化学実験などのコーナーなどに分かれています。

生徒は自身の関心に沿って、そこでなんでも調べたり議論したり作ったり実験したりできます。校舎内はいつでもどこでも手作りや即席の“なにか”で満載です。

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なぜこのような状況になっているかを理解するには、この学校の成り立ちから知るのが近道です。

原型となったのは、もともと独学のソフトウェア・エンジニアだったゲーバー・タリーさんが2005年に始めた私的な取り組みでした。タリーさんは、知人との会話のなかで夏休みの子どもたちを集めて裏庭で「ものづくりだけ」をするサマーキャンプを発案します。

最初はちょっとした思いつきでしたが、タリーさんは子どもたちと一緒にスケッチから設計して試行錯誤しながら橋やローラーコースターを作り上げていきました。工作キットのような決め打ちの作品ではなく、一から考えてできあがったのです。

タリーさんの言葉を借りると”Real Tools, Real Materials and Real Problems(本物の道具、本物の材料、本物の課題)”が、子どもの本能的なやる気の起爆剤となりました。

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タリーさんは子どもたちの底なしの探究心や好奇心に触れ、その活動が教育手法としても通用する手応えを感じました。子どもたちは生まれつき学習者であり、環境ときっかけさえ与えられれば主体的に協働的に学んでいくという信念ができあがったのです。

「参加型で主体的な学び方はそうでない方法よりも秀でている(Engaged learning is better than disengaged learning)」と、タリーさんは表します。

その後、タリーさんの試験的サマーキャンプはNPOに引き継がれ、そのNPOが通年式の教育機関として新たに立ち上げたのがブライトワークスです。この新しい学校も、作り上げる過程から生徒たちに入ってもらいました。スタートから生徒を巻き込んで、生徒主導で主体的な学びを実践しています。

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ちなみにこの学校の先生はteacherではなくcollaborator(協力者)と呼ばれています。大人は、生徒自身が辿る学習過程を伴走するパートナーだからです。

この記事でも、先生のことを”協力者”と呼ぶことにします。ブライトワークスで生まれる学びは、大人と子どもの対等な関係があってこそ成立するのです。

ブライトワークスの探究型学習の形とは

ブライトワークスのような学校と初めて出会う方には、「これで必要なことが学べるの?社会に出てからやっていけるの?」と疑問が出てきても不思議ではありません。

この学校では、ただ生徒がやりたいことを自由にやらせているわけではありません。最大限の自由を許しながら、学びも最大化できるような最低限の枠組みを持っています。それは問いから始まる「個別最適化された探究型学習」のオリジナルな型で、”The Arc”と呼ばれます。


学習サイクル “The Arc” の3段階

普段の学習は、協力者が提示するテーマをThe Arc(アーク、円弧状やゆるいつながりを指す)と呼ばれる学習サイクルに沿って進めます。クラス単位ではなく異年齢学級で活動し、アークを1年で3回転させます。

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学習サイクル “The Arc” の3段階

1.探求期:学校の外でテーマの概要、意義や役割、利用方法、提示方法などに触れながら、問いを立てます。

たとえば、「風」がテーマのときは風力発電、ヨットの仕組み、芸術家、気象学などの専門家や現場に行き、実際に見て感じたことからインスピレーションや問いを得ます。

2.鍛錬期:原語ではExpression(表現)となっていますが意訳しました。ここではテーマに沿ったプロジェクトを個人またはグループで宣言し、実践します。遂行には計画やゴール設定、資金や資材調達などのプロジェクトマネジメント力が問われます。

同じく「風」がテーマのときは、風車をつくったり、気候について研究したり、舞台作品をつくることもあります。全て生徒が発案します。

3.暴露期:2の鍛錬期の成果を観衆に結果をプレゼンし、フィードバックを受けます。学外の一般客、他校の生徒、お世話になった専門家やその知り合いなどが訪れます。最後にはプロジェクトのプロセスと結果をポートフォリオにまとめ、振り返り、評価します。

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毎度のテーマはそれぞれの年齢や発達段階に適するように応用や力点を意識して協力者が熟考します。同じテーマを繰り返すことはないので、決まった学年で全ての生徒が同じ内容を扱うことはありません。それでも、生徒たちの学びは起きています。

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空気/大気(The Air)をテーマに、風船を飛ばして映像や位置などの情報を記録するプロジェクト。生徒たちは最低限の指導で何度も目的を確かめ、手段を調べ、計算と失敗を重ねて、風船は25km上空の宇宙空間直前まで飛ばしあげた。その後のデータの確認や振り返りまでがプロジェクトの一環。

生徒たちはArcを通じて以下のような実践を積んでいます。大人からすると当たり前のことかもしれませんが、一般的な学校ではなかなか教えてもらえませんよね。


  • 論理的批判的思考(think critically)
  • 本質的な探求(explore deeply)
  • 挑戦すること(challenge themselves)
  • 周囲への貢献(contribute positively to their world)
  • 自身の成功や失敗から学ぶ(learn from their failures and successes)

それぞれの学習過程では、一般的な学校が教えるような理科、算数、国語などの科目知識や必須スキルの他に、科目横断的な応用力、課題設定と解決の力が総動員されます。たとえば低年齢では算数や読み書きもやりますが、リアルな課題や教材にこだわり実践的な学び方をとっています。

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小学校の中学年頃までは技能習得やチームワークなど社会性の発展が重視されます。中学校以上は、学年が上がるに従ってプロジェクト管理能力や知識の習得、単独プロジェクトの配分が増えます。高校になると、さらに希望する進路や興味関心に合わせて個別最適化されます。

こうしてArcがひと回転するごとに、協力者は生徒の活動を振り返りながら学習面、社会性、感情・精神面、技能面などの発達を包括的に評価します。生徒が85名に対して、スタッフを含む大人が15名。圧倒的少人数の体制をとっているからこそできることです。

 

思いつきを次々に形にして探求を深める生徒たち。その姿を見守り、ときに軌道修正する協力者。

ブライトワークスでは、生徒が安心して試して、失敗して、成功します。失敗に慣れっこになり、さらに失敗を分析して改善していく習慣を身につけると、いつか偉業を成し遂げることができます。生徒が達成することは周りを驚かすだけでなく本人の自信にもつながっているのです。


どんな人間になって卒業するのか

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ブライトワークスの卒業生はまだ多くありませんが、一流の大学やリベラルアーツ・カレッジなどに進学する生徒から、全く進学しない生徒まで進路は多岐にわたります。

どの卒業生にも共通しているのは、自信を持って自分の進路を選択できること、実際にどこに行ってもやっていけることです。


  • エンパワーメント:自分の能力を把握し、それを最大限に活かす心意気
  • オーナーシップ:自分の人生や学びは自分がデザインするという責任感や当事者意識
  • クリエイティビティとエンパシー:目標を達成するために工夫しながら周囲の大人も子どもも巻き込む力。
  • 失敗や成功体験に裏打ちされた自信とやり抜く力

これらのキャラクターと技能を持ち合わせた人物を輩出するのがブライトワークスであり、進学先や進学率だけではこの学校の真価を測れません。

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ブライトワークスに合う子ども像

ブライトワークスは、知的好奇心にあふれる子なら楽しく通えます(つまりほぼ全員)。しいていえばこんな特徴を持っていたり、こうなりたいと思う子には特におすすめです。


  • 試験勉強やカリキュラムに則った勉強には身が入らない
  • お仕着せではなく自分の創作や表現をしたい
  • 先生や先輩・後輩と対等な関係を築きたい
  • 自分や周りの人の安全やウェル・ビーイングを尊重する

ブライトワークスに合う親像

 

他にも親としてもこのようなスタンスを持ち合わせていると、ブライトワークスに向いているでしょう。


  • 成績や進学が子どもの成功や幸せを定義しない
  • 子どもの教育を学校に丸投げせずに自分ごととして捉えられる
  • 学校と対等で建設的な関係を築ける
  • 子どもの挑戦や失敗を肯定的に捉えられる

もし、ブライトワークスの教育に興味があるけど通年で通うことが出来ない場合は、同じ方針で運営されているタリーさんのサマーキャンプの後継プログラム「Tinkering School(ティンカリング・スクール)」の短期プログラムをお勧めします。時期や期間も選べて、オンラインのものもあります。指導言語は英語ですが、人数が集まれば語学レベルを合わせた内容を組んでくれます。

学校の詳細情報

名称

Brightworks School(ブライトワークス・スクール)


創立年

2011年


学年

年長(Kindergarten)から高3(12th)までの異年齢学級制


生徒数

85名(通学のみ)


学費(2020年度)

全学年: $33,400

(約半数の生徒はなんらかの学費補助を受けています)


所在地

サンフランシスコ、ゴールデンゲートブリッジが近く、公園に囲まれた住宅街です。都会でありながら、自然が豊か。ブライトワークスでは学外の施設や、ビジネスやアートなどの体験機会、自然環境も活用します。

360 9th Avenue, San Francisco, CA 94118


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萩原麻友

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学校見学と図書館が好きなフリーランスの教育コンサルタント。元留学カウンセラー。東京大学教育学部卒。二児の母。インター歴7年、アメリカに4年単身留学していた帰国子女。子どもが自分より英語をできるようになった保護者から進路・教育相談をよく受けます。

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