「5年後さえもどうなるかわからない」。子育てで意識したいアントレプレナーシップ教育とは

「5年後さえもどうなるかわからない」。子育てで意識したいアントレプレナーシップ教育とは

2022.03.11

Profile

小宮山利恵子

小宮山利恵子

スタディサプリ教育AI研究所所長

スタディサプリ教育AI研究所所長。東京学芸大学大学院准教授。「教育におけるICT利活用をめざす議員連盟」有識者アドバイザー。早稲田大学大学院修了後、衆議院、ベネッセを経て2015年株式会社リクルート入社。同年12月より現職。 著書に『教育AIが変える21世紀の学び』(共訳、北大路出版、2020年)、『レア力で生きる 「競争のない世界」を楽しむための学びの習慣』(KADOKAWA、2019年)、『新時代の学び戦略』(共著、産経新聞出版、2019年)など。

予測不可能なこれからの時代に欠かせない能力と、その育み方とは?リクルートのスタディサプリ教育AI研究所所長・東京学芸大学大学院准教授である小宮山利恵子さんの連載コラム第5回。

「有名大学を出て有名企業に就職すれば人生は安泰」という考えが正解と思われていた時代は終わりました。

インターネットの発達とグローバル化が加速した先行き不透明な時代は、今までの「当たり前」が通用しなくなるからです。

逆にこれから求められるのは、人や社会の役に立つモノ、仕組み、サービスなど新たな価値を生み出せる能力です。

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※写真はイメージ(iStock.com/SARINYAPINNGAM)

実際、海外ではイノベーションを起こせる人のニーズが高まり、スタートアップ企業が急増しています。

企業評価額が10億ドル(約1100億円)を超える、未上場のベンチャー「ユニコーン企業」の数は、1位アメリカ520社、2位中国167社、3位インド62社……と続きますが、日本はわずか11社だけです(2022年2月時点 出典:いろはに投資

アントレプレナーシップは、生活の中でも育める

では、イノベーションに欠かせない能力とはなんでしょうか? 

それはひと言でいうとアントレプレナーシップ(起業家精神)です。

ところが日本のアントレプレナーシップ教育は、世界各国に大きく遅れをとっています。

小中高で学べる機会はほとんどなく、中高生は2%弱、大学生は1%程度しか起業家教育が提供されていません(スタディサプリの資料より)。

この数字は、諸外国と比べると非常に低く、教育者として危機感を抱いています。

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※写真はイメージ(iStock.com/xavierarnau)

日本の学校教育は、減点主義の集団教育です。そのため、みんなとちがう意見を言ったり、失敗を怖れる子どもが多いことも、アントレプレナーシップが育たない大きな原因となっています。

でも教育はすぐには変わりません。だから日常生活のなかで新しいことを考えたり、あったらいいなと思うものや自分にとって必要なものを、自由に発想する楽しみを覚えることが大切なのです。

だからといって、起業家を目指す必要はありません。もちろん日本でも起業家は増えていくと思いますが、会社員でも自営業でも、どんな仕事でも重視されるのは、ゼロをイチにすることを考える力とモチベーションです。

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※写真はイメージ(iStock.com/gorodenkoff)

受け身で指示待ちするだけの人は、人材価値がますます低くなっていくでしょう。

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子ども時代こそ、アントレプレナーシップが育つ黄金期

「子どもはまだ小さいのに、そんな遠い世界の話をされても……」と思われた方もいるかもしれません。

でも子育て期は、子どもが本来持っているアントレプレナーシップの芽を育める黄金期です。

常識や固定観念にとらわれていない子ども時代こそ、「なんで?」「どうして?」と疑問を持つ心や、アイデア力、想像力を大切にしてほしいのです。

「Why?(なぜ)」→「How?(どうして)」→「What?(なに)」の順でぐるぐる考える習慣を身につけると、物事の本質を理解しやすくなります。

これは「ゴールデンサークル理論」と呼ばれている考え方で、「Why?」から説明すると人の共感を得やすいと言われています。

今は、小学生も1人1台タブレットを与えられて、プログラミングで自分の好きなものをつくる子も増えています。

スマホやゲームを自由に使いこなすデジタルネイティブのZ世代は、アプリを開発したり、動画を発信したり、気軽にビジネスをはじめる子も出てきています。

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※写真はイメージ(iStock.com/Zinkevych)

もちろん、子どもが小さいうちは使い方を教えるなど、利用時間の制限やルールは決めなければいけません。

それでも、想像力や創造力を伸ばすツールとして、インターネット環境は大いに活用するべきだと私は考えています。

日本で、社員のアントレプレナーシップを重視してきた企業の一つはリクルートです。1982年に、「RING」としてスタートした新規事業提案制度を利用した社員のアイデアから、『ゼクシィ』『カーセンサー』『スタディサプリ』など数多くの事業やサービスが誕生しました。

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※写真はイメージ(iStock.com/kazuma seki)

年1回の応募に約1000件の新規事業提案が寄せられますが、最終審査まで通過するのは1%以下。その後事業化できたとしても、決められた目標を達成していくステージゲートによって撤退することもあり、成功までの道のりはかなり険しいと言えるでしょう。

それでも毎年多数の応募がある背景には、起案する社員を上司や仲間が応援する文化が根付いていることが言えます。

掲げる基本理念「新しい価値の創造を通じ、社会からの期待に応え、一人ひとりが輝く豊かな世界の実現を目指す。」を実現するためには、“世の中にある「不」を解決したい!”から始まるアイディアを会社が歓迎し、本気で取り組むことが必要になるのです。

古い価値観で縛らず、チャレンジ精神を尊重する

親はいつまでも子どもを子ども扱いしがちです。けれども、大人のように古い価値観に縛られていないぶん、子どものほうが早く時代に適応して、自分たちが本当にいいと思えるものを見極めやすいものです。

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※写真はイメージ(iStock.com/Sinenkiy)

仮に、自分がよかれと思ってやったことが失敗したとしても、若いうちはいくらでもリカバリー可能です。アントレプレナーシップには、そんなチャレンジ精神も必要です。

子どもの「やってみたい」「つくってみたい」「試してみたい」という気持ちも尊重してあげてください。

便利なサービスや、「あったらいいな」と思うことについて、親子で会話するのもいいでしょう。

そしてどんなときも、親の価値観を子どもに押しつけないことです。

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小宮山利恵子

小宮山利恵子

スタディサプリ教育AI研究所所長。東京学芸大学大学院准教授。「教育におけるICT利活用をめざす議員連盟」有識者アドバイザー。早稲田大学大学院修了後、衆議院、ベネッセを経て2015年株式会社リクルート入社。同年12月より現職。 著書に『教育AIが変える21世紀の学び』(共訳、北大路出版、2020年)、『レア力で生きる 「競争のない世界」を楽しむための学びの習慣』(KADOKAWA、2019年)、『新時代の学び戦略』(共著、産経新聞出版、2019年)など。

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