子どもの言語化力を奪っているのは、AIではなく親?2万人に文章を教えた作家が説く言語化の本質
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ショートショート作家
「うちの子、なんでも『やばい』で済ませてしまう」「言いたいことがあるはずなのに、言葉が出てこないみたい」そんな悩みを抱える保護者は少なくない。話す・書くといったコミュニケーションの土台となる「言語化力」は、実は特別な才能ではなく、トレーニング次第で誰でも伸ばせるものだという。これまで全国で文章の書き方講座を開き、2万人以上に指導してきたショートショート作家の田丸雅智さんに、言語化力とは何か、家庭でできる伸ばし方、そしてAIの時代にどう向き合っていけばいいのかを聞いた。
視点①:言語化トレーニングしてますか?
田丸:言語化とは、考えたり感じたりしたことを、話し言葉や書き言葉として言葉にしていくことです。多くの人は言葉を自然に覚えて使えるようになるため、それをあらためて「トレーニングする」という意識を持ったことがないのではないかと思います。でも、言語化はトレーニング次第で、誰でもある程度までは上達させることができます。
僕は言語化を「言葉のブロックで何かを作り上げること」に例えています。そこには3つのステップがあります。
ステップ1「考える・感じる」 ステップ2「言葉のブロックで組み立てる」 ステップ3「完成させる」 |
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これらのステップを感想文や作文に置き換えると、まず体験したことから自分が考えたことや感じたことを書きだす(ステップ1)→次に書きだしたものをもとに文章にしていく(ステップ2)→そして最後に推敲して仕上げる(ステップ3)という流れになります。
——言語化が苦手な子には、どんなタイプがありますか?
大きく4つのタイプがあると思っています。
1つ目は、「やばい」「神」「えぐい」といった、いろいろな意味を一つの言葉で表現できる「“大きな言葉」”ばかり使ってしまうタイプ。もちろん悪いことではなく僕自身も使いますが、それだけになってしまうと、細かい表現が必要な場面で難しさが出てきます。
2つ目は、表現したいものや感じていることはあるのに、いざ言葉にしようとすると詰まってしまうタイプ。
3つ目は、説明が足りない、あるいは説明が多すぎるタイプ。「言葉足らずで分からない」と言われたり、逆に「長すぎて何が言いたいか分からない」と言われたりします。
4つ目は、ムラがあるタイプ。好きなことは饒舌に語れるのに、興味のないことには言葉が出なかったり、説明不足や過多になったりします。
もちろん、いつでも完璧に言語化できる人はいません。それでも、トレーニング次第で誰でも上達させられる、というのは間違いないことだと思っています。
——子どもに言語化を教えるとき、特に大切なことはなんでしょう?
僕が大事だと思っていることのひとつは、「待つ」ことです。別の言い方をすると、子どもの言葉を奪わないということですね。「奪う」というのは、話している途中で遮って「要はこういうことでしょ」と先回りして要約してしまったり、言い終わる前に被せるように言ってしまったり、子どもが言葉にする前に「こう言った方がいいんじゃない?」と言ってしまったり。急いでいるときほど、つい言いたくなってしまう気持ちはよく分かります。
でも、たとえどんなにたどたどしくても、言おうとする意思が少しでもあるなら、まずは最後まで待つ。これは学校現場に限らず、大人が「あと一呼吸」待てるかどうかで大きく変わってきます。すぐに答えが返ってこなくても、さらにもう一呼吸待ってみる。そうすると、大体そこでポロッと言葉が出てくるものです。それでも出てこないときに、初めてもう一度聞いてみたり、質問を変えたりする感じでです。
なぜそこまで「待つ」ことにこだわるかというと、言葉を奪われ続けると、最後は自分で考える力を失うことにつながってしまうからです。言葉は思考と密接に結びついているので、これは本当に怖いところだと思っています。
視点②:言語化は未来を作る
——言語化力が身につくと、どんないいことがありますか?
分かりやすいところで言うと、コミュニケーションがスムーズになります。自分の意見や気持ちを言葉にできれば、相手に伝えやすくなりますから。それから、気持ちが整理できるようになります。モヤモヤしていることや嬉しかったことを言葉にすることで、誰かに伝えるためだけでなく、自分自身がそれを把握できるようになる。モヤモヤの原因が分かったり、それとうまく付き合えるようになったりします。
——「言語化は未来をつくる」とは、どういう意味でしょうか?
文字通り、言語化は自分自身の未来を築いていくことにも使えるということですね。例えば自分の好きなことや得意なこと、喜びや幸せを感じることなどを書きだして、自分自身のもっとも本質的なところ・核となるものを抽出して言葉にしていく。それらをすべて満たすものが、おそらく自分にとって理想の生き方や仕事なんです。
僕はもともと工学部でものづくりをしていて、自分はものづくりの人間だとずっと思いこんでいました。でも次第に違和感を覚えるようになって、その理由を言葉の力で掘り下げていったんです。すると、自分は「つくる人間」であることは間違いないけれど、重力があって物を投げれば落ちる、というような現実世界の制約の中でつくることに息苦しさを感じていたと気づきました。自分がやりたかったのは、念じたら物が浮かんでもいいような、もっと自由な世界でつくることだったんです。
ほかにも、アイデアの力でつくりたい、短い時間で終えたい、小さいものが好き、などといった自分の核を言葉にして、それらをすべて満たすものが何かを考えた結果たどり着いたのが、当時たまたまやっていiたショートショートの創作でした。言葉の力、言語化の力に本当に助けられて今の自分があると思っています。
——他にも、言語化がもたらす力はありますか?
自分の「適性」が分かるようになるという力もあります。自分が向いていることや、集中できる環境はどこか。これも言語化しておくことで、再現できるようになるんです。勉強に集中できるのが自分の部屋なのか、リビングなのか。これに正解はないので、自分の脳がどういう反応をするかを言葉にしていくわけです。僕はこれを「脳起点で考える」と呼んでいます。自分の脳の特性という、いわばブラックボックスに、暫定版でいいので言葉でアプローチしていく。やる気が出ないときにどうやって自分を立て直すか、というスイッチの入れ方も、これによって見えてきます。確率100%にはなりませんが、再現できる確率は上げられる。学業に限らず、生きていくうえでずっと役立つ力だと思っています。
視点③:言語化力は親子でともに育もう
家庭で言語化力を高めようというときに、確実な正解の方法はないと思っています。その上で、一つ分かりやすいものとして、写真に写っている光景を言葉にする「言語化ワーク」をおすすめしています。写真を見ていない相手に、言葉だけで写真を説明するわけですね。
さらに、親子でそれぞれ別の写真を用意して、片方が写真を言葉だけで説明し、もう片方がその言葉を頼りに絵を描いてみる、というのもいいですね。いずれにしても、いきなり言葉で説明をはじめるのではなく、冒頭でお伝えした3つのステップを踏むのがポイントです。
ステップ1「考える・感じる」
写真に何が写っているか、自分が考えたことや感じたことを、細かいことでも構わないのでとにかくメモに書き出します。「島です、海です」で終わらせず、色や形、構図、そこから連想したことまで、思いつく限り書き出してみる。この段階では「変だと思われるかも」と自己判断せず、とにかく材料をたくさん出すことが大切です。
ステップ2「言葉のブロックで組み立てる」
メモをもとにいきなり文章にしていってと言われても、なかなか上手くはいかないかもしれません。
そこでぜひ覚えてほしい技がありまして、1つ目が「主役決め」です。たくさん書き出したメモの中から、これだけは外せないという主役を1つ決め、それに関する情報だけを最小限にまとめて文章にします。2つ目が「お試し再生」。できた文章だけを読んで、どんな光景が思い浮かぶか頭の中で再生してみる。写真を知っている分どうしても引っ張られてしまうとは思いますが、がんばって文章だけで再生を試み、足りないものや余計なものがあれば、情報を出し入れしていきます。
ステップ3「完成させる」
てにをはなど最後の微調整をして文章を仕上げ、紙を渡したり読み上げたりして相手に伝えます。相手に絵を描いてもらう場合には、完成した文章だけから絵を描いてもらい、その絵と実際の写真を見比べる。「島の位置が全然違う」「アンテナのことを細かく書きすぎて、絵ではそこばかり目立ってしまった」など、答え合わせのように楽しみながら話し合ってみてください。ここで見えてくる伝え方のクセは、日常のコミュニケーションでも同じように出ているはずです。
写真のワーク以外にも、道を歩きながら目についたものや、出くわしたきれいな景色を親子で言葉にして分かち合うだけでもいい練習になります。同じ景色を見ていても、お互いに目が向いているところが違うもの。言葉で分かち合うことで、言葉の力がみがかれますし、お互いの「世界の見え方の解像度」も上がっていきます。
——語彙力に不安がある場合は、どうすればいいですか?
手持ちの語彙でも十分に表現できる可能性はありますが、「言葉のブロックで何かをつくる」という例でいうと、和風のお城を作りたいのに西洋風の屋根しか持っていない、というような状態になることはあります。
そういうときは、日本語の単語帳をつけるのがおすすめです。英語を学ぶときに知らない単語を書き留めるのと同じように、意味や使い方までセットで書き付けていく。これを続けていくと語彙が増え、主にステップ2の「言葉のブロックで組み立てる」作業がスムーズになり、自分が思い描いたものに近い表現が手に入るようになって、言語化そのものも楽しくなっていきます。
——AIがビジネスでも当たり前に使われるようになり、「自分の言語化能力が落ちているのでは」と不安になる大人も増えています。田丸さんご自身は、AIとどう付き合っていますか?
僕はAIと、パートナーのような感覚で付き合っています。小説家として、アイデアを考えるときのキーワード出しなどに使うことはありますね。たとえば「夏をテーマにこういう話を書こうと思っているけれど、何かいい切り口はないか」といった感じで出してもらう。ただ、今のところそれが決定的に響くことはあまりなくて、あくまでインスピレーション源、思考の触媒のような使い方です。
一方で、文章そのものを書いてもらうことは一切していません。理由は2つあって、1つは今の時点の技術では自分で書いた方が早いから。もう1つは、僕が「血の通ったコミュニケーション」をすごく大事にしているからです。ビジネスライクで無難な言葉ではなく、なるべく自分の中から生まれた言葉でやりとりしたい。メール一つとっても、そこから生まれるコミュニケーションや、そこから発展していく仕事・未来があると僕は信じたいタイプなので、今のところは自分の言葉で書く、ということを続けています。






