【学びのカタチ】教育のあり方を“ひっくり返した”高校

【学びのカタチ】教育のあり方を“ひっくり返した”高校

2020年の教育改革を迎え、新時代を生きる現代の子どもたち。親である私たちが受けてきた教育が当たり前ではなくなるかもしれない今、どのような教育が必要なのか。この連載では、従来の評価軸では測ることのできないさまざまな分野で、子どもの能力や可能性を伸ばす新しい「学びのカタチ」について紹介していく。第7回では、ルークス高等学院の理事長、川合宏紀氏に話を聞いた。

<連載企画>学びのカタチ
 

教育のあり方をひっくり返す、新しい高校

2019年4月、ルークス高等学院(以下、ルークス)という新しい学校が誕生した。

ルークス(Loohcs)は、学校(School)をひっくり返した造語で、伊勢谷友介さんを発起人として開校。代々木高等学校と提携をしており、両校同時に在籍することによって高等学校の卒業資格を取得することができる。

学校の名前に表れているように、運営のルール、授業カリキュラム、時間割、教員と学生の関係まで、学生中心の教育を実施。まさに学校のあり方を“ひっくり返した”学校だ。

今回インタビューをお願いしたのは、理事長の川合宏紀氏。ルークスに通う子どもたちはどんな学生生活を送っているのか、話を聞いた。
 

描いた夢の実現のために学んでいける場所

――ルークス設立の経緯を教えてください。

「もともとはAO入試専門の学習塾だったのですが、そこから塾だけではなくて、学校にもよりよい学びの場を広げたいと考えました。

これまでの学校は、夢や志を気楽に語れるような場所ではないのではと感じていたこともあり、学生たちがやりたいことを楽しそうに語れて、さらにそれを実現していけるような新しい学校を創っていこうと考えました」
 
※写真はイメージです(G-Stock Studio /Shutterstock.com)
既存の学校・教育システムを根本から問い直したルークスでは発起人の一人、伊勢谷友介氏を学長に据えている。俳優、映画監督、実業家など幅広い分野で活躍する伊勢谷氏は、これから求められるリーダーは、映画のプロデューサーのように多角的に物事を捉える力が必要だと唱えているという。

「伊勢谷さんはよく、”種の存続”という言葉を使いますが、人間自身が人間の種の存続を脅かしているという持論を持っています。

今、日本で行なわれている学校教育では、組織や社会の歯車として言われた通りに動くことが良しとされています。しかしそれは機械でもできるのではないか?人間にしかできないことを考えるべきではないか?このままでは人間の存続自体が危ういのではないか?

このような状況に問題意識を持ち、社会を変えるイノベーションを起こす新しいリーダーを育てたいという伊勢谷さんの理念と共鳴して、既存の枠にとらわれない学校を創ることになりました」

時代に合わせて変化できる学校創り

――伊勢谷さんのいう”機械的な”教育をしない、というのはつまり、自由な教育を行うということなのでしょうか。
 
「変化できる学校をつくりたかったんです。今はいろいろなことが変化しやすい時代になっているから、それに合わせて学びの場がどんどん変化していければよいと考えました。

ルークスでも、今よいと思って提供しているカリキュラムや既存の学校の形を、時代やターゲット、ニーズに合わせてどんどん変えていこうと考えています」

ルークスでは、先生が生徒を従わせるのではなく、学生の目標に合わせて教員が学びをサポートするスタイルで、教員が定めた校則はなく、学生たちが話し合ってルールを決めていく。

さらに授業までも、扱うテーマや学び方は学生自身が主体となって創っていく。高校で行う外国語の授業といえば英語だが、フランス語を勉強したいという学生に合わせてフランス語の授業ができたり、アプリを作りたいという学生の声をもとに、アプリのデザインや開発について学べる授業を行ったりと、学生の発案を元に、教員といっしょに準備をしていく。

「教員は、主体的=放置ではなく、学生のやりたいことや、夢に合わせて全力でサポートします。そのため、ルークスのカリキュラムは、選択科目とプロジェクト学習の2つの柱に分かれ、教員は毎日のようにひとりひとりの成績や成長を測定し、管理しています」

自分の目標に合わせて選ぶ多彩な授業

ルークス高等学院の大きな特徴として、2つの柱で構成される独自のカリキュラムがある。幅広い学問の中から選ぶ教科学習(CDL)と、自分のやりたいことを中心におく探求学習(PDL)だ。

Curriculum Driven Learning(以下、CDL)では、大学受験の科目もしっかり勉強し、大学で学ぶような学問にも触れ、興味に合わせて自由に科目を選択することができる。

英語、数学、国語、理科、社会などの一般的な教科だけでなく、ビジネスやテクノロジー、社会科学、クリエイティブなどリベラルアーツ教育を推進し、高校のレベルに留まらず、社会に出て武器になるレベルまで高度で専門的な授業を選択して学ぶことができる。

そしてふたつめの柱が、“自ら世界を創造する”を理念とした、PDLだ。

新しい世界を創るためのプロジェクト学習

Project Driven Learning(以下、PDL)は、作品制作や研究活動など、自分のやりたいことを中心にした経験主義型学習で、知りたいことを自由に学べる時間。

ルークスでは、1カ月を通してPDLが行われている。プロジェクトを追求するためのスケジュールが週替わりで組まれ、1カ月後のプレゼンテーションで完結するという。

「PDLは、Project Based Learning(課題解決型学習)ではなく、Project Driven Learning。base(土台、基礎)ではなくdriven(突き動かされた)という考え方です。 

つまり、こういうふうに成長するとか、こういう目的を達成するという目標ありきで、そのためにどういう学びが必要かというプロジェクトを行うわけですね。

プロジェクトには2種類あります。1つ目がマイプロジェクトと言われるもので、自分でプロジェクトを決めるもの。しかしそれだけだと、住んでいる場所や所属するコミュニティなど、自分が今まで生きてきた世界の中でしか課題が見つからないこともあるんです。

そのため、1週目では教員側がテーマをもとにプロジェクトを設定したり、他者が設定したプロジェクトに対して挑むということもあります。 

2週目以降になると、学生によってさまざまなプロジェクトが生まれます。会社を興したいという子や、ホームページを作りたいという子、あとはゲームを作る子もいますし、ひとりひとりが自分のやりたいことに打ち込み、主体的に進めています」
 
※写真はイメージです(iStock.com/SARINYAPINNGAM)
――普通の学校授業では、自分の興味を突き進めるということは難しい気がします。

「4週目になると特別講師をお呼びし、学校外の方の意見を聞くなどして、いろいろな意見を聞きながら自分のプロジェクトを振り返る時間を作っています。

既存の学校でも、自分がやりたいことを学ぶ時間を作る学校が最近増えてきているんですけど、基本的に学校内でと範囲が限定されていることが多い。

ルークスは学校の枠がないので、いろいろな社会の方の意見を聞いて良し悪しや、合う合わないといった判断力を磨きながら、選択をしていくという経験を積んでもらいたい」

学生の目標実現を対等な立場でサポートする教員

インタビュー当日は、経済学や社会学の授業を一部見学させてもらった。ルークスの学生たちと講師がリラックスしたようすで、学生同士で授業の内容について話し合ったり、講師に気軽に質問をしたりしている。
 
――学生たちが積極的に発言したり、休憩時間も学生同士で授業の話をしたり、先生を捕まえて授業内容を掘り下げたり……。学生たちの学びへの意欲に驚きました。

「大人から勉強しろと言われなくても、ここに通っている間に学生たち自ら、学びに貪欲になっていきます。特に講師は学生の憧れの存在、勉強することが楽しいと向上心をアップさせる輝く存在でなければならないと思っています。

ときには、講師が学生に厳しく意見をすることもあります。講師は学生を子ども扱いせず、ルークスに通う学生もまた、子ども扱いを望んでいません。上下関係のない対等な立場で学んでいます」

ルークスの授業には、大学で扱うような教科書が取り入れられており、レジュメが配られるという。

同じ学年が同じ空間で授業を受けるのではなく、1~3年生が同じ空間で授業を受けている。年齢の枠にしばられずに、コミュニケーションを取っている姿が印象的だ。

経済学の授業を行っているホワイトボードには、IS曲線やLM曲線といったワードが並んでいる。財市場と貨幣市場、金融政策など、高校とは思えない内容の授業が行われていた。
 
学生と講師がフランクな関係を築けているからこそ、活発なコミュニケーションが生まれ学びが深まっていく。

特別講師の授業が学生に刺激を与える

ルークスは、学校外からさまざまな講師を呼んで特別授業を行っている。PDLを通して、アウトプットの実践を積み、学校外からやってくる特別講師からフィードバッグをもらう。社会の第一線で活躍する人たちの声を聞けることは、高校生にとって貴重な体験だろう。

――ルークスでは今までに、どのような方を特別講師として招いたのですか?

「毎月のテーマに合った講師を呼んでいます。

特別講師のテーマは、3年間で完結するように基本のカリキュラムが組まれています。そのカリキュラムの中で2種類の特別講師をお呼びしており、ひとつがカリキュラムに沿って授業をお願いしているリベラルアーツやクリエイティブの各テーマの専門家で、もうひとつは学生の要望や学校側が決めてお願いしている社会の各分野で活躍するロールモデルとなる方です。具体的には『ファシリテーション』『自然環境』といったテーマで特別講師の方に来ていただきました。

他にも、『プレゼンテーション』というテーマでは、「渋谷区の課題をAIによって解決する」をテーマにしたアイディアを学生から渋谷区長に提言したり、今は『社会に飛び出す』というテーマ。若くして起業した方をお呼びして、どうやって社会に飛び出したのかということを聞いています。

また、週に1度のアクティビティとして、自然に触れたり体を動かすといった体験も重視しています。劇団四季出身の俳優、久保亮輔氏を呼んでの演劇ワークショップを行ったり、劇団四季出身のダンサーであるTAIWA氏によるダンスワークショップ、最近では“聴く力”や“お茶の魅力”の特別授業など、さまざまなジャンルで活躍する方々を呼んでいます」

主体的な学びを活性化させるグループ学習

――いくつかの授業を見学させていただきましたが、すべてグループでの学習ですね。これも特徴の1つなのでしょうか。

「グループ型学習は意識的に取り入れていますね。授業風景は他の学校と全く違う部分だと思います。逆に同じところは、指導者がいるところだけです」

グループとは少し離れた場所で座ったり、寝そべったりしながらも真剣に話を聞いている学生たちの姿があった。ひとりひとりに机と椅子があるという既存の学校のスタイルとは大きく違う。

「学ぶことに関して積極的であれば学ぶ姿勢は問いません。そのときの場に応じて、座らなければいけないときは座っていればいいのです」
 
「既存の学校ではクラスの全員に同じ進度で授業を進めますが、ルークスではひとりひとりの目標に合わせた学習を行うため、進度にはやはりばらつきが出ます。そこで、教員は“ばらつきがプラスになるような働きかけ”をします。つまり、グループ学習を行うことによって協同や競争を盛り上げるということです。 

具体的には、カリキュラムは個人ごとに違うけれど、学習方法はグループで。個人での学習をグループで学習できるように設計することで、グループを効果的に使い、分からないことをシェアし合ってみんなで解決したり、進度の早い学生が先生役になって知識を共有したりしています」

個人ごとのカリキュラムを設定し、管理し、学習はグループで行う。この独自のシステムは、どのように学びを活性化させているのだろうか。

後編では、学生ひとりひとりの学びを最大限にするルークスならではの仕組みと、これからの学校のあり方、そのビジョンについて聞いていく。
ルークス/Webサイト
<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部
<連載企画>学びのカタチ バックナンバー

2020年07月21日

専門家のコメント
26
    ゆう先生 保育士
    グループを効果的に使い、分からないことをシェアし合ってみんなで解決したり、進度の早い学生が
    こうじん先生 保育士
    こんな高校が私の頃にあれば、とわくわくしました!高校時代に広い世界に触れることができたらこ
    かんな先生 保育士
    『学ぶとは何か』。に対するひとつの答えの記事のように思えました。
    大人になる過程、社会にで
    あーちん先生 保育士
    とても良さそう!という印象です。子どもが生まれてから、今まで以上に教育に関して気にするよう
    わい先生 保育士
    主体性が基本となってきていますね!保育も主体性となっているところが多いです。が!!なかなか
    じゅん先生 保育士
    旧態依然の学校教育は、絶対に変革すべきだと思います。誰か引っ張っていってくれる人が現れない
    すみっこ先生 保育士
    ネーミングセンスが素敵です!✨✨
    既存の学びの場では得られないものがたくさんあり、ここで過
    ほー先生 保育士
    主体性は簡単につくれるものではないので
    このような環境があるといいですね。
    このような高校
    とーち先生 保育士
    これからの教育は今までとは違う学びの形じゃないといけないのかなぁと思いました。
     
    時代と
    あゆみ先生 保育士
    自分の興味のある事柄を深く学べる環境は貴重ですね。決まったカリキュラムだけでなく選択出来る
    せおみ先生 保育士
    先生中心ではなく、学生が中心。とても楽しそうですね。やる気が何よりの学びにつながりますね。
    あみーご先生 保育士
    時代に合わせて変化できる学校創り、とても良いと思います!
    教員の方のサポートの仕方も素敵で
    みき先生 保育士
    主体性を大切にすること、これからの時代にとても大切だと思います。
    多様化の世界、学びの場を
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