「地球温暖化の被害者」ホッキョクグマは実は増えている…メディアと環境保護団体の"虚偽情報"を検証する
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地球温暖化の影響を受けているのは誰なのか。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志さんは「温暖化によって生態系が破壊された象徴として取り上げられてきたのがホッキョクグマだ。しかし、動物学者たちの公式統計では頭数はむしろ増えている」という――。 ※本稿は、杉山大志『データが語る気候変動問題のホントとウソ』(電気書院)の一部を再編集したものです。
環境運動家「ホッキョクグマが絶滅する」
環境運動家たちは、何十年もの間、ホッキョクグマ(北極圏に住むシロクマのこと。日本にも住むツキノワグマのアルビノも「シロクマ」と呼ぶことがあるので、区別のために以下では「ホッキョクグマ」と呼ぶ)を地球温暖化による生態系破壊の象徴として利用してきた。
「地球温暖化が起きると、北極の氷が解けてホッキョクグマの生息域が脅かされ、ホッキョクグマが絶滅する」と言った具合である。
しかし、最も信頼できるデータによると、絶滅の危機に瀕しているどころか、その数は増加していることがわかる。
動物学者たちによる公式評価(国際自然保護連合ホッキョクグマ専門家グループ、IUCN PBSG)では、現在の世界全体での生息数を2万2000頭から3万1000頭の間と推定している。これに対し、1960年代には5000頭から1万9000頭しか生息していなかったと推定されていた。つまり、ホッキョクグマは増えている(図表1)。
狩猟制限が奏功し、頭数は右肩上がり
このように、ホッキョクグマは、地球温暖化による生態系破壊の象徴的なキャラクターとされ、絶滅の危機にあるとされてきたけれども、実は、ホッキョクグマの頭数は減っておらず、むしろ増えている。
頭数が変化した理由は、気候とは関係がない。1976年に制定された国際協定によって、ホッキョクグマの狩猟が制限されるようになったことが、大きな効果をもたらした。動物学者のスーザン・クロックフォードは、ホッキョクグマの頭数の増加は「動物保護の大成功事例だ」と述べている。