「もう辞めよう」と週末のたびに転職サイトを覗いた…三井物産女性室長が出向先の難局で繰り出したウルトラC
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誰にもキャリアの谷はやってくる。三井物産の河野由佳さんは入社10年目にして自信を失い、劣等感にさいなまれる出来事があった。そしてその劣等感の沼から抜け出すのに4年という時間が必要だった――。
出向が自分を変えた
鉄鉱石やLNGから食品やファッションに至るまで、幅広い事業を手がける三井物産。その女性管理職の中に、大手アパレルグループに出向して事業成長に大きく貢献した女性がいる。現在は流通事業本部ブランド&リテール事業部で、ライフスタイル事業開発室長を務める河野由佳さんだ。
「出向していた6年間は本当に充実していて、事業会社や消費者ビジネスの面白さに夢中になっていました。大失敗もしましたがそのぶん得たものも多く、出向前とは違う自分になれた気がします」
親しみやすい笑顔と明快な語り口調が印象的。事業への思いを語る姿からは、芯の強さやいい意味での図太さも感じる。だが、ここまで順調に成長してきたわけではない。自信を失い、劣等感にさいなまれ、もう辞めようと思った時期もあった。
入社10年なのにスキルも人脈もないという劣等感
入社したのは2005年。最初の6年は主に原油デリバティブのリスク管理業務を担い、その後2年は中国で修業生として語学習得や食料関連の業務に取り組んだ。この時期に初めて顧客と接する機会を得て、「お客様の顔が見える仕事がしたい」と思うようになる。
そこで、自ら消費者ビジネスへの異動を希望してファッション関連事業の営業部に配属。念願の「ビジネスの現場」に入ることができて、当初は毎日が新鮮だったという。
異動前のリスク管理業務では、柔軟性や自主性より正確性や迅速性のほうが重要だとされていた。しかし、事業部門は顧客の要望に応じて臨機応変に、自分のアイデアで物事を進める姿勢がよしとされる環境。河野さんにとってはこの自由度の高さが新鮮で、解き放たれた気分も味わえた。
とはいえ、現場についてはわからないことだらけ。すでに中堅になっていたにもかかわらず、顧客との接し方から仕事の進め方まで「新人と同じように先輩に手取り足取り教えてもらった」と恥ずかしそうに振り返る。
その恥ずかしさは、やがて劣等感に変わっていく。部のメンバーは経験豊富で実績のある人ばかり。一方の自分は、もう入社10年目だというのに営業マナーも業界知識も身についていない。主導して案件を進めるように言われても、ノウハウもなければ人脈もない。そう思い悩むうち、劣等感はどんどん大きくなっていった。