【子どものミライ】衣服が子どもを見守る。生体情報を蓄積・解析するスマートウェア

【子どものミライ】衣服が子どもを見守る。生体情報を蓄積・解析するスマートウェア

近年、さまざまなテクノロジーの進化で世の中が大きく変わろうとしている。今の子どもが大人になる頃にはどのような時代になっているのだろうか。KIDSNA編集部の連載企画『子どものミライ』#05では、繊維の加工からクラウドサービスまでをワンストップで行う、世界で唯一のウェアラブルIoT企業ミツフジ株式会社に、スマートウェアと共存するミライについて話を聞いた。

着るだけでデータが集まる、ミライの衣服「hamon®」

ミツフジ株式会社(以下、ミツフジ)のスマートウェアシリーズ「hamon®(ハモン)」の製品情報ページには、こんな言葉が並んでいる。

 

「“着るという日常行動のなかに生体情報マネジメントを組み込むことで、着用者の見守りや、体調や感情の可視化・予知を行うためのIoTソリューションです」

 

ウェアラブルと聞くと、腕時計型やメガネ型の端末が代表的だ。SF映画の主人公が身を包むウェアで心拍や呼吸を計測して、そのデータをチェックしながら自分の体をマネジメントする、といった場面を思い浮かべる人もいるかもしれない。

 

 

着るだけでデータを収集できるスマートウェア「hamon®」は、心拍などの生体情報を日常的に蓄積・解析できるウェアだ。

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ミツフジ株式会社提供

さまざまな情報がビッグデータ化されている今、自分自身や大切な人の生体情報を私たちはどれだけ知り、利用できているだろうか。

 

ミライのためのミライの衣服について、ミツフジに話を聞いた。

スマートウェアで「起こる前に未然に防ぐ」

衣服で生体情報を収集することで、ヘルスケア分野やスポーツ分野でのサービスが実現できる。

たとえば、従業員の見守りや健康管理、介護や福祉の現場でも役に立つだろう。スポーツ選手のコンディショニング管理もすることができる。


園児の見守りサービス「cocolin(ココリン)」

ミツフジが開発した技術を用いて、ベビー・子ども服の老舗メーカーである株式会社キムラタンとタッグを組みサービスを提供しているのが、cocolin(ココリン)という園児の見守りサービスだ。

登園から降園まで園児たちの安心安全を終日見守ることができるこのサービスは、ウェアラブルIOT技術を用いて子どもたちの体調不良を未然に察知することができる。

保育士さんの業務を終日リアルタイムサポートするともいえるcocolinは「BabyTech Award Japan 2021」の安全対策と見守り部門にて大賞を受賞した。

 


子ども服の自然な風合い

ウェアラブルと聞いて近未来的な衣服を想像したが、普通のかわいい子ども服にも見えるcocolin。

 

実際に触ると柔らかく、よく動く子どもでも着心地よく動きやすそうだ。スマートウェアだと言われなかったら、わからないかもしれない。

 

糸は銀メッキ加工されているが、風合いに柔らかさを残しつつ、銀の性質を持っている。24本の糸を織っているのだが、1本1本すべてに銀がメッキしてあるという。

 

ポケットには、獲得した生体情報を信号化し電波にのせて送り出す電子機器「トランスミッター」が入っている。

 

脇腹の柔らかい箇所にクッション性のあるポケットを設けているが、園児は嫌がる様子もトランスミッターの違和感もないという。そして、もし子どもが触りたくなっても、ポケットの開閉口を下向きにつけているので、直接は触れられないようになっている。


子どもとのコミュニケーションツールとして

ミツフジが子どもの見守りサービスを思いついたきっかけは2つあるという。

 

ひとつは、乳幼児突然死症候群とストレスの関連性を研究している方から研究調査に使いたいという話が来たこと。もうひとつは、昨今の保育園の保育士不足という社会課題だ。

 

園児の見守りサービスを提供することで、保育士さんの業務負荷を軽減し、園児の安全も守れて、保護者も安心できるのではという思いで開発を推進した。

 

親としても、データで子どもの状態を確認できることでメリットもあるだろう。たとえば、夕方に子どもがぐずっていたら1日のデータを見て“この子なりに今日1日がんばったんだな”と認識できるかもしれない。

 

そうすることで「たくさん抱っこをしてあげようかな」「今日は話をちゃんと聞いてあげようかな」と、コミュニケーションに対する前向きな考えができることもあるのではないだろうか。

 

最新の技術を駆使した衣服で子どもを見守り、コミュニケーションをする。ミライの保育や子育てが、こうしてすでに始まっている。


※トランスミッター…獲得した生体情報を信号化し電波にのせて送り出す電子機器。

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一本の糸から「hamon®」までの道のり

繊維からクラウドまでを提供するウェアラブルIoT企業ミツフジは、現在、世界的にも注目されている。

2018年にはフォーブスジャパンの価値ある企業を表彰する「スモール・ジャイアンツ」アワードにて大賞を、2021年には京都の都市格向上に顕著に貢献しているとして「京都創造者大賞」を受賞した。


西陣織からウェアラブルに至るまで

ミツフジの「hamon®」の開発までの経緯を紐解くと、60年以上前に、現社長の祖父が西陣織の帯の工場として起業したのが始まりだ。

その後レースや繊維雑貨などを製造していたが、繊維業界の斜陽化と共に業績が苦しくなる。

 

そんな中、現社長の父である2代目社長が機能性繊維に注目し、1992年から銀メッキ繊維AGposs®️(エージーポス)の開発・製造・販売に取り組んだ。

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ミツフジ株式会社提供

AGposs®️は主に、銀の持つ抗菌防臭の性質を生かした製品に使用されていたが、導電性が非常に優れていたため研究施設などで注目されるようになり、現社長がウェアラブル分野に可能性があることに気づいたことが最終的に「hamon®️」の開発につながることになる。


伝統と革新の融合で、社会課題の解決を

「hamon®️」の開発に当たり、ミツフジは自社で繊維の加工からバイタルデータの取得およびアルゴリズムによるデータ解析まですべての過程を担っている。

 

一般的にウェアラブル市場へ参入しようとするなら、洋服にするためのアパレル会社、電子デバイスを製造する会社、生体情報を解析する会社、情報をクラウドで管理する会社など、複数の会社が関わり、それぞれ専門知識が必要だという。

 

しかし、現社長がIT企業にいた経験とミツフジが持つ繊維の知見を組み合わせることで、自社で一気通貫できるワンストップサービスを提供できるに至った。

 

またミツフジは異業種との共創によるオープンイノベーションにも取り組んでいる。自社の強みをいかし必要なパーツの提供をすることでより良いサービスを社会に提供すること、そして社会課題の解決を目指している。


従業員の見守りサービス

もともと着衣型のウェアラブルデバイスは、危険区域や建設現場、工場などで働く人々の見守りサービスに活用されていた。

より簡単で使いやすい見守りデバイスを求められていたことから、ミツフジはそれまで培ってきたデータ取得技術とアルゴリズム開発技術を応用し、腕に巻くバンド型のデバイスを開発した。

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ミツフジ株式会社提供
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ミツフジ株式会社提供

着衣型とバンド型はそれぞれニーズや使用用途に合わせて使い分けることで、今後は従業員見守りに加え自治体での見守り、そして医療にも力を入れていくという。

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暑熱リスクを事前に色と振動で知らせるバンド型ウェアブルデバイスhamon band。暑熱リスクが上がると注意喚起として黄色、さらに上がると警告として赤で表示される。(ミツフジ株式会社提供)
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2022年夏に発売予定のマルチキャリア対応でSIMを搭載したスマートウオッチ型ウェアラブルデバイス。暑熱リスクだけでなく時計や歩数、心拍、体調なども分かる機能付き。様々な労働環境に対応でき、また作業者だけでなく、管理者による全作業員の集中管理機能も可能。(ミツフジ株式会社提供)

また、株式会社ワコールとブラジャー型ウェアラブル「iBRA」を共同開発し、働く女性のためのウェアラブルプロジェクトとして、Peach Aviation株式会社の協力の元、客室乗務員の業務中に着用検証を行った。働く女性のストレス対策が目的だという。

ワコールと共同開発のiBRA
ミツフジ株式会社提供

下着を身に付けるだけで、ストレスなどのデータはもちろんのこと、月経の周期や体温のデータを集めることができたら便利だと思う女性は少なくないのではないか。

ミツフジが考える「子どものミライ」

ほかのさまざまな分野でも可能性が広がるウェアラブル産業。最後に、ウェアラブルのミライについて、ミツフジの三寺歩社長がどう考えているのかを聞くことができた。

ウェアラブル産業の進化によって子どものミライがどのように変化するのだろうか。

 

「子どもは、1日1日新しい毎日を生き、家族や周りの大人から昨日より成長した今日を褒められたり、それを実感する存在だと思います。私たち大人にとっても、ウェアラブルによってそんな子どもの成長がわかるようになれば安心・安全ではないでしょうか。

 

そして将来的には、安心な生活だけでなく、どのような分野が得意か、どのように取り組めばよいかなど、子どもの得意なことをさらに伸ばせる遊びや学びの可能性をお伝えしていけるようになると考えています」

ミツフジ画像
iStock.com/uzhursky

「世界的なウェアラブル開発競争の流れは、かなり早い段階で病気の予測ができるという予防医学にシフトしています。

人間が長く生きる時代に、より健康的でより幸せを実感できる、共に生きる相棒のようなウェアラブルが登場するでしょう。

 

そのような、人と一緒に生きていくウェアラブル製品の開発をこれからも進めていきたいと考えています」

 

共に生きる相棒としてのウェアラブル、という三寺社長の言葉に重みを感じると同時に、これからを生きる子どもたちの明るいミライを感じた。

編集後記

2019年の取材当時にはサービス開始予定で開発が進められていた「cocolin園児見守りソリューション」だが、2022年現在実際にいくつかの保育園でサービスを提供していて、ウェアラブル産業はさらに活発になるのではないかと感じた。

もっとデータが集まり子ども用ウェアラブルの開発が進めば、子どもの情報を詳細に理解でき、より子育てに役立てることができるのかもしれない。

 

また医療や福祉などの分野でも、京都の伝統文化である西陣織から派生したミツフジの「ものづくり」が、生体に関するグローバルな問題を解決する可能性も大いにあるだろう。

“服を着るような感覚で気軽に自分や大切な人の体のミライを知ることができる”。今の子どもたちが大人になるころには、そんな時代が訪れているのではないだろうか。


KIDSNA編集部

画像
<連載企画>子どものミライ バックナンバー

2019.08.02

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