子どもに「留学したい」と言われたら?数千万の費用を「投資」と考えられるか

子どもに「留学したい」と言われたら?数千万の費用を「投資」と考えられるか

「子どもにはグローバルに活躍してほしい」そう願っていても、いざ海外留学を検討すると現実問題として目の前に現れるのは「お金」の問題……。数千万になるともいわれる留学費用は確かに高額だが、子どもの将来への「教育投資」と考えることもできる。留学経験者や英語力を持つ人材への年収などのデータを元に紐解いていく。

海外留学の費用は「高い」のか?

グローバル化が進み、さまざまな分野で「国境」があいまいになりつつある。子どもたちが大人になる頃には、ますますその傾向は強まるだろう。

「海外の大学に進学したい!」

「留学を考えているんだけど……」

子どもにこう言われたとき、二つ返事で答えることができるだろうか。

日本の大学生・短期大学生数約303万人に対し、大学等が把握していた海外留学をしている日本人学生の数は約11万人。

 
 

この4%という数字は、グローバル社会において何を意味しているのだろうか。

OECDが発表する2020年の「平均賃金」を見てみると、日本の約408万円に対し、OECD平均は約520万円。最も平均賃金の高いアメリカでは約734万円と、300万円以上の差が生じている。

※2020年年間平均TTB:1USドル=105.82円として計算

日本経済の停滞が、子どもたちの留学を妨げている要因のひとつと考えることができるかもしれない。

日本の平均賃金が横這いなのに対し、日本からの留学先として最も選ばれているアメリカでは年々学費が上昇しているという。

※写真はイメージ(iStock.com/PeopleImages)
※写真はイメージ(iStock.com/PeopleImages)

米国労働統計局のデータによると、2006年からの10年間で、すべての項目で消費者物価指数が21%上昇したのに対し、「大学の授業料」に絞った上昇率は63%。

日本の大学の授業料も上昇しているとはいえ、私立では2006年の約83万円から2020年の約92万円とアメリカと比較すると微増の範囲に留まり、国立大学の授業料は2005年の約53万円から変化していない。

アメリカの私立大学の学費は年間で約500万円から600万円といわれている。学費の他に寮費も合わせると年間800万円程にも及ぶ。

これに生活費用、渡航費なども加わることを考えると、4年間で数千万円かかることになる。

※写真はイメージ(iStock.com/sengchoy)
※写真はイメージ(iStock.com/sengchoy)

この費用は果たして「高い」のだろうか?

留学経験がキャリアや人生にどのようなものをもたらすのか見ていこう。

留学費用を「子どもの未来への投資」と考えてみる

Crimson Global Academyで、海外留学や海外進学を目指す生徒と海外の超一流の教育者・個別指導員をオンラインでつなぎ、幅広い学習支援をしている松田悠介氏はこう語る。

「アメリカのトップスクールを卒業したら700万円くらいで、投資銀行などに勤めれば1000万円くらいからのスタートです。シリコンバレーにある企業だと平均年収で約3300万円。そうすると、低く見積もっても初年度の年収が600万円くらいになるわけです。

日本の大学を出た新卒と比べると200~300万円の差です。その状態で40、50年働くと、最初は200~300万円の差だったところが累積的に広がっていきます。

これを生涯賃金の差で言うと、2億5000万円から3億円ぐらいの差になります。つまり、アメリカの大学の費用2500万円の投資対効果が3億円を超えるとなれば、ふつうは誰でも投資するじゃないですか。だけど日本人はこういう考え方を持っていない。4年間で数百万円で済むVS数千万円かかる、となってしまうんです。

子どもが社会に出たあとのリターンを考えてみてください。海外で学ぶことで世界的に求められる人材になっていくため、年収も上がり、さまざまなチャンスにも恵まれます

【松田悠介】わが子をグローバル人材にするなら「教育投資」を

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教育投資の感覚が根付いている中国や韓国では、我が子をグローバル人材に育てるために未就学児のころから数百万円単位のお金をかけて塾に通わせ、海外の一流大学に送り出しているという。

※写真はイメージ(iStock.com/Nutthaseth Vanchaichana)
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さらに松田氏はこう続ける。

留学費用は高額ですが、それでも投資対効果は高いですし、最近は国内財団も積極的に奨学金を立ち上げています。

最近ですと、年間100名を対象とした学費と寮費や関連費用を全額支援する奨学金を立ち上げた財団もあります。

Crimsonの生徒は奨学金を獲得して進学する生徒が多く、戦略的に準備をすることでアメリカの大学の奨学金を獲得できます

差は1.5倍?留学経験者と未経験者の年収比較

実際に、留学経験者の方が給与が高いことを示すデータもある。

明治大学の横田雅弘教授を代表とする留学の長期的インパクトに関する調査の一環として、東北大学 高度教養教育・学生支援機構 グローバルラーニングセンターの新見有紀子氏らので分析で、大学学部・大学院の留学経験者と未経験者を4つのグループに分け、200万円ごとの8段階から年収を選択してもらったところ、以下の結果が得られたという。

図の右に向かって、年収が高くなればなるほど、海外の大学院留学・学部留学を経験した者の割合が多いことが見てとれる。

年収のばらつきは大きいものの、海外の大学に留学したグループ(水色)は、日本国内の学部卒業者(黄色)よりも相対的に高い傾向があり、海外の大学院留学経験者(赤色)は、年収1,000万円以上の割合が高い。

また、同調査の性別による比較では、女性は男性よりも200万円程度低いものの、男女ともに留学経験者の方が未経験者よりは高い年収を得ていたことがわかった。

続いて、年代別の年収平均値を見てみよう。

海外の大学への学部留学経験者と、日本国内の学部卒業者の差は、30代で1.39倍。全年代で見ても1.22倍の差となり、年収約100万円の違いが生じている。

大学院の留学経験者と、国内の大学院を修了したグループの平均年収の差は、30代で1.37倍、年代が上がるとともにその差は開き、50歳代以上では1.52倍も高くなっている。全体では、海外の大学院への留学経験者の方が約240万円年収が高いという結果が得られた。

※本データは、任意での回答を求めたため、肯定的な経験・自己評価を持つものが回答している傾向がある可能性がある。また、留学にかかる費用などが検討できていない(留学できるかどうかを左右する社会経済的背景を考慮できていない)などの分析上の限界が存在する。

※写真はイメージ(iStock.com/g-stockstudio)
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単純計算はできないが、もしこの数字を生涯年収に換算したとするなら、大きな差が生じることは明らかだ。

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英語ができる人ほど年収が高い?

留学経験に付随して、語学力も年収に影響を与えるというデータがあった。

ビジネス・プロフェッショナル×バイリンガルのための転職・求人情報サイト「Daijob.com」に掲載している企業からスカウトを受けた日本国籍で20代~50代のサイト登録者14,008人(男性:6,271人 女性:7,737人)を対象に行った、ヒューマングローバルタレント株式会社の調査からは以下のデータが得られた。

すべての年代を通して「ビジネス会話レベル以上」の英語力を持つ人の方が平均年収が高く、男女ともに20代と30代では年収にあまり差がないが、年齢が上がるにつれて差が開いていることがわかる。

同調査における職種別の状況を見てみると、英語力によって給与に最も差が開いた職種は「エグゼクティブ/経営」と「電機(電気/電子/半導体)」。同じ職種でも、英語力の有無で1.8倍もの年収差が開く結果となった。

それ以外もほとんどの職種で「ビジネス会話レベル以上」の方が給与が高かった。

コロナ禍でも強みとなった英語力

コロナ禍においては、外資系・グローバル企業の求人が一時的に減少する状況になったというが、年収にはどのような影響を及ぼしたのだろうか。

同社の2020年の調査によると、TOEIC475〜730点の日常会話レベル、TOEIC735点以上のビジネスレベルとも、すべての年代で新型コロナウイルス蔓延後のほうが、企業から高い年収でスカウトを受けているという。

特にビジネスレベルの英語力がある場合、50代の年収はコロナ前と比べて83万円増加と、最も大きな伸びとなった。

「コロナ前」2019年4月~2020年3月、「コロナ禍」2020年4月~2020年9月として計測
「コロナ前」2019年4月~2020年3月、「コロナ禍」2020年4月~2020年9月として計測

予測不可能性を突きつけられたコロナショックにおける英語力を持つ人の年収増加。

先行きの見えない未来においても、英語力を始めとしたスキルや経験が求められることを示唆しているのではないだろうか。

※写真はイメージ(iStock.com/cheangchai4575)
※写真はイメージ(iStock.com/cheangchai4575)

学歴やスキルよりも大きなリターン

ここまで見てきたように、留学経験者や語学力を有する人の方が、そうでない人よりも年収が高いことがわかった。しかし、「留学経験や英語力があるから」という点のみにおいて、高い収入を得ているとは単純に考えにくい。

留学経験や語学力のある人は、学歴やスキルだけではなく、外国に関する知識や異文化理解といったグローバル感覚も同時に育んだと捉えられる。

つまり、国際感覚のある人が労働市場で高い評価を得ている、と考えることもできる。

※写真はイメージ(iStock.com/gpointstudio)
※写真はイメージ(iStock.com/gpointstudio)

松田悠介氏はこのように話す。

「日本の人口は1億2000万人から2060年には8000万人になり、高齢化率は40%になると言われています。一方、世界は72億人の人口が100億人に達すると言われている。

つまり、海外の大学に進学することによって、日本の縮小市場ではなく、成長のエネルギーが溢れている世界の成長市場をフィールドにチャレンジできる。

学費をハイリターンな投資と捉えることが、グローバル教育には必要です」

年収の高さを人間の豊かさとするわけではないが、資本主義社会においてお金は、人を喜ばせたり満足させたりしたりした対価として得られるもの。

グローバル感覚を育み、より多くの人々を喜ばせたり満足させたりする子どもたちが増えれば、未来はもっと豊かなものになるかもしれない。


<執筆>KIDSNA編集部

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