【武田智生】「積極的不登校」を実践。書道家の父、武田双雲さんがかけてくれた言葉とは

【武田智生】「積極的不登校」を実践。書道家の父、武田双雲さんがかけてくれた言葉とは

「積極的不登校」を実践する高校1年生の武田智生さん。学校へ行くのを辞めるという決断の背景には、幼少期から現在まで続く、書道家である父、武田双雲さんの自由でハートフルなコミュニケーションと、母の絶妙な距離感でのサポートがあった。さまざまなことにチャレンジする後押しとなった家族からの言葉についてなど、話を聞いた。

なんでも任せてくれる両親に、自主性を育てられた

江の島の海を臨む湘南エリアでのびのびと育った、現在高校1年生の武田智生さん。

父は書道家の武田双雲さん。自宅にはアトリエと書道教室を構え、多くの生徒が出入りする。幼いころから智生さんも、教室に顔を出しては、たくさんの大人に遊んでもらったという。父の講演会にもついてゆき、壇上にあげられることも多かったそうだ。

「自宅兼教室という環境だったので、小さいころからパパが仕事をしているときもずっと一緒にいた記憶があります。人見知りは全然なかった。それは今もそうですね」

幼稚園のころから何かを企画することが好きで、お楽しみ会ではクラスでスタンプラリー式のめいろを作ることを提案、当日も先生と一緒に運営側に回り、参加者を楽しませた。

   

父も母もそんな智生さんを温かく見守っていたという。特に、父、双雲さんは智生さんにとって「さまざまなことを指導してくる教育者」というよりは、「一緒に楽しいことをする仲間」のような存在だった。

「パパには頼られることが多くて、今もホームページの更新や、YouTubeの動画作りなんかも僕がやっています。

そういえば、10歳のときに家族でアメリカに行ったときも、各種航空会社、ホテル、レンタカーのサイトを見て、どの行程が一番ベストか確認して。当日のナビも僕が調べて家族を先導していたんですよ(笑)」

 
父・武田双雲さんと智生さん。アメリカ旅行にて

幼いころから家族が自分を信頼し、任せてくれた経験が、智生さんの自主性や行動力を育んだ。 

しかし、杓子定規な性格で窮屈な思いをすることもあったという。

「何事もきちっとしていないと嫌なタイプで、ルールをしっかり守りたい子どもでした。友だちにもよく注意したりしていたので、あんまり好かれてはいなかったんじゃないかな」

少しずつ性格が変わってきたのが小学校高学年のころ。

「規則を大事にするという部分は変わらないんですけど、怒るように伝えても意味がないことに気づいたんです」

友だちがあまりいなかったと語った智生さんだが、両親からはそうした性格をとがめられることはなく見守られているように感じていたそうだ。結果的に自分自身で気づきを得て、キャラクターを変えていった。

友人との向き合い方が変わった結果、元来の行動力も相まって、中学へ進学後は学校外の活動も他者を巻き込んで次々と動いていくようになる。

   

児童労働の現状を知り、任意団体を立ち上げ。募金など精力的に活動

中学1年のときのSDGsの授業で、アフリカの子どもの児童労働について知り、衝撃を受けたことをきっかけに、問題意識を持ち、任意団体を立ち上げ活動を始めた。

「自分よりも歳の小さな子が労働に出ている……そのことがとにかく純粋にショックだったんですよ。それで、何かできることはないかって、『チョコプロ』という団体を立ち上げました」

同じ授業を受けた同学年の生徒たちに声をかけると、30人ほどが考えに賛同してくれた。

 

2018年に立ち上げた任意団体「チョコプロ」では、バレンタインデーにフェアトレード(※)のチョコレートを校内で販売したり、アフリカの児童労働をテーマにしたドキュメンタリー映画『バレンタイン一揆』の上映活動を行った。

他校に同じような活動をしている団体があることを知り、共同でイベントも企画、クラウドファンディングでは65万円の資金を調達する。経理や契約書関連の業務以外は、全て自分たちのアイディアで動いたという。

家族が自分にいろいろなことを任せてくれた、そのころの経験がここでも生きた。


※発展途上国の生産者によって作られた商品が適正な価格で長期的に取引されることを保護するための貿易のしくみ

 

「積極的不登校」と称し、自宅での学習を決意

SDGsの活動を通して多くの人と関わっていくにつれ、毎日決まった時間に通学し、皆と同じ決まったカリキュラムで勉強をしていくことに疑問を抱くようになっていった。

「学外の生徒との交流や校内の規模を超えたイベントの企画など、外からの刺激が多くなって、自分のやりたいことにもっと時間をかけたいと思うようになりました。

そんなときに新型コロナで学校が休校になり、家で勉強をするようになって、自分の学びたいことをセレクトして勉強を進めていく方が、ダイレクトに学びにつながって効率的だと感じたんです」

自主学習自体への不安はなかった。

「評判の良い塾の先生の講義をYouTubeで見ることができたり、スタディサプリやDMM英会話も利用しています。YouTubeは1.5倍速でも見れるし、効率がいいんですよ」

それでも、「積極的不登校」の決断には家族のサポートが大きかったという。

「新型コロナによる休校前にも、遅刻が増えていたりと、モチベーションが下がっていたことをママは理解してくれていたようでした。

でも、学校へ行くのを辞めることについてはやっぱり最初はすごく悩んだそうです。『学校は、行くものでしょ?』という思いがあったみたい。ただ、最後には僕の考えを尊重してくれました」

休校が開ける2020年9月のタイミングで、智生さんの母が学校へ掛け合ってくれた。

   

現在は2021年夏から予定しているアメリカ留学の準備のため、自らカリキュラムを作成し1日5時間程度を目標に勉強をしている。

「朝、決まった時間に起きられるようにオンライン英会話の予約を入れて勉強する習慣を作っています。お昼は隣接しているアトリエで仕事をしているパパを含め、家族でご飯を食べます。午後もまた勉強。もちろん、予定通りにいかない日もありますが」

課外活動と自主学習が、勉強への意識を変えてくれたそうだ。

「課外活動を始めてから一層『勉強って大事だな』って気づけたんですよ。

昔から勉強は嫌いではなかったけど、『なぜやらなきゃいけないのか』がわからないままやっていた。でも、社会と付き合っていく上で、基礎知識がないと人と会話ができない、同じ土俵にも立てないことがわかって、『学びたい』と思えるようになりました。

これは、学校に通い続けているだけでは気づけなかったことだと思います。

もちろん受験などを目標に勉強することも一つだと思いますが、“大学を出たその先”の将来にも生かせることなんだと思いながら取り組むとまた全然違ったんです」

   

自主的な勉強からは発見も多い。

「DMM英会話では、世界中の先生を講師に選べます。エジプトの先生を選んだり、なじみのない小さな島国に住んでいる先生と話すこともあります。

その土地の文化とか歴史とか、どういう習慣を持っているのかを聞くんです。『庭にパイナップルの木があって、毎日山盛りのフルーツを食べているよ!』なんて先生もいるんですよ。すごくおもしろいです」

  

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パパから叱られたことは一度もない

そんな智生さんだが、気になるのは世界で活躍する父、双雲さんとの関係。表現者として時に自由に生きる父に「お父さんらしくいて!」と思うことも、なかったとは言えないそうだ。

「でもね、『パパがこんなだから、どうにかしなきゃって子どもたちがちゃんと育ってくれたよね』ってパパは言います。

普段、進路などについてパパと深く話し合うことはなくて、学業の相談ごとは基本的にママにしています。でも、ふたりで情報は共有してくれてるみたい。

パパからは今まで怒られたことも一回もないんですよ。『智生が楽しければ俺はそれでいいよ』といつも言われます。学校に通って楽しければいいし、行かない方が楽しいならそうすればいい、また行きたくなれば行けばいい、そんな感じです」

祖母や叔父も書道家、自身も習字を習っていたことはあるが、小学校高学年で辞めている。

「3歳のときに自分から『習字を習いたい』と言ったみたいです。でも、学校との両立が難しくて。パパからは『続けなさい』といったプレッシャーは全くなかったですよ。

『ワクワクすることだけをやろうよ』っていう考え方なんです。やっぱりアーティストなんですよね、パパは。僕が書道を極めたいと言ったらきっといろいろと教えてくれるだろうけど、そうじゃないから、何も言われなかった」

 
書道を習っていた9歳のころ

幼いころから自分らしさを開花し、次々と新しい挑戦を続ける智生さん。両親が適度な距離でいつも背中を押してくれていたと語る。

「課外活動にせよ、勉強法にせよ、口うるさく強制されることはありませんでした。でも、何かあったら助けてくれるんだろうなっていうのは感じます。

『大丈夫だよ、智生ならできるよ』って、絶妙なタイミングで声をかけてくれる。それはすごく大きかったです。あぁ、好きなことやっていいんだって思えますね。本当に、距離感が、天才的なんです」

  

3人きょうだいということもあり、両親がべったりとサポートをしてくれている感覚はない、それでも、端々で母から見守られていることを実感するそうだ。

「小さなことでもすごく気にかけてくれてるなって思います。

たとえば、弟がまだ小さいので、塾には送り迎えなくひとりで通っているのですが、そのことを僕自身は全然気にしていません。でも、帰る時間に必ずママからLINEが入ってるんです。なんてことない連絡なんだけど、やっぱりうれしいんですよね。ママはずっと家族のことを考えてるそうです。『パパは今なにやってるかな、智生は、弟は、妹は……』って」

  

具体的な将来の目標は、あえて定めない

高校1年生。どんな職業に就きたいかなど、具体的な将来の目標はあえて定めていない。

「 日本の文化を世界に伝えたい気持ちがあります。そのために今は英語を勉強し、いろいろな文化の方と触れ合う機会を作りたいと思っています。

『日本の文化を世界に』それが達成できればどんな形でもいいかな。外交官のような職業もいいし、企業に入って海外と仕事をしていく道もありますよね。仕事にしないで趣味としてやっていくことだってできる。まだ、どうなるかわからないです。

そういえば、小学5年生のときの文集に「将来の夢は、世界中を笑顔にする」って書いていたんですよ。ナマイキだけど、案外思いは変わってないし、おもしろいよなって思います」

編集後記

できれば自分の子どもには好きなことで才能を開花させてもらいたい……そう考える保護者は少なくないだろう。

しかし、子どもが自分で気づくのを待ってみる、子どもの挑戦を口を出さず見守る、悩んだときには話を聞いて背中を押す、いつでも余裕を持ってそんな心構えでいられないこともある。

自分や家族の話を心から楽しそうにしてくれる智生さんの後ろには、控え目ながらあたたかいまなざしのご両親の存在を感じることができた。

その心強い関係性は、今後ますます智生さんが広い世界へ歩みだす後押しをしてくれるだろうと感じた。

<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部

2021.04.09

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