アメリカでは「福利厚生」の卵子凍結。現代の妊活のかたち、選択的卵子凍結保存サービス「Grace Bank」

アメリカでは「福利厚生」の卵子凍結。現代の妊活のかたち、選択的卵子凍結保存サービス「Grace Bank」

現代では、ライフプランとキャリアが両立しにくい社会環境の中で、日本は「不妊治療大国」という課題を抱えています。そこで妊活の一貫としてうまれたのが選択的卵子凍結サービス「Grace Bank」。今回はプレスカンファレンスの内容をKIDSNA編集部がレポート。

生き方が多様化し、選択肢が広がり、結婚や出産のかたちがさまざまになった現代。しかし、仕事やキャリアに励む反面、出産のタイムリミットに不安を抱えている女性も少なくありません。

医学的にも卵子は加齢の影響を受けやすく、いざ妊娠をしたいというタイミングが訪れても、年齢によっては思うように妊娠できず、不妊治療でも結果が出ないことがあります。そんなときのために、将来の妊娠に向けて今の卵子を採取し、凍結保存しておく方法が「卵子凍結」。

iStock.com/damircudic
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今回は、2月10日に行われた株式会社グレイスグループの選択的卵子凍結保存サービス「Grace Bank」のプレスカンファレンスをKIDSNA編集部がレポート。

グレイスグループ代表取締役会長の勝見祐幸氏、代表取締役CEOの花田秀則氏、エグゼクティブ・メディカル・アドバイザーの杉山力一氏らが立ち上げの背景やサービスついて解説しました。

女性のライフプランとキャリアが両立できないのは社会で取り組むべき課題

卵子凍結とは、将来の妊娠・出産に備えて、卵子を採取し凍結保存しておく方法。

採卵の際には、超音波画像で卵巣を確認しながら、腟の壁越しに卵巣内の卵胞を針で穿刺し、卵胞液ごと吸引・回収。採卵した卵子は、高濃度の凍結保護剤を利用し、従来の方法に比べて細胞内の水分をより多く除去した上で、固体と液体の中間状態を保ちながら高速で凍結する急速ガラス化法により凍結します。

急速ガラス化法により凍結した上で、マイナス196度の液体窒素内に保存することにより、半永久的にそのままの状態を保つことができます。将来妊娠を希望する際には、凍結しておいた卵子を融解して顕微授精を行い、 得られた受精卵(胚)を培養して胚移植します。

グレイスグループCEOの花田氏は、立ち上げの経緯について「現在ライフプランとキャリアが両立できない社会環境の中で、不妊に苦しんでいる人はたくさんいる。

女性個人だけでなく、社会をあげて取り組まなければいけない状況に来ているため、妊活の一貫として比較的年齢が若いうちでも卵子凍結を選択できる環境を整えるべきだと考えた」と話します。

 
提供:Grace Bank

問題視している社会課題として、少子化に伴う人口減少や女性活躍推進の遅れ、そして日本では年間約45万件の体外受精が行われており、不妊治療大国でありながら、高齢になってから不妊治療に取り組むケースが多いことや、卵子提供が一般化していないことなどの実態を挙げました。

また、女性の妊孕性(妊娠するために必要な能力)の専門知識についても紹介。

女性は、生まれたときが一番卵子の数が多く、一年で1万個以上減っていくと話すのは、杉山産婦人科理事長の杉山力一先生。だからこそ、年齢を重ねると卵子の数が少なくなり、妊娠しにくくなります。

提供:Grace Bank
提供:Grace Bank

米国CDC(疾病予防管理センター)が2013年に発表したこのグラフは、自分の卵子と提供卵子による体外受精で出産に至る確率を比較して、年齢ごとに示したものです。

これを見ると、若い女性の提供卵子を移植した場合、40代になっても30歳以前の女性の出産率とほとんど変わらないことが分かります。

提供:Grace Bank
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米国の医学誌に発表された520周期の症例による研究では、年齢に応じて採卵した卵子数と1人の子どもを授かる確率を出しており、年齢が上がっていくほど、同じ卵子の個数で比べても妊娠の可能性が下がっていくことが分かります。

また、女性の体内にどれくらいの卵子があるかを見るAMH値と採卵数の分布についての研究では、一回の採卵により採取できる卵子の数は年齢が進むにつれ減少

20代であれば、1回で10個近くの採卵が可能で、80%の確率で子どもを授かることができますが、37歳で同様の確率で子どもを授かるには平均5回の採卵が必要なため、あらゆる負担は5倍以上になるということも分かっています。

アメリカでは卵子凍結が「福利厚生」になっている

今回のプレスカンファレンスでは、卵子凍結が企業の「福利厚生」にまでなっている背景と日本との比較が印象的でした。

2014年のFacebookを皮切りに、GAFAをはじめ大手企業が続々と導入していることをはじめ、2014年以降、アメリカでの卵子凍結件数は5年間で2倍にまで増加。アメリカの成人女性の68%が「卵子凍結の福利厚生が転職に影響する」と解答しています。

提供:Grace Bank
提供:Grace Bank

日本は、年間の体外受精件数で世界最大の不妊治療大国でありながら、高齢になってから不妊治療に取り組むケースが多いこと、卵子提供が一般化していないこと、一度に移植する胚の数が限られていること(日本では通常1個だがアメリカでは2~3個)などから、体外受精件数あたりの出生数が、アメリカの半分以下に留まっています。

したがって、高齢になってから多額の費用をかけて苦しい不妊治療を続けた上で、結局子どもを授かることができない膨大な数のカップルがいることに。卵子凍結は、この不妊治療の成績を飛躍的に向上させることができるソリューションでありながら、日本では妊孕力や不妊治療についての社会的な認知が深まっていないことを背景に、まだまだその選択をする人が限られているのが現状です。

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妊活の前倒しとしての「選択的卵子凍結」

そこで今回、Grace Bankが名付けたのは「選択的卵子凍結」。

卵子凍結保存や体外受精は、本来ならば行われないことが理想という前提のもと、結婚や出産、子育てはすべての人に等しく求められるべきものではない。

その手段としての卵子凍結も、社会的に求められていることではなく、あくまで個人の選択であるべきであるとCEOの花田氏は話します。

現状、本人も、社会も、産んでほしい、活躍してほしいのに、うまくライフプランやキャリアとのバランスが取れずに、結果的に不妊に苦しむ人々は多くいます

女性の妊孕性との向き合いについて、女性個人に丸投げにするのではなく、社会をあげて取り組まなければならない状況に来ているのではないか、そしてその際に「妊活の前倒し」としての卵子凍結はもっとインフラとして整備されているべきではないかというお話もありました。

杉山産婦人科理事長の杉山力一先生は、卵子凍結保存関連の医学技術は、針や採卵方法の進化や、凍結・融解方法の確立などによって、ライフプランの選択肢と呼べるまでに、近年大きく進化してきたと話します。

提供:Grace Bank
提供:Grace Bank

また以前は体外受精でさえも問題視される風潮があったが、現在は子どもを持つ手段のひとつとして一般化しており、高齢になってから不妊治療の各種負担に苦しみ、“若いうちに卵子凍結だけでもやっておけば”というケースは臨床の現場で後を絶たないといった実態についても説明されました。

卵子凍結は、加齢によって低下する女性の妊孕力(妊娠する力)を維持するための有効な手段ですが、日本では妊孕力や不妊治療についての社会的な認知が深まっていないことを背景に、まだまだその選択をする人が限られているのが現状です。

特に、若い世代においては、卵子凍結が将来にわたって自分の妊孕力を維持するための重要な手段であるという事実が認識されていない上、クリニックごとに大きく異なる料金体系や、不妊クリニックの敷居の高さ、また凍結後の卵子を長期間保管する際の費用の高さもハードルとなっています。

そこでGrace Bankは、「どこのクリニックを選んだらいいか分からない」「採卵した後の管理がどうなっているか不安」「高額な費用がかかる」といった悩みや不安を解消するためのシステムを構築しています。

GraceBankの3つの特徴

①厳選クリニックの全国ネットワーク

利用者は公式ホームページから申し込み、提携クリニックの中から採卵を実施する場所を選択。現時点の提携クリニックは東京・新宿と丸の内にある杉山産婦人科などの8クリニックで、今後は同社が審査を行いながら全国にネットワークを拡大。これによりネットワーク内であれば他院でも凍結卵子を戻すことが可能に。


②安心・安全の輸送、保管体制

保管庫では独自のデジタル在庫管理システムを導入し、卵子の保管に不可欠な温度管理や液体窒素の補充を全自動で行い、卵子へのヒートショックや取り違えのリスクを回避。

提供:Grace Bank
提供:Grace Bank

③保管費用の大幅な削減

10年間で60万円以上、ときには200万円以上かかっていた保管費用を、徹底した自動化や、タンク内部構造の見直しといった効率の追求、何より株式会社ステムセル研究所との資本業務提供によって大幅に低価格化させることに成功。

保管にかかるコストは、15個までであれば初期費用が10万円(税別)、毎年発生する保管費用が3万円(税別)となり、安心・安全・高品質でありながら低価格の両立を実現。


女性だけではなく、男性や企業も含めたすべての人々が、妊娠の医学的な知識と向き合い、ライフプランの多様化した現代で、働きながらでも妊娠出産を両立することやそのほかの可能性も一人ひとりが「選択」できる社会を目指す、Grace Bankの「選択的卵子凍結」に注目です。

Grace Bank(グレイスバンク)

https://gracebank.jp/

2021.02.26

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