子宮頸がんを予防するHPVワクチン!知っておきたい効果と副反応

子宮頸がんを予防するHPVワクチン!知っておきたい効果と副反応

WHOが2030年までに15歳以下の女子の接種率を9割まで高めることを新たな目標にし、注目されているHPVワクチン。しかし日本では、副反応に対する不安などから、ワクチン接種を控える保護者も多くいます。そこで今回は子宮頸がんの予防に有効なHPVワクチンの効果と、副反応について解説します。

日本で接種率が低いHPVワクチン

性経験のある女性であれば50%以上が生涯で一度は感染するとされている、ヒトパピローマウイルス(以下、HPV)。

このHPVが原因でなるとされているのが子宮頸がんです。


子宮頸がんの90%以上はHPVウイルスが原因

子宮頸がんは、子宮の出口に近い頸部にできるがんで、日本で若い女性が患うがんの中で乳がんに次いで、多くの割合を占めています。

子宮頸部の細胞に異常がない女性のうち、10~20%程度がHPVに感染していることが分かっています。

HPVへの感染が、すぐ子宮頸がんにつながるわけではありません。

多くの場合、ウイルスは2年程度で体外に自然排出されるといわれていますが、ウイルスが自然排出されない場合、長期的、持続的にウイルスに感染することでがんになることがあると考えられています。

HPVウイルスは、100以上の種類があります。皮膚や粘膜に感染するウイルスで、子宮頸がんのみならず、


  • 中咽頭がん
  • 肛門がん
  • 膣がん
  • 外陰がん
  • 陰茎がん
  • 尖圭コンジローマ

等、多くの病気の発生にも関わっているといわれていますが、子宮頸がんの患者の90%以上にHPVウイルスが見られることから、子宮頸がんのもっとも大きな原因とされています。

初期の頃はほぼ無症状な場合も多いのですが、


  • 不正出血
  • 性行為による出血
  • おりものの増加

などの症状が見られることがあります。

足腰の痛みや血の混じった尿が出る場合、がんが進行している可能性がありますので、すぐに医療機関を受診してください。

子宮頸がんは、がん検診により早期発見し早期治療をすることで、比較的治癒しやすいがんとされています。

他のがんと同様、少しずつ進行していくため、発見が遅くなると治療が難しくなります

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出典:小学6年~高校1年相当の女の子と保護者の方への大切なお知らせ(厚生労働省)

また、国内の子宮頸がん患者は、年間11,000人ほど(2017年)と報告され、近年20~39歳の年齢層で患者が増加傾向です。

年代別にみた患者の数は、20代後半から増え、40代でピークを迎えることが分かっています。

国内において子宮頸がんで亡くなる方は、年間約2,800人(2018年)と報告されていますが、年代別に見ると30代後半から増えていく傾向にあり、妊娠・出産・子育てまっただ中の女性の年齢と合致するため、「マザーキラー」とも呼ばれ、近年話題となっています。


HPVワクチンの現在の日本での接種率は1%

子宮頸がんの原因となるHPVの感染を防ぐためには、HPVワクチンを接種することが効果的とされています。

日本では公費による助成対象としてワクチンの定期接種を提供しています。

現在使われているのは、サーバリックス®とガーダシル®の2種類のワクチンで、対象は小学校6年~高校1年相当の女子です。

HPVワクチンの接種回数は予防接種法に基づき、中学1年生となる年度から、以下のようにスタートします。


  • サーバリックス®→1回目の接種を行った1カ月後に2回目を、6カ月後に3回目の接種を行う。
  • ガーダシル®→1回目の接種を行った2カ月後に2回目を、6カ月後に3回目の接種を行う。

世界保健機関(以下、WHO)は接種を推奨しており、カナダ、イギリス、オーストラリアでの接種率は約8割で、イタリア、アメリカでも半数を超えています。

一方、日本では、定期接種開始後、副作用との訴えが相次いだことを受け、厚生労働省が2013年に「積極的な接種の勧奨」を中止したことから、一時7割を超えていた接種率は現在なんと1%未満と先進国ではかなり低い数字となっています。

ただし、これらの副作用とされている症状と、ワクチンとの因果関係はいまだに証明されておらず、HPVワクチン接種後に疼痛、じんましん、発熱などの症状が出たという報告は回復したものも含め10000人あたり9人、そのうち重篤とされたのは約5人です。

今年11月、WHOは子宮頸がんの撲滅に向け、2030年までにHPVワクチンの接種率を、15歳以下の女子の90%まで高めることを盛り込んだ、新たな目標を設定。

これに対し日本の厚生労働省は、「副反応などの頻度を改めて見極め積極的な勧奨の是非を判断したい」とし、今後の動向に注目が集まっています

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iStock.com/Chinnapong

子宮頸がんはワクチンと検診で予防できる

HPVの型の中で子宮頸がんの原因とされているのは少なくとも15種類で、日本人では、HPV16型と18型の2種類が子宮頸がんの原因の半数以上を占めていることが分かっています。

90%以上の感染者は、感染後、2年以内に自然にHPVウイルスが排除されます。

一方、ウイルスが排除されず、持続的に感染した状態が続いた場合、子宮頸部に前がん病変と呼ばれる異形成が生じ、数年から数十年をかけて子宮頸がんになっていきます。

前がん病変ができたとしてもそのまま自然に正常に戻ることもありますが、前がん病変が生じた段階と、早期の子宮頸がんでは、まったく症状がありません。

だからこそ、定期的な子宮がん検診を受けることが重要なのです。

日本では子宮がん検診は20歳以上の女性を対象に、2年に1度の頻度で受けることを推奨しており、お住まいの自治体により異なりますが、全額、もしくは一部助成金が出るため、ぜひ受診しましょう。


子宮頸がんになってしまったら?

子宮頸がんの一般的な治療法は、がんの発症している部分を切除する手術です。

病状によって方法が異なり、前がん病変や初期の早期がんであれば、子宮頸部の組織を円錐状に切除する円錐切除術が行われます。

この方法は子宮の温存も可能で、その後の妊娠の際、流産や早産などのリスクも伴いますが、日本国内では年間約14000人がこの手術を受け、その後約1300人が妊娠しています。

がんの広がりによっては、子宮を切除する単純子宮全摘出術や、子宮と腟を取り除く子宮全摘出術などの方法がとられるため、子宮を失い妊娠ができなくなる場合もあります。

このような最悪の事態になることを防ぐために、子宮がん検診では、一般的に子宮頸部の細胞を採取し、細胞に何らかの異常がないか検査する「子宮頸部細胞診」が行われます。

まずはHPVワクチン接種でウイルスの感染予防し、さらに定期的な検診を受けることで、異常があった際にいち早く発見し、経過観察や負担の少ない治療で重症化を防ぐことが望まれます。

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iStock.com/Mariakray

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HPVワクチンの効果やリスク

では、子宮頸がんの予防に有効とされているHPVワクチンには、どのような効果とリスクがあるのでしょうか。


感染やがんになる手前の異常を90%以上予防

HPVワクチンは、2006年に欧米で生まれ、日本では2009年12月に接種が始まった新しいワクチンで、世界100か国以上で公的な予防接種がおこなわれています。

HPVワクチンは、子宮頸がん全体の50~70%の原因とされる2種類のウイルスなどに対して、持続感染等の予防効果をもち、これまで、ウイルスの感染やがんになる手前の異常を90%以上予防したと報告されています。

また、ワクチンの効力は、自然に感染したときの数倍の量の抗体を、約9.4年維持できることが研究でわかっています。

ワクチン接種により持続的なHPVの感染やがんになる過程の異常を予防する効果は確認されており、接種が進んでいる一部の国では、まだ研究の段階ですが、子宮頸がんを予防する効果を示すデータもあります。

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iStock.com/Pornpak Khunatorn

まれに重い副反応が出る場合も

ワクチンは、筋肉注射で腕や太ももに接種します。

筋肉注射なので多くの場合に、接種を受けた部分の痛みや腫れ、赤みなどの症状が起こることがあり、インフルエンザの予防接種等と比べて、痛みを強く感じることも。

痛みや緊張等によって、接種直後に一時的に失神や立ちくらみ等が生じることがあるため、 多くの予防接種と同様に、接種後30分程度は安静に過ごし、接種を受けた日は激しい運動を控えましょう。

まれなケースで、呼吸困難やじんましんなどの重いアレルギー症状や、手足の力が入りにくい、頭痛・嘔吐・意識の低下などの神経系の症状が起こることもあります。

ただし、前述したとおり、HPVワクチンとこれらの副反応と因果関係は不明であり、そもそもHPVワクチンに限らず、すべてのワクチンには効果とリスクがあります。

子宮頸がんはワクチン接種でかなりの高確率で防げることをよく考える必要があるでしょう。

万が一、1回目、2回目に気になる症状が現れた場合は、以降の接種をやめることも可能ですし、接種後に気になる症状が出たときは、接種を受けた医師やかかりつけの医師、協力医療機関に相談してください。

HPVワクチンはその他の医薬品と同様に、販売までには厳しい承認審査が行われるほか、その後も製品ごとに国による検定を実施しています。

また、予防接種との因果関係の有無に関わらず、予防接種後に健康状況の変化が見られた事例を収集し、随時モニタリングし、定期的に専門家による評価を実施しすることで、安全性を評価しています。

一人一人が接種することが社会全体を守る

アメリカやイギリスなど世界の約80の国では、すでに男性への接種も承認されており、日本でも肛門がんや尖圭コンジローマの予防に有効であることから、男性へのワクチン使用を認める動きが進んでいます。

日本でも今後さらにこの動きは高まっていくでしょう。


ワクチン接種の意義

厚生労働省が小学生向けに子宮頸がんの啓発のために作ったパンフレットによると、たとえば、10000人がHPVワクチンの接種を受けることで、約70人ががんにならなくてすみ、 約20人の命を落とさずに済むという試算があります。

もちろんHPVワクチンの接種は強制ではなく、最終的には有効性とリスクを十分理解したうえで個人が判断すべきですが、ひとりひとりが接種することが、ひいては社会全体を守るという公衆衛生の側面も忘れてはいけません。

また、ワクチンだけでは全ての高リスク型HPV感染は予防できないため、定期的に子宮頸がん検診を受診することで、さらに子宮頸がんに対する予防効果を高めることができます。

日本ではワクチンにまつわる偏った情報から、ご自身やお子さんへの接種の是非を悩み、接種を控える保護者の方が増えた結果、今日の低い接種率となっています。

今回の記事でご紹介した厚生労働省や日本産婦人科学会などのHPには、HPVワクチンに関するさらに詳しい解説が掲載されているため、この機会にぜひ親子でHPVワクチンについて考えてみてはいかがでしょうか。


出典:HPVワクチンQ&A/厚生労働省


出典:小学校6年~高校1年相当の女の子と保護者の方へ大切なお知らせ(詳細版)/厚生労働省


出典:ヒトパピローマウイルス感染症/厚生労働省


監修:保科しほ

Profile

保科しほ(医療法人社団 敦保会 恵比寿こどもクリニック)

保科しほ(医療法人社団 敦保会 恵比寿こどもクリニック)

日本小児科学会専門医・指導医。麻酔科 標榜医。久留米大学医学部卒業後、横浜市立大学附属病院、国立成育医療研究センター、東京女子医科大学八千代医療センター、国立感染症研究所勤務を経て、医療法人社団 敦保会 恵比寿こどもクリニック院長に就任。専門は小児感染症、小児救急、アレルギー。

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2021.02.05

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