【ウガンダの教育】子どもの数が多い国ならではの家庭と学びの環境

【ウガンダの教育】子どもの数が多い国ならではの家庭と学びの環境

さまざまな歴史や風土をもつ世界の国々では、子どもはどんなふうに育つのでしょうか。この連載では、各国の教育や子育てで大切にされている価値観を、現地から紹介。今回は、ウガンダ共和国在住で会社を経営しながら子育てをしている岡野あさみさんに話を聞きました。

アフリカ大陸の中央に位置し、日本の本州と同じくらいの面積を持つウガンダ。

世界で3番目に大きい湖であるビクトリア湖があり、かつてイギリスのチャーチルがアフリカの真珠と称したほど、水も緑も豊かな美しい国です。

「人口が増え続けているウガンダでは、世界保健機関(WHO)の統計によると人口に対して15歳以下の子どもの割合は世界第2位。少子高齢化が進む日本とは真逆の人口構成になっています」

こう語るのは、ウガンダの都市部でカカオとバニラの農園と製造事業を行う会社を経営しながら、子育てをしている岡野あさみさん。ウガンダの子どもたちは、どんな風に学んでいるのでしょうか。

【ウガンダの子育て】オープンに開かれた大規模な「家族」の形

【ウガンダの子育て】オープンに開かれた大規模な「家族」の形

岡野あさみ(おかの・あさみ)/ウガンダ現地法人Farm of Africa  Founder & Managing Director (代表取締役)。教育大学卒業後、IT企業に勤める。その後世界一周を経て2012年よりウガンダ在住。2016年にカカオとバニラの農園と製造事業を展開するFarm of Africaを設立。
岡野あさみ(おかの・あさみ)/ウガンダ現地法人Farm of Africa Founder & Managing Director (代表取締役)。教育大学卒業後、IT企業に勤める。その後世界一周を経て2012年よりウガンダ在住。2016年にカカオとバニラの農園と製造事業を展開するFarm of Africaを設立。

たくさんの子どもたちでぎゅうぎゅうの教室の風景

「出生率が高く子どもがとにかく多いウガンダは、日本と同じくらいの大きさの教室に子どもが60~100人がぎゅうぎゅう詰めで勉強しています。

それでも机が足りない場合は、床の上でノートを広げて学習する児童も。小学校は義務教育ということになっていますが、あまり良い環境とはいいにくいですね。

さらにコロナ禍においては、現時点では小学校や中学校の各卒業学年のみ、少人数で授業を再開しているようです。そのほかの学年は来年から授業開始と政府が伝えており、休校のまま。1月に大統領選があるので、それによっては全員留年などの大きな動きがあるかもしれないといわれています。

これまでのたくさんの子どもがぎゅうぎゅう詰めの教室の風景が今後どうなるのかは、まだ想像がつきません」

ウガンダ北部の公立小学校2年生のクラス
ウガンダ北部の公立小学校2年生のクラス

「子どもたちの進学率が低いのには、留年制度も関係しています。

進級ごとに試験があり、合格しないと留年となる子どもたちは、がんばって進級したとしても、上の学年に進むほど必要経費が高くなり、ドロップアウトしてしまうのが現状です。

特に地方では、子どもが家業を手伝ったり、下の子の面倒をみるために通学を続けられないケースも少なくありません。制服や靴、教材が買えないため学校に行けない子もいます。

地方は学校が不足していて、片道2時間かけて通うことも珍しくないため、通学にどのくらい時間がかかるのか、教育費は払いきれるのかどうかが教育を受けられるかどうかに大きくかかわってくるのです」

食器運びのお手伝いをする女の子
食器運びのお手伝いをする女の子

こうした現状の中、近年は、幼児教育が普及してきていると岡野さん。外務省によると、幼児教育施設が2002年の844施設から2017年の6798施設まで増加しています。

「現地では初等教育の準備として推進され、日本でいう幼稚園の役割を果たしているのが、3歳から入れるナーサリーと呼ばれる施設です。

遊びや歌以外に、年長クラスではアルファベットを覚えたり簡単な計算も学びます。

小学校は7年制で、中学・高校は4・2年制。6歳になる年から入学するのが一般的ですが、5歳でも試験をパスすれば入学が認められることもあり、富裕層で教育熱心な家庭は、通常より早い年齢で小学校に通わせることもあります。

反対に、一般層や貧困層の家庭では無償化されている初等教育でも教材費などの金銭的な面から小学校入学のタイミングが遅くなりがちで、10歳で1年生になる子もいます。

その結果、どの学年も異年齢の児童生徒でクラスが構成されていることも特徴です」

okanosan

知識重視の詰め込み教育

学校で子どもたちの学ぶ内容は、知識重視。

教科書を読み、問題を出したあとに教室内を見回らず、出ていってしまう先生も多いと岡野さんはいいます。

「地方の公立小学校では、ひとりの先生がたくさんの生徒を受け持っていることも多く、クラスを掛け持ちしている先生もいます。ノートや教科書、文房具なども不足しているので、基本的な授業をすることが難しいこともあります。

ただ、すべての公立小学校がこういった状況というわけではなく、教師や学校によってかなりの差があるといえます。

1年生のクラス
1年生のクラス

もともとイギリスの植民地で1962年に独立したウガンダは、第一公用語が英語。学校の授業は英語で行われていますが、子どもたちが家庭や友達と話すのはそれぞれの民族の言語であることがほとんどです。

ですので、学校に通っているほとんどの子どもがバイリンガル、場合によってはトライリンガルです。

小学校の進級試験は厳しく、合格できなかったら留年することになります。そのため多くの学校で、試験対策のための知識重視の教育が行われているのが実情です。

詰め込み型教育の環境下でも、そもそも子どもたちにとっては厳しい環境で生活していくために問題解決能力やクリエイティビティが必須のスキル。あえて教育しなくてもすでに身につけている子が多いのかもしれません。

子どもたちが廃材の引き出しと板で作った木琴
子どもたちが廃材の引き出しと板で作った木琴

むしろ教育現場では、子どもに自分で考えさせるというより、教師や大人の言うことをしっかり聞く子が求められているような気がします。

ウガンダの子どもたちにとっては学校に通うことが当たり前ではないので、新しいことが学べて友だちに会えるから学校が大好き、という子が少なくありません」

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学校に通うために小学生から親元を離れる

ウガンダでは、小学校2年生から寄宿か自宅通学かが選べるようになっています。家庭の事情でさまざまですが、小学校7年生からはほぼ寄宿生となります。

学校の寄宿舎。大きな部屋にたくさんの生徒が寝泊まりしている
学校の寄宿舎。大きな部屋にたくさんの生徒が寝泊まりしている

働く親が増えて育児に時間が取りづらい、家から学校までが遠く通学に数時間かかることなどの理由から寄宿させる家庭は年々増加しています。

学校側としても、生徒がより勉強に集中し、放課後や夜、土曜日なども勉強ができるようにと寄宿を勧めることが多いです。

そんな環境で学ぶ子どもたちは、学校が終わって帰宅すると友達と遊ぶわけでもなく、明日の授業の予習をするわけでもありません。

まずしなければいけないことが、数多くの家のお手伝いです。

また地方の家庭では電気がないことも普通ですので、日が暮れた放課後に勉強することは難しい。そのため、宿題も少ない傾向にあります」

都市部のインターナショナルはアメリカ・イギリス式の学び

地方でも政府運営の公立の学校と民間経営の私立の学校では教育内容にかなりの格差があると岡野さん。一方で都市部では、岡野さんをはじめ海外赴任者の子どもはほとんどインターナショナルスクールに通います。

富裕層が増えている首都カンパラ
富裕層が増えている首都カンパラ

「地方では家の手伝いをしなければいけなかったり制服や靴が買えないことで学校に行けない子どもがいる一方で、都市部では比較的、学校の選択肢が多いのは事実です。

小学校以降のインターナショナルスクールは、大きくはイギリスとアメリカのそれぞれのカリキュラムに沿って教育が行われることが多く、イギリス式カリキュラムは、子どもたちがそれぞれのグループに所属します。

そして授業の加点と減点の合計と、運動でのトーナメントで勝ち抜いたポイントの合計を合わせてどのグループが一番になったか、という形で生徒に自分の所属性を身に着け、モチベーションを持たせながら教育をしていきます。

5歳より1年生が始まり、6年生まで。中学校は5年間、その後、高校の最後2年間は大学入学試験用の国際バカロレアコースで、ディプロマを取った学生はアメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、日本等の大学に進みます。

小学生の頃から、レゴ学習やPCを取り入れて、探求心を養う内容であったり、日本のような暗記型ではなく、課題が与えられ、それを調べて発表するという自宅学習重視の授業を行っています。

グループ学習も多く、議論を重ね多様性を受け入れて自分の立ち位置を理解して話をまとめていく力を養っているように感じます。

岡野さんのお子さん(左)のプレスクールでの様子。(提供:岡野あさみさん)
岡野さんのお子さん(左)のプレスクールでの様子。(提供:岡野あさみさん)

アメリカ式カリキュラムでは小学校は6歳から始まり5年生まで。中高は3・3年制ですが、最後の2年間は国際バカロレアを取るための特別課程となっています。

小学校の時は日本のように教科書があってそれに沿って勉強していくのではなく、先生が選んだテーマを元に関連したものを掘り下げていくような授業となっています。

たとえば社会で大航海時代がテーマだったら、全体を習うのではなく、ひとりの探検家を自分で選んで、その人のことを徹底的に調べます。最後はその人に扮して劇を作りショートフィルムを撮影して発表したりします。

テストで良い点数を取るための記憶力や勤勉さよりも、発想力や表現力が求められるのが特徴です。

ウガンダで外国人の在籍するインターナショナルスクールの学費は、小学校低学年で年間7,000USD~20,000USD(75万円~210万円※1USD≒約106円で計算)。高校になると11,000USD~28,500USD(115万円~300万円)にもなります。

大学に進学する子どもは少なく、現地のスタッフによると一般的なウガンダ人の約5%ほどだそうです」

岡野さんのお子さん(右上)。幼稚園で国際色豊かな友だちができた(提供:岡野あさみさん)
岡野さんのお子さん(右上)。幼稚園で国際色豊かな友だちができた(提供:岡野あさみさん)

人口に対して子どもの数が多く、今でも人口が増え続けるウガンダ。

国連の「世界人口累計2019年度版」によると、ウガンダを含むサハラ以南アフリカのほとんどの国で、「人口ボーナス」という著しい経済成長が期待できる機会が訪れていることを示唆しています。

「子どもの数が増え続ける中で、国が目指すのはすべての子どもたちにユニバーサルな教育を提供すること。

教育・スポーツ省の大臣も、ホームページで『すべての人のための質の高い教育とスポーツを』と提言しています。年々就学率は上がっているものの教師の数が足らず、一度入学してもドロップアウトが多いという課題を解決し、子どもたちの将来を見据えた技術・職業教育も活性化するよう、政府や学校も取り組んでいるようです」

【ウガンダの子育て】オープンに開かれた大規模な「家族」の形

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<連載企画>世界の教育と子育て バックナンバー

<写真提供>桜木奈央子
<取材・執筆>KIDSNA編集部

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