【カナダの子育て】社会的ストレスの少ないリラックスした子育て

【カナダの子育て】社会的ストレスの少ないリラックスした子育て

さまざまな歴史や風土をもつ世界の国々では、子どもはどんなふうに育つのでしょうか。この連載では、各国の教育や子育てで大切にされている価値観を、現地から紹介。今回は、カナダ駐在後、現地の生活や教育環境に惹かれ、カナダに移住した久保恵一さんに話を聞きました。

毎年人口の約1%にあたる30万人を受け入れ、5人にひとりが外国出身のカナダ。多文化主義を掲げ、人種、宗教、文化などそれぞれのアイデンティティを保ったままカナダで生活を送ることが可能な、”個”を尊重する国です。

「ひとりひとりのアイデンティティを大切にするカナダでは、子育てにおいても、子どものありのままの個性を尊重します。たとえ失敗しても『good try!』、と挑戦したことを褒め、自己肯定感を育む姿勢がありますね。

息子の通っていた小学校で行われた、音楽発表会が印象に残っています。初めて習う子が多いバイオリンや管楽器、打楽器を数週間練習して、いざ本番。

出だしは順調なものの、次第に音は外れて子どもたちの演奏はバラバラになり、聞いている方も最後まで演奏できるかが心配に。それでも、なんとか最後まで演奏が終わると保護者はスタンディングオベーション。『素晴らしい、ブラボー!』と拍手喝采です。

演奏の完成度ではなく、トライしたことを褒めるカナダの文化にカルチャーショックを受けたと同時に、自分の子育てでも取り入れたいと感じました」

こう語るのは、日本企業の駐在員としてカナダ赴任中に、カナダでの働き方や教育環境に魅せられ、現地法人に転籍した久保恵一さん。広告代理店でバイス・プレジデントを勤めた後、現在、ビジネスコンサルティング会社を経営する傍ら、日本の文化や日系カナダ人のレガシーを発信するJCCC(日系文化会館)の理事も務めています。

久保恵一(くぼ・けいいち)/慶應義塾大学卒業後、(株)電通に入社。電通カナダ社とボス社の統合に伴い、2012年に駐在員として赴任。ワークライフバランスを重視したカナダ人の働き方や、子どもの可能性を伸ばす素晴らしい教育環境に感銘を受けカナダ移住を決断。電通ボス社にVice Presidentとして勤務した後、現在は、日本とカナダ間の企業進出支援を行うビジネスコンサルティング会社を経営。仕事の傍ら、日本の文化や日系カナダ人のレガシーを発信するJCCC(日系文化会館)の理事も務める。
久保恵一(くぼ・けいいち)/慶應義塾大学卒業後、(株)電通に入社。電通カナダ社とボス社の統合に伴い、2012年に駐在員として赴任。ワークライフバランスを重視したカナダ人の働き方や、子どもの可能性を伸ばす素晴らしい教育環境に感銘を受けカナダ移住を決断。電通ボス社にVice Presidentとして勤務した後、現在は、日本とカナダ間の企業進出支援を行うビジネスコンサルティング会社を経営。仕事の傍ら、日本の文化や日系カナダ人のレガシーを発信するJCCC(日系文化会館)の理事も務める。

違いを個性として尊重する多文化主義

「カナダの保護者は、子どものいいところを伸ばしたい。だから他人と違っても全く気にすることはないどころか、それが子どもの個性になる。

結果が悪かったとしても、それは本人が一番よくわかっていることです。だから保護者はトライした事実や努力の過程を褒めればいいんですね。カナダでは子どもを褒め、自信を持たせるようなコミュニケーションが基本です。

子どもの意思を尊重しているので、真っ先に否定することはしませんし、本人がやりたくなければやらなくてOK。嫌いな食べ物を無理に食べさせている姿も見たことがありません。

幼児期でも、習い事を熱心にやらせるより、子どもにはのびのびと過ごしてほしいと願う保護者が多いようです。

人間として生きる力や、食事マナーなどの最低限の礼儀作法は、どの保護者も意識していることではありますが、『子どもはこうあるべき』という枠組みに子どもを当てはめた子育てはあまり見たことがありません。

iStock.com/vorDa
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だから、上下関係のもと子どもを従わせるという意味での”しつけ”は、個を尊重するカナダの文化にはマッチしないと感じます。

正直、日本から来た人間から見ると、『すごく甘やかしてるな』と感じることもあります。けれど、それはその家庭のやり方であり、外部の人間がタッチすべきことではない。

その家庭がどんな宗教を信じていようと口出しすることではないし、どんな文化があろうと口を挟んだりしないのと同じです。

こうした多文化社会でさまざまな人が共生している背景があるから、それぞれにそれぞれの理屈や背景があり、家族のあり方や子育ても100人いれば100通りであることを当たり前のように受け入れているのでしょう。

個人においても家庭においても、ひとつの正解を求めず、ひとりひとりを尊重している印象です。

子どもを褒める関わりのほか、新しいことにチャレンジする機会の創出も、カナダの保護者が大切にしていることのひとつ。2カ月ある夏休みを有効活用し、子どもがさまざまなことに触れられるチャンスを意識的に作っています。

こちらはサマーキャンプが充実しており、運動系、ロボティクス系、アート系など、その種類は多岐に渡ります。

iStock.com/lewkmiller
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できるだけ若く幼いうちに、自分が何を楽しいと思うか、何が得意なのかを見つける機会を増やしてあげたいという保護者の想いは強い。

日本の場合は『この部活に入りたい』と言えば、基本的に全員入部可能ですよね。しかし、カナダの場合は”セレクション”という、クラブ活動に参加するための選抜があるんです。中学入学を機に『野球部に入りたい』と思っても、小学生から野球をしていた子どもには敵わないわけで、その子どもは野球を学ぶ機会を失ってしまう。

保護者の方針や、収入によって子どもの体験格差が生じていることが事実ですが、小さいころにどれだけの経験を積めているかということが、子どもの新たなチャレンジへの鍵になっています」

メジャーリーグの球場。(提供:久保恵一さん)
メジャーリーグの球場。(提供:久保恵一さん)

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「子どもにとってのベスト」を意識した社会システム

州によって違いはあるものの、久保さんの住むオンタリオ州は、”OHIP”という国民健康保険の制度により出産に関わる費用は無料。産後24時間以内に病院を出たあとは、家庭での子育てがスタートします。

「予防接種を受けた記録カードは渡されるものの、母子手帳がないので、子どもの身長や体重などの情報は、保護者が個人的に記録をつける必要があります。

ここもやはり、多文化主義だからか、文化も体質もバラバラだという前提で体重管理などは厳しくないですね。

iStock.com/damircudic
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ベビーシッターやナニーは普及していて、カナダ社会に組み込まれていると感じます。

子育て制度ではカナダにはチャイルドベネフィット(CCB)という制度があります。子どもの年齢や収入にもよりますが、18歳未満の子どもを持つ家庭に最大で年間約6500カナダドル、日本円で約50万円が支給されます。

また、産休と育休は合わせて78週間、約1年半の取得が可能です。男性の平均育休取得は13週。取得率はカナダ全体で約30%になります。

オンタリオ州は12%ですが、フランス語圏であるケベック州は70%近くの男性が育休を取得しています。給与のおおよそ55%が支給される州が多いことに対して、ケベック州では70%以上が支給されるため、取得率にこれだけの差がでているようですね。

育児に関しては、結果的に母親が費やす時間が長いというケースはままあると思いますが、だからといって、子育ては女性の仕事だという感覚はありません。

家庭にもよるでしょうが、子育てにおいて男女の役割分担もありません。私も平日仕事が終わったあと、子どもといっしょに庭でバーベキューしたり、バスケットやサッカーをしたり子どもたちとの時間を楽しく過ごしていましたし、カナダではごくごく普通に見る父親と子どもの姿です。

通学も保護者同伴が基本で、子どもが父親と通学しているのは、日常の光景です」

iStock.com/SolStock
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子どもは守るべき大切な存在だ、と考えられているため、明確な法律はありませんが、12歳以下の子どもがひとりでいることは禁止されています。保護者同伴の通学もこれが背景にあり、場合によっては虐待と捉えられる可能性があります。

離婚した場合も片親だけが親権や養育権を持つことはなく、いずれの保護者も子育てに関わる制度が取られていると久保さんはいいます。

「子どもにとってのベストが何であるかを考えたときに、片親だけにしか養育の権利がないことは子どもにとっての最善ではない、と考えられています。

カナダは離婚家庭が多いのですが、共同養育制度が取られていて、両親が同じように権利を持って子どもに関わります。週の前半は母親の家、後半は父親の家と行き来するケースもあり、それぞれの新しいパートナーに関しても子どもにも比較的オープンにしています」

カナダ全土で同性婚が認められたのは2005年。LGBTQもオープンで、家族のあり方は多様である、という考え方は子どもたちにも浸透しています。

トロントのLGBTQパレード。(提供:久保恵一さん)
トロントのLGBTQパレード。(提供:久保恵一さん)

国民が常に「リラックス」したストレスフリーな働き方

「働き方に関しても、子どもファーストの子ども中心主義です。

職種やエリアにもよると思いますが、9時~17時で働く私のようなオフィスワーカーは、『子どもの学校行事があるから早く帰るね』と言えば、快諾してくれます。むしろ、それに対して悪く言われるようなことがあれば、会社側が社会からの信頼を失うのではないかと思うほど。

iStock.com/Doucefleur
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ただ、仕事の成果に対してはシビアなので、成果を上げなければクビを切られます。2012年に日本からカナダに来た当初は『子ども優先で、仕事は大丈夫なのか?』と思っていましたが、子どもを寝かしつけたあと、夜中から仕事を再開していたりするんですね。

仕事の成果を出さねばというプレッシャーはありますが、働き方においても『こうでなければ』という考え方がなく、時間の使い方はフレキシブル。育児と仕事のバランスの取り方は、個人の裁量に任せてもらえます。

子どもが発熱したとき、会社に出社できない旨を急いで電話をしたところ、『なぜそんなことで電話してきているの?あなたが今やるべきことをやればいい。仕事なんてその後でいいんだから』と言われました。

自分がそのときに、大事にしたいことにフォーカスすることができるし、それに対して社会がすごく寛容で協力的。カナダに移住してからというもの、社会的ストレスから解放されたように感じます。

保護者が社会的ストレスをあまり感じず、ゆったりとした気持ちで子育てをしているから、子どもたちは個性を伸ばし、アイデンティティを確立していけるのでしょうね」


<取材・執筆>KIDSNA編集部

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<連載企画>世界の教育と子育て バックナンバー

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