【天才の育て方】#13 大川翔 ~生命の謎を解明する20歳の研究者[前編]

【天才の育て方】#13 大川翔 ~生命の謎を解明する20歳の研究者[前編]

KIDSNA編集部の連載企画『天才の育て方』。 #13は、12歳で中学を飛び級し高校へ入学、カナダ名門5大学に奨学金付きで合格を果たした大川翔さんにインタビュー。現在は生物学を研究する彼は、どのように育ったのだろうか。その背景を紐解いていく。

12歳で飛び級、14歳でカナダの高校を卒業し、世界ランキング上位の複数大学に奨学金付きで合格した大川翔さん。ブリティッシュコロンビア大学卒業後は、東京大学、慶應義塾大学大学院、トロント大学大学院で研究を行い、今春、ブリティッシュコロンビア大学院のバイオメディカル・エンジニアリングに合格し、秋から入学予定だ。

前編では、翔さんのご両親も交えて英語力をどのように育んだか、そして飛び級やギフティッドについて聞いてきた。後編では、翔さんを研究者の道へと向かわせた生き物への興味と、それを支えてきたご両親のかかわりについて聞いていく。

ひとつでも多くの謎を解き明かしたい

――幼いころはどのようなことに興味があったのでしょう?

大川翔さん

翔「恐竜が好きでした。一番気に入っていた絵本は『たたかう恐竜たち』(黒川みつひろ 作・絵、小峰書店)のトリケラトプスシリーズ。まだ文字は読めませんでしたが、暗唱できるほど何度も何度も読み聞かせてもらっていました。

そこから、どんな恐竜がいるのか、なぜ恐竜が絶滅したのか、もっと知りたくなっていった。古生物学専門のロイヤル・ティレル博物館や、アメリカに複数ある恐竜博物館にも行き、アロサウルスの発掘も体験しました」

――恐竜への興味が今の研究に繋がっていると思いますか。

翔「恐竜からはじまり、生き物全般に強く興味を惹かれるようになっていきました。糖尿病を患っていたクラスメイトの女の子や、がんで亡くなった祖父を身近に見ていて、人間の身体のメカニズムや、難病の治療法を解き明かしたくなった。それが今研究している生物学の研究へと繋がっています」

7歳のとき、アメリカ・モンタナ州にあるロッキー山脈博物館(Museum of the Rockies)に。(提供:母・大川栄美子さん)
7歳のとき、アメリカ・モンタナ州にあるロッキー山脈博物館(Museum of the Rockies)に。(提供:母・大川栄美子さん)

――いくつもの名門大学に合格したなかで、ブリティッシュコロンビア大学を選ばれた決め手は?

翔「素晴らしい大学ばかりでとても悩みました。僕がブリティッシュコロンビア大学を選んだのは、僕が興味のあったサイエンス、中でもヘルスサイエンスに力を入れている大学だということ。

奨学金をいただいたうえ、教授がリサーチアシスタントの仕事までオファーしてくださったので、複合的にみて一番いいと思いました」

――今はどのようなことを研究されているのですか?

大川翔さん

翔「DNAバーコード・フュージョン・テクノロジーという革新的技術を用い、合成生物学という分野を研究しています。

合成生物学とは、DNAやたんぱく質などの生体構成物質を人工的に改変し、それらを組み合わせて新たな生命現象を作り出すことにより、生命システムを理解しようとする学問です。

たとえば、ゲノム編集技術であるクリスパーキャスナインシステム。がんや難病の一部は、遺伝子の突然変異が引き金となり発症します。DNA二本鎖を切断し、遺伝子配列を正確に認識することによって、これまでの技術よりも低コスト・短時間で遺伝子改変が可能になりました。

あとはオーダーメイド医療と呼ばれる分野のインディビジュアルメディスン。ひとりひとりに効果のある薬の研究を行なっています。

小さいころから謎解きが好きで、真相究明というか、まだ分かっていない生き物の謎を解き明かしたい、という欲求が僕の根幹にあります」

“知りたい”ことだから、勉強を勉強と思わない

――素朴な疑問ですが、これまで、毎日勉強を続けていてイヤになったことはないのですか?

翔「勉強が苦になったことはありません。小さい頃から毎日やってきたことなのでやらないと逆に気持ち悪いくらいです(笑)」

大川翔さん

父「『これができたらご褒美をあげる』といった外的モチベーションには限界があり、ずっと継続することは難しい。それよりも内的モチベーションを持たせたほうがいい。『勉強しなさい』と押し付けるのではなく、『知りたい』という欲求を殺さないことを一番に考えました。

勉強が苦になっていないのは、本人が遊びだと思っているからでしょうね。自分がやりたいからやっている、という状況が習慣化し、継続できているのだと思います」

翔「小学校のころは、母が勉強計画を立ててくれて、実行、確認、改善を繰り返していました。12歳で高校に進んでからは、自分で計画を立てるようになり、夜寝る前には必ずToDoリストを作って寝るようにしていました。

小さいころは、計算問題や日本のことわざを両親と競争しながらゲーム感覚で覚えていましたし、勉強に煮詰まったときはピアノを弾いたり、家の中で歩きながら本を読んだり考え事をしたりしていました。

それから、僕は性格的にパーフェクショニスト(完璧主義者)な部分があり、聞かぬは一生の恥と思って分かるまで追求します。わからないことを聞くことで質問のスキルが上がります。逆に、カナダでは授業中に、進みの早い生徒がクラスメイトの先生になることも多く、他の人に教えることで自分の理解が深まるということもありました」

7歳のとき、アメリカ・ワイオミング州にあるワイオミング州恐竜センターから車で更に奥地の山に入ったところで、実際に本物のアロサウルスの化石を発掘。(提供:母・大川栄美子さん)
7歳のとき、アメリカ・ワイオミング州にあるワイオミング州恐竜センターから車で更に奥地の山に入ったところで、実際に本物のアロサウルスの化石を発掘。(提供:母・大川栄美子さん)

――ご両親によく言われていたことはありますか?

翔「勉強しろと言われたことはありませんが、母には早く寝なさいといつも言われていました」

母「習慣化していたので勉強について言ったことはありませんが、睡眠については家訓のごとく言い聞かせていました。生活習慣を整えることで、長い目で見たときに、より効果的により多くの勉強ができます。集中力が全然違うのです。

夜寝る前は軽い勉強にし、朝起きてから、すっきりとクリアな頭で勉強させるようにしていました」

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失敗は行動した証だから“褒める”

――翔さんが逆境を乗り越えるにあたって大切だと思うことを教えてください。

翔「やっぱり運と努力と危機感ですね。まず危機を感じて、努力をしたうえで力を発揮する。そこで補えないものは運でなんとかするしかない」

大川翔さん

父「本人はあまり自覚していないと思いますが、運がいいとは思います。すごい才能があっても世に出ていない人はたくさんいらっしゃいますから。

そんななか、いろいろな大学からお声がけいただき運を掴んできた。運がいい人と、運を掴めない人の違いって結局、行動力なんですよ。

受け身ではなく、行動することが運を掴むひとつの方法だと思います。翔がなぜ行動できるのかというと失敗を恐れないから。子どもの頃はとにかく『どんどん失敗をしなさい』と言っていました。

大人になってから失敗するよりも、失敗しても大したことないと子どものうちに知っておく。そうすることで恐れずに行動できるんです」

翔「スピーチコンテストで勝てなかったときや、気後れして先生に質問にいけなかったとき、高校のプロム(卒業ダンスパーティー)で女の子を誘えなかったときとか、僕が失敗した話をするたびに父は『よかった、よかった』と褒めるんです。

そのおかげで、授業での発表や、スピーチコンテスト、日本の中学受験、ボランティア、空手にピアノと、いろんなことに挑戦してきました。

14歳のとき、ピアノの先生と。着ているのは、中学高校一貫校の最終学年(高校3年・Grade12)だけが着ることができる、高校のフーディ。(提供:母・大川栄美子さん)
14歳のとき、ピアノの先生と。着ているのは、中学高校一貫校の最終学年(高校3年・Grade12)だけが着ることができる、高校のフーディ。(提供:母・大川栄美子さん)

それから、僕の通ったブリティッシュコロンビア大学の校訓は『Tuum est』というラテン語。自分で掴めとか、あなた次第という意味があります。 自分の体験は自分から前に出て掴み、失敗したら原因を分析し、また行動する。そのように捉えています」

母「失敗したならそれは行動した結果。自ら動いたことを褒めるという意味合いで褒めています」

結果ではなく『行動』や『過程』を褒める、そしてそれを繰り返す。そうすると子どものセルフエスティーム(自己肯定感)が高まり、失敗を恐れず様々なことにチャレンジできるようになっていくと思います」

天才にきく天才

天才が思う天才とは

――翔さんが「この人は天才!」と思う人はいますか?

大川翔さん

翔「ピアニストのウラディミール・ホロヴィッツ。彼の人間離れした超絶技巧は天才的です。『完全であることが不完全だ』という言葉を遺し、ピアニストの常識に踏襲しない演奏スタイルに惹かれます。

翔さんは公益財団法人 孫正義育英財団が支援する人材でもある。財団に所属する人々のことも天才だと名を挙げる。

翔さん「僕の研究分野である合成生物学でもプログラミングからのアプローチが必要となることがあります。だからプログラミングを勉強しているということもありますが、率直にいうとプログラミングはおもしろいからやっています。

孫正義育英財団にはプログラミングの天才が何人かいるので彼らから学ぶことは多い」

――では尊敬する人はどんな人ですか?

翔「子どもの頃は伝記で読んだ物理化学のマリ・キュリー。今は師事している東京大学の谷内江望先生。それからサンフランシスコの研究所で共に研究させていただいた山中伸弥先生です」


大川翔はなぜ天才なのか

――なぜ、ご自身は天才だと言われるのだと思いますか?

大川翔さん

翔「カナダの環境と制度に恵まれ『天才』と呼ばれているに過ぎないと思います。日本にも同じようにギフティッドや飛び級の制度があれば、抜きんでた人はもっといるのかもしれない。

ただ、どちらかを選ぶならば自分にとってチャレンジングな方を選んで行動してきたこと。そして努力の継続。この二つが今の僕を作っているのかもしれません」

――研究者という道を進む翔さんですが、ご両親はどのように応援されていますか。

父「日本にいたら話題にもならないただの大学生だったかもしれない。いろいろな条件が揃って今の環境があることに感謝し、親の思いとしてはきちんと自立して生きていってほしいというだけです」

母「自分自身で自分の生き方を創造し、自分の進む道を自分で見つけられるようになってもほしいと願っています。

研究者の道はいばらの道ですが、自分の望んだ道に進んで好きなことに熱中し、社会に貢献できるのであれば、こんなに幸せなことはないです。失敗を恐れず、新しいことにどんどん挑戦していってほしいですね」

編集後記

親と子、というよりひとりの人として対等にある関係性を垣間見た取材だった。生まれたときから、ずっと隣で一緒に歩んでこられたご両親への厚い信頼があってこそ、ひたむきに学習に向かい、「知りたい」「謎を解きたい」という欲求を糧に、挑戦する道を選び続けることができるのだろう。

人類が健康に長生きするために、合成生物学の分野では日々研究が進められている。「ひとつでも多くの謎を解き明かしたい。それで人の役に立てるなら嬉しい」そう語る翔さんの、世界を舞台に活躍する研究者としての姿に目が離せない。

大川翔さん
書影

ザ・ギフティッド(扶桑社)

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僕が14歳でカナダ名門5大学に合格できたわけ(学研プラス)


<撮影>小林久井(近藤スタジオ)
<取材・執筆>KIDSNA編集部

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