【ストレートネック】子どもの慢性疲労を招く“スマホ首”の怖さ

【ストレートネック】子どもの慢性疲労を招く“スマホ首”の怖さ

ネット環境が整った時代に生まれ、スマホやタブレットなどのデジタルデバイスの進化とともに成長してきた現代の子どもたち。親世代の子ども時代とは、社会環境や生活の仕方が変化した今、子どもたちの心身には新たな問題が起きている。今回は、ストレートネックについて、上高田ちば整形外科・小児科 院長の千葉直樹先生にインタビュー。

現代病“ストレートネック”の影は子どもたちにも

子どもがスマートフォンやタブレット、ゲームを使用しているときに気になるもののひとつに、姿勢の悪さがある。

なかでも近年は、スマホ首とも呼ばれるストレートネックが顕著な問題だ。内閣府の令和元年の「青少年のインターネット利用環境実態調査」によると、0歳~9歳までの低年齢層の子どもの57.2%がインターネットを利用しており、スマートフォンやタブレット、携帯ゲーム機などでインターネットを利用した時間は年々増加していることが分かる。

出典:「青少年のインターネット利用環境実態調査」(内閣府)を加工して作成
出典:「青少年のインターネット利用環境実態調査」(内閣府)を加工して作成

上高田ちば整形外科・小児科の院長、千葉直樹先生(以下、千葉先生)は「ストレートネックは、患者さんの感じ方でいう“症状”ではなく客観的で明確なデータとして現れる“所見”。ドライバー、デスクワーク、大工、塗装業などの職種に多くみられる職業病だったのが、近年では子どもにも増えている」と警鐘を鳴らす。

ストレートネックがもたらす慢性的な症状

頭の重さを首だけで支える状態

「レントゲンなどで首の骨を側面で見たときに、本来はゆるやかに湾曲している生理的な首の骨の配列がまっすぐになっているのがストレートネック。

頭部の重心が前に移動し、顎が前に突き出したような姿勢になるため頭を首の筋肉だけで支えなくてはならなくなり、体に負担のかかる姿勢を長時間続けることで、首にストレスがかかり続けます」

千葉直樹/上高田ちば整形外科・小児科 院長。日本整形外科学会 整形外科専門医。整形外科・リハビリテーション科を担当。子どもが楽しく通えて、保護者も安心のクリニック作りを目指して地域に貢献する医療に取り組んでいる。
千葉直樹/上高田ちば整形外科・小児科 院長。日本整形外科学会 整形外科専門医。整形外科・リハビリテーション科を担当。子どもが楽しく通えて、保護者も安心のクリニック作りを目指して地域に貢献する医療に取り組んでいる。

頸椎とは頭部と体幹の間に位置し、7つの骨から構成されている首の骨。生命を維持する脳幹下部と手指や下肢の機能をつかさどる神経(頚髄)が通っている。

 

スマートフォンの操作により首にかかる負荷は、想像以上に大きいことが2014年に明らかになっている。これは、アメリカの脊椎専門のクリニックの外科医長を務めるケネス・ハンスラージ氏が解明したものだ。

成人の頭の重さは約4~6kgあり、頚椎を含む背骨と、首や肩、背中の筋肉がこの重さを支えている。うつむくだけで、頭の重さの数倍の負荷が首にかかるという。

 

子どもも大人と同様の症状が現れる

ストレートネックになることによって、頸椎の上のほうが圧迫されると、耳鳴りやめまい、頭痛、自律神経失調症などにつながり、頸椎の下のほうが圧迫されると、首や肩のこり、手・腕のしびれが現れやすくなる。さらに、頸椎と頸椎の間にある椎間板が圧迫されて突き出し、いわゆる首のヘルニア(頸椎椎間板ヘルニア)になるケースも多い。

「これは子どもにとっても同じで、パソコンやスマートフォンの長時間利用、読書や勉強などによってたえず首にストレスがかかり続けると、慢性的な血行不良となり、自律神経に作用して慢性的な疲労感・倦怠感、眼精疲労、動悸・不安感・食欲不振・不眠などが生じる可能性があります。

未就学児~小学生の子どもの場合、加齢に伴った原因は少ないため、症状としては“痛い”、“肩がこる”といったものが大半を占めます。痛みやしびれを引き起こす手や上肢の狭窄症状は一般的に大人と比較して少ないですが、中には首の症状としての自覚がなく、『なんとなく調子が悪い』『朝が弱い』『朝礼ですぐに倒れてしまう』などといった症状のみを訴えることもあります。これらは、実は首の自律神経による症状だった、ということが多いのです。

iStock.com/bymuratdeniz
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また、いわゆる片頭痛といわれるものの中には、首の症状からくるものもかなりあります。お風呂に浸かって楽になるものであれば、首の症状からくることが多い。一方で、お風呂に浸かって頭がズキズキするようであれば、自律神経への影響からくる血管性頭痛の可能性が高いため、どちらに属するかお風呂で検証してみてください」

ストレートネックは、自宅の壁を利用してチェックすることもできる。身体測定で身長計を使うときと同じように、かかと・お尻・肩甲骨を壁につけてまっすぐ立ったときに、意識しないと後頭部が壁につかない場合や、意識しても壁につけることができない場合は、ストレートネックの可能性があるということだ。

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スマホだけでなくさまざまな習慣が原因に

幼児期は習い事や寝姿勢に注意

自律神経の不調や、首や肩のこりによって、寝つきが悪い、集中力が続かないといった問題が起きてくる。これは子どもの成長に悪影響を与え、学力低下にもつながると千葉先生は言う。

「子どもの生活のなかにあるさまざまな習慣が、ストレートネックの原因となります。

4歳以下の幼少期には、側弯や、もともと鎖骨の位置が低いなで肩の子など、生まれながらの骨格の問題から症状が現れることが多い。習い事をはじめる5~6歳頃になると、運動によってストレートネックが生じることも増えてきます。

水泳やテニスなどで首を反る動作や、ダンスなどで首を激しく振る動作は首に負担がかかります。運動の前にストレッチをして、ゆっくり大きな動作を心がけることが大切です」

iStock.com/monkeybusinessimages
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体を動かす習い事以外にも、ピアノや学習塾などがありますが、一定時間同じ姿勢を続けるという点で首に負担がかかることは同じ。さらに近年は、自宅でスマホを利用したりタブレット学習を行う場合でも、正しい姿勢を心がけることが必要だ。

「意外と見落とされているのが、子どもの体に合った枕を使うこと。子どもは大人に比べて枕をせずに寝ることが多いですが、子どもでも寝違えは起きますし、寝姿勢が悪いと首を痛める可能性があります。

いい睡眠をとって自立神経を正常に保つためにも、子どもに合った枕を使用して、寝るときの姿勢を整えてください」

topvectors- stock.adobe.com
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体に合った枕の基準は、仰向けや横向きで寝たときに体の芯が一直線になることと、低反発で首をしっかり支えられることの2つ。子どもの首に負担がない状態でいられる時間をできるだけ長く確保することが、ストレートネックにならないための重要なポイントだ。


小学生は勉強やゲーム中の姿勢に注意

小学校に入学すると、体育の授業での運動、読書や勉強中の姿勢、ゲームやスマートフォンの利用など、ストレートネックの原因となる習慣が増えていく。

「学校や自宅で勉強をする時間や自分用のスマートフォンを持つようになる子ども増えると、固定された姿勢、特に前かがみの状態で長時間過ごすことでストレートネックに。

また、小学低学年~中学年は、体育のマット運動で首を痛めることが多い時期。前転・後転はきちんとした指導の下で、頭から接地しないやり方を学ぶことが必要です」

同時に、スマートフォンやゲームをする時間が増えることで運動不足になり、それに伴って首の骨を支える筋力が落ちてしまうことも問題だ。

「小学校高学年になると、学校の授業や部活で行う運動によって発症することがあります。特にバレーボールやバドミントン、バスケットボールなどは首を後ろに曲げて上を向く頻度が高いので、首を痛めやすいスポーツと言えます。

中学受験をする子どもは、受験勉強で長時間机に向かっているうちに、下を向いた前屈みの姿勢が続いてしまいます。寝ながらスマホや本などを見るときの姿勢も含めて、体に負担のある姿勢を『不良姿勢』といいますが、この不良姿勢でいる時間が小学校高学年で長時間化することが多いですね。

不良姿勢は、特に前屈位(前かがみ)であること、そして姿勢を長時間固定することが首に負荷になります」

生活習慣を意識して変えていく

「子どものストレートネックにはほとんど明確な原因があります。湿布や塗り薬程度なら構いませんが、痛み止めの薬で症状をごまかすのはやめましょう。原因が薬で塗りつぶされてしまうと、かえって症状が悪くなることがあるからです。

病院では整形外科医師や理学療法士がひとりひとりに合わせたトレーニング方法、姿勢の指導などを行います。セルフケアを試してもなかなか治らない場合など病院受診も検討してみてください」

昨今子どものストレートネックが増えている背景にはスマートフォンやゲームの存在が大きく、家庭でできることの中で一番大切なのは、子どものスマートフォンやゲームの利用時間を決めてきちんと管理することだと千葉先生は言う。


前屈みにならない姿勢を心がける

iStock.com/fotostorm
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「日本眼科医会の『子どものIT眼症』によると、IT機器を使う際は、

(1)50cm離しても楽に見える状態のものを使う

(2)連続使用は50分以内にする

(3)目との距離を必ず50cm以上離して見る習慣を付ける

とあるように、できる限り画面から目を離して、なるべく前かがみにならないように気を付けましょう。

そして、連続使用が30分経ったら、姿勢を切り替えることが大切です。大きく背伸びをしたり、肩をゆっくり回し、体を動かすことで血行を促すと同時に姿勢をリセット。首を早く回すことはかえって首を痛めることになるので注意してください」

子どもによく見られるデジタルデバイスを使用しているときの姿勢について、千葉先生が検証した。

「写真左は床にスマホやゲーム機を置いて四つん這いになるようにして見たときの首の状態で、首はストレートネック~後弯の状態となるため不良姿勢。うつぶせで寝そべって見た場合も、首が後方に反らされ、首の後ろを支える筋肉や神経に負担がかかるためよくありません。

写真右は、ソファやベッドに仰向けに寝転がり、スマホやゲーム機を手で持ち上げるようにして見た場合。枕やソファの高さにもよりますが、一般的には首はストレートネック~後弯の状態になりこちらも不良姿勢です。どちらも首には負担となります」

写真左:床にスマホやゲーム機を置いて四つん這いになった姿勢。写真右:ソファやベッドに仰向けに寝転がり、スマホやゲーム機を手で持ち上げるようにして見た姿勢。(検証:上高田ちば整形外科・小児科 千葉直樹)
写真左:床にスマホやゲーム機を置いて四つん這いになった姿勢。写真右:ソファやベッドに仰向けに寝転がり、スマホやゲーム機を手で持ち上げるようにして見た姿勢。(検証:上高田ちば整形外科・小児科 千葉直樹)

体に無理なくストレッチを行う

運動や長時間の作業で体に負担がかかる場合、大人の場合は意識的にストレッチをする人も多いが、子どもはしなかったり、しても頻度が少ないと千葉先生。

ストレッチをして首周りの血液の循環をよくすると、溜まった炎症物質や疲労物質を流すこともできます。30分に1回は肩を回す、背伸びをするなど、首周りのストレッチを行いましょう。

iStock.com/mokuden-photos
iStock.com/mokuden-photos

親子で取り組むセルフケアとして一番簡単にできるのは、毎日の『背伸び』。両手の腕を組んだ状態で頭の上にまっすぐ持ち上げるようにゆっくりと10秒以上体を伸ばすと効果的です」

体に負担のかからない使い方を徹底する

娯楽から学習まで、家でも学校でもデジタルデバイスを使わない日はない現代。子どもも大人と同様、体に負担をかけない使い方を見直し、成長段階にある体や心に慢性的な影響を与えないようにすることが第一だ。

「子どものストレートネックは、毎日の生活習慣の中に原因があることがほとんどです。それらを見つけて、ひとつひとつ改善していくこと。そのためには、家族でよく話し合って、家庭内のルールをしっかり決めることが大切です」


<取材・執筆>KIDSNA編集部

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